25.襲撃 2
ソフィアとアリアの仲間達
宿を出て辺りを見渡す。グレイさんが作った敵のいない空間に無事に出た。敵は自分の意志が無くなって誰かに操られている様な感じで……ゆっくりとアタシ達を取り囲もうとしている。通りの前後は密集していてどちらにも進めそうにもない。そして……通りの先、闘技場の辺りは……黒い霧が渦を巻いている。
「ソフィ姉ぇ。北の方に障壁、張ってっ! エァリエスさん、ギザキさん、グレイさん、南の方へっ! この先の広場まで移動するっ! ネメシアさん、ノィエ、気をつけてっ!」
なんでだろう?
アタシが指示出している。でもアタシの指示を待っていたかのように全員が動き出した。
ソフィアが張った障壁は強力。だけど障壁を張っている間はソフィアはその場を動くことはできない。それでも一方からの攻撃を全て防ぐことができる。
それに敵といえども元は町の人だ。何かに操られているだけ。ソフィアやヴィオラさんは気絶させることはできても……殺めることはできない。それはエァリエスさんもギザキさんもグレイさんも同じようで、殴り蹴り散らすだけ。ノィエがギザキさん達が散らした人達の額に呪符を貼り付けて動けなくするのは……敵の数を減らすということでは有効……じゃない。直ぐに別の敵に剥がされて復帰してくる。
広場まで……ヴィオラさんに抱えられて移動していたアタシは声を出した。
「広場の先に行かないでっ! 半分ぐらいは幻だからっ!」
半分っていうのは適当だけど……幻であろうコトは確信している。そして……全員がアタシの言葉に驚いている。とは言え、今は「何故そんなことを?」と問う時では無いことも全員が判っている。
「ヴィオラさん。広場の前に障壁張ってっ! ソフィ姉ぇが帰ってくるのを待つっ!」
素早く、ヴィオラさんが広場と通りの境に障壁を張った。流石は寺院出身者だ。作った障壁は巨大で敵は誰も障壁を越えては来られない。程なくして……敵の群れの中から何かが光り……光りは上空へと飛び上がった。ソフィアだ。敵を浄化の術らしい閃光で惑わして上空へ飛び……そしてそのまま飛んでアタシ達の上へと……
「ヴィオラさん。障壁を一瞬だけ解いてっ! みんな、障壁が無くなった時に気をつけて」
と、グレイさんが障壁の間際で何かの術を準備している。振り返り、ヴィオラさんに目で合図すると……ヴィオラさんが障壁を解いた直後にグレイさんの手が地面を叩き……術が発動した。……後で聞いたら地閃雷とかいう土系の稲妻の術。地面を閃光が走り回り、敵達は一瞬だけ痺れて動けなくなっていた。……アタシ達もちょっと痺れて動けなかったけど、襲われなかったから……まぁいいや。
その隙にソフィアが合流。直後に痺れているヴィオラさんの代わりに障壁を張った。
これで全員が揃った。さぁこれからだ。……と、その前にグレイさんがエァリエスさんに殴られていた。
「もうちっと術の種類を選べっ」って。仕方ないよ。緊急時なんだから。
「さあ……これからどうするの?」ってノィエが尋ねてきた。「何の考え無しに指示してないよね?」と言いたげだ。勿論、考えているわよ。兎に角、いまはソフィアの完全防御結界障壁の中で世界一安全なんだから慌てない。
「大丈夫。先ずは敵を……」
通りの先を睨む。町の中心にある闘技場。その真ん中に斜めに立っている呪紋様の石柱。そして黒い霧が渦巻いているのは……間違いなく石柱の上にある灰色の水晶。魔石に間違いない。誰かは知らないけど……この町に配された封印呪紋様の中心。
「ソフィ姉ぇ。あの石柱の上にある水晶……判る? アレを浄化の術で打ち砕いて。それで……」
ソフィアはアタシの言いたいことが判ったみたいで、にっこりと笑った。
うん。ソフィアの敵なんてこの世には居ない。魔王だって片手間で倒すだろう。
「はぁあぁぁぁぁぁっ!」
ソフィアの気合いと共に両手の間に作られた虹色の法力宝珠が小さく凝縮されていく。片手に宝珠を持ちながらもう片手で指を伸ばし髪をかき上げて……一本の髪を核にして霊精が固まり銀針……いや、白銀の矢となった霊精に虹色の宝珠が溶け込み……虹色の矢となった。浄化の術の化身となった矢を杖にあてがうと同時に杖の両端からのびる霊精の弦。いまや強弓となった杖を引き絞り……念のために言っとくけど杖は撓ってはいないよ……虹色の矢を放つ。
矢は……障壁を通り抜け……敵達の上空を音を立てて飛び行き……石柱の灰色の魔石に命中。脆い音と共に虹色の光りが旋風となって……町を覆った。
アタシ達も眩しくて目を閉じていたけど……ソフィアの「もう大丈夫よ」という声に促されて目を開けて確認する。
敵は……町の人達はぐったりとして地に伏せ倒れている。
終わった?
違う。
これから始めるんだ。
読んで頂きありがとうございます。
これはアコライト・ソフィア、アリアとソフィア、闇の剣、岬岩城の姫の後編に当たります。
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