25.襲撃 1
ソフィアとアリアの仲間達
25.襲撃
ソフィアに抱きかかえられて宿屋へ。
宿に入る前にちらっと見た闘技場は……なにやら妖しい雰囲気。ソフィアが怪我人を治さなかったりしたのが……影響しているのかな? というよりもアタシが怪我人となったせいかも知れないけど…… ともあれ、診て貰ったら全身打撲で、結構、酷いらしい。でも、ソフィアの治癒の術は確かだ。細胞というか筋肉が治っていく感じって……結構心地よい。でも懈くて動かしたくなくなるのは……浄化の術が混じっているからなんだろうな。ソフィアは浄化の術が基本魔法だからどの術を使っても浄化の術の効果がはいってくるんだから仕方ない。
ソフィアとエァリエスさんが何で直ぐに来たのかを聞くと……アタシが作って渡した髪の紐が切れたらしい。それで二人とも胸騒ぎして……探しに来てくれた。ということはアタシが作ったお呪いの品でも効力はあるんだねって惚けてみたら「ははは。だったら、さっさと元気になって作り直しておくれ」だってさ。エァリエスさんには敵わないな。ソフィアは「そんなこと言ってたら誰も助けに来なくなるわよ」って怒ってたけど。真面目だな。真面目さでソフィアを上回る人はいないだろうな。
ヴィオラさんが試合を終えて戻ってきて、念のためアタシを診てくれた。
「ん〜ソフィアもワタシも術は過剰になりやすいんだけど……巧く抑えたね」って……突っ込んで良いのか悩むぞ。その言い回し。
「もう少し良くなったら、ワタシが細かく直してあげるよ。コレで」と長い指の先から……鋭い爪がにょろんと飛び出した。聞けば……爪で経絡孔とかという箇所を刺激して治すらしい。「ワタシがまともに術をかけたら大抵は筋肉が吹き飛んだりするからね。ワタシの治療の仕方はコレなのさ」って……怪我人に怖いことを言わないように。って、ソフィアとエァリエスさんとネメシアさんに突っ込まれていた。
程なくしてノィエが戻ってきて……帰り道で薬草を摘んできてくれていた。
「アンタね。遺跡探検家が遺跡散策中に怪我するなんて看板倒れもいいトコね。しっかり治しなさいっ!」って……泣きながら怒っていた。ははは。面目ない。「ありがとう」って素直に謝ったら「じゃ薬草煮出してくるから覚悟しなさい。特別に苦く仕立ててあげるから」だって。ギザキさんも大変だな。ノィエが婚約者じゃ。暫くしてからギザキさんも戻ってきて見舞ってくれた。「大丈夫か? まぁ、白魔導師がこれだけ揃っていれば大丈夫か。ノィエの薬草茶? アレは苦いぞ〜 覚悟しといてくれ」だってさ。似たもの夫婦(予定)だな。
しかし……怪我してこれだけ見舞ってくれるなんて……人生初めてかも。
なんか嬉しい。
ソフィアもエァリエスさんもずっと横にいてくれる。ほんと、嬉しくて……涙が出てくる。
今までは……一人で旅して……風邪を引きかけても、気合いで治していたけど……護ってくれる人がいるのって……ほんと、嬉しい。一人じゃないってコトだけで嬉しいんだね。
結局、なんだかんだでみんながアタシ達の部屋で夕食。狭いから立食パーティみたいになっている。隅でコソコソしているグレイさんをエァリエスさんが「アンタ。こんな時に隠れてどうすんのさ。アリアを助けたんだろ? ちっとは威張って前に出たらどうなんだいっ」って足蹴にして突っ込んでいた。
なんか良いコンビだ。命の恩人を足蹴にするなんて、仲が良くなければできないコトだろう。ソフィアはそんな様子をジト目で見ていたけど、睨むほどじゃなくなっているのは……グレイさんの人柄が判ってきている所為だろう。
そうそう。ノィエの薬草茶は飛び切り苦かった。「良くなるまで作るからね」って言ってたけど……飲みたくないから全力で回復するしかないな。
……ひょっとして、そういう方向で効力を発揮しているのかな?
そんな感じで結構、夜遅くまでみんなで騒いでしまった。
ふと気づくと……窓の外が騒がしい。見れば濃霧が北からの風に乗って流れ来ていた。黒に灰色を混ぜたような霧が嵐のように吹き荒んでいる。
「珍しいな。この辺りで霧なんて」とエァリエスさんが呟く。
そだね。この辺りは乾燥地帯のハズ。水っけは朝夕に露が降りてくるぐらい。
「さて、そろそろお暇するか」とギザキさんの声で窓の外を睨んでいたノィエ共々、三々五々とみんなは部屋に帰っていったけど……エァリエスさんが最後に残って「元気になっても大会が終わるまでは探検には行かないでくれ。アタシも同行するから」って手を握ってくれた。
なんか嬉しい。心配してくれる人がソフィアの他にもう一人できた。
アタシは黙って頷いて……布団を被って涙を見せるのはやめておいた。
その夜。
夢の中でネメシアさんを待っていた。
人形達は……何処かにいるのかも知れないけど姿は見えない。多分、遠慮しているんだろうな。草原の端の方が金色に輝き始めて……その光の中からネメシアさんが顕れた。なんか……神様みたいだな。
『待っていたのね』
(そうだよ。確認したいことがあったから)
『多分……貴女の想像通りよ。つまり……』
(それはいいからっ! 聞きたかったのは……どうして黙っていたの?)
『……私は近いうちに居なくなる。だから……できることを……』
(違うっ! 一人ですることなんかじゃない。遺跡を復活するなんてっ! 精霊への呪いなんて……アタシは確かに何にもできないけど……ソフィアだったら直せるよ。きっと……)
『それじゃダメなのよ。この遺跡は……末裔である私が直さないと……精霊の……』
不意に目が醒めた。誰かがドアを叩いている。いや、外で何者かが宿の壁を叩いている。
「ギザキだ。早く外に出る準備をっ! 囲まれているっ! ノィエの結界呪だけでは持ちそうにもないっ!」
何事と見渡せば……ネメシアさんが居る。夜なのに珍しい。ソフィアもヴィオラさんも旅装のまま寝ていたから直ぐにでも出ることができる。アタシも中着で寝ていたから大丈夫。ささっと支度して荷物を担ぎ、ソフィアの肩を借りて下に降りると……エァリエスさんとギザキさんは完全武装。グレイさんは……元々荷物が少ないのか例の呪紋様の箱と杖を持って玄関の扉を睨んでいる。ノィエはなんかの呪符を手に持って構えている。
やっぱり全員、旅慣れている。昨夜の霧の様子で……何かありそうだと準備していたんだな。
「では……私が正面のを何とかしますから、皆さんはその後で……」とグレイさんが2階へと上っていった。
ソフィアはまだちゃんと歩けないアタシを気にしていたけどヴィオラさんが「大丈夫。ワタシに任せとけ」と片腕でひょいと抱き上げた。ネメシアさんも剣を抱きしめてヴィオラさんの背中にしがみつく。やはり、こういう時には体格が物をいうね。
程なくして……窓から外に出たグレイさんが襲撃していた何者か達を一蹴したらしく、悲鳴と呻き声が響き渡った。
「今だっ! 行くぞっ!」ギザキさんが玄関を叩き壊して外に出る。
外に出て判ったけど……襲ってきているのは……町の人達だった。
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これはアコライト・ソフィア、アリアとソフィア、闇の剣、岬岩城の姫の後編に当たります。
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