22.夢と思い出
ソフィアとアリアの仲間達
22.夢と思い出
その夜の夢。
寝る前にアタシの髪の毛を人形達のネックレスとして巻いておいた所為か、人形達もしっかり居た。最初は『おんや?』と不思議がっていたけど、悩むのは後回しにして一緒に遊んだ。夢の中だとアレだね。人形達というよりも精霊達という感じがするのは……それなりに表情が豊かになっているからだろうね。薄ぼんやりとシッポとか羽みたいのも見えるし。
『連れてきてくれたのね』と声に振り返るとネメシアさんだ。
それにしても精霊達とネメシアさんとアタシがそんなに背が違わないのは……夢の中ということなんだろうね。
一頻り、色んなコトをして遊んで……疲れた感じで草原にみんなで大の字に寝そべった。
(そうだ。ネメシアさんは精霊の世界にも行っていたんだよね?)
『そだよ。なに? 藪から棒に……』
(精霊界って……どんなところ?)
『別に変わったことはないわ。そうね。火の精霊界は地面が溶けかかった溶岩みたいな感じ。水の精霊界……というか、ウェンディの国は氷の世界。アェリィの所は砂漠の上空の霞の上……蜃気楼って知ってる? あんな所。ノーラの所は……土と岩がゴロゴロと転げ回っている……そんな感じよ』
……なんか、何処の精霊界にも行きたくは無さそうな感じなんですけど。
(想像とは……随分違うな)
『きゃははは。理想郷みたいな所とは違うわよ。そんな所は……あぁ、妖精界はアナタが思っている世界に近いかもね。でも、あの子達は……神界への入り口を隠しているだけだから。人間界にも精霊界にも干渉しないわよ』
(ヴィオラさんの所は?)
『ヴィオラの? 岩と砂と……樹の世界よ。人間界との回廊の一つだから精霊界よりも人間界に近いわね』
(ネメシアさんの所は?)
『私の所は普通よ。人間界なんだもの。……まぁ、ちょっと砂漠っぽいけどね。乾燥地帯だから』
(ふぅん。精霊界との回廊があっても変わらないんだね)
『そりゃそうよ。「ここに精霊界への入り口があります」みたいな感じがあったら……意味無いでしょ? 回廊の入り口は判る人だけに判ればいいの。普通の人には判らない方がいいからね』
(そんなモノなのかな)
『そんなモノ。だって「ここに遺跡があります」みたいな感じだったら困るでしょ。遺跡探検家としては?』
確かに。そんなんだったら中のお宝なんて、あっというまに無くなるな。
『だから精霊界の入り口なんてのも行きたい人にだけ判ればいいのよ』
なるほどね。
『話は変わるけど……直って良かったね』とネメシアさんは精霊達というか人形達の様子をみてノーラを抱き上げて膝枕にさせてあげ……ノーラのお腹をぽんぽんと叩いた。
『ん。ソフィアのお母さんが直したところも大丈夫ね』
(ソフィ姉ぇのお母さん?)
『そうよ。強盗に斬られたところ。ソフィアのお母さんが精霊魔法で繕い直したのよ』
なにそれ? 随分と込み入った話だな……
聞けば、ソフィアが武器屋の家族の一員に迎入れられた直後に強盗に襲われたらしい。
『その時に……お父さんとお母さんとお姉さんが留守で……ソフィアが一人で店番というかまだ赤ん坊だった妹さんの子守をしていたんだって。人形を使ってあやしててね。そして誰かが帰ってきたと思ったら……店に入ってきたのは強盗だったらしいのよ』
『それで……息を潜めて隠れていたらしいんだけど……妹さんが泣き出してね。慌てて……人形を投げつけて……妹さんを抱きかかえて逃げ出したのよ。全力で……』
『強盗は投げつけられた人形達を反射的に切り刻んで……追いかけてきた。でもソフィアが逃げ出して外に出たときにお姉さんが帰ってきて……』
(どしたの?)
『……互角にやり合ったんだって。なんか既に剣を振るうと並みの大人顔負けだったらしいのよ』
あ〜 なんか剣術大会で史上最年少優勝したとか言ってたな。ソフィアのお姉さん。
『で、やり合っていた所にお母さん達も帰ってきて……強盗を一蹴。でも……』
でも? それで一件落着じゃないの?
『人形達が切られてしまって……お母さんが精霊魔法も使って繕い直したんだって。判った? 貴方達が依り代にしている人形は居なくなったソフィアの本当のお母さんと、ソフィアを育ててくれた養母さんとの二つの思い出の品なんだからね。ぞんざいにしないでよ』
『そんなん知らんかった』と精霊達が驚いている。なんで?
(なんでアンタ達が知らないの? 付合い長いんでしょ?)
『だって、ソフィアは何も言ってくれへんし』
『でしょ? ソフィアはあまり自分のことは言わないのよ。いっつも周りのことばかり。このことだって随分と時間が経ってから私に話してくれたし……私が遊んでてちょっと解れかけて直そうとしたときに、やっと話してくれた……』
なんか懐かしそうな面持ちだ。
『それで慌てて……二人で指導役に頼んで……時元修復という術を教えて貰ったの。指導役も使えなかったけど……私と二人で古文書を調べ倒して……色々試して、やっと……』
(そんなに……難しい術なの?)
『そうね。コツさえ判れば難しくはないんだけどね。だって、術の名前自体は寺院じゃ知れ渡っていたんだから。使う人は誰もいなかったけどね……』
(なんで? 使う人がいなかったの?)
『修行の妨げになるって言うことらしいけど……実際、浄化の術の変換術だから便利というか光の杖を掴めるようになれば自然に使えるようになると言われていたから……伝承する必要はないと思われていたんじゃない?』
なんか、変だ。術の名前は知っていて誰も使えないなんて……
『……懐かしいな。あの頃は修行に明け暮れて……魔王のコトなんて忘れるぐらい』
目を閉じるネメシアさんは……思い出を総て抱きしめるように胸に手を当てて……微笑んだ。
『ソフィアのように人のことまでは出来なくなったけど……私に関係するコトは私がしないとね』
何のコトを言っているのか判らないけど悲しくなるぐらい……儚い感じで……微笑んでいる。
思わずアタシは……ネメシアさんをぎゅっと抱きしめた。
『どしたの?』
(本当に……本当に消えたりしないでね。約束よ。約束して)
吃驚した顔でアタシを見て……ネメシアさんはにっこりと微笑んだ。
『判った。やくそく……』
……と目が醒めた。
既に夜中。窓から月の光が差し込んでもいない。
毛布の中で……アタシは何故か泣いていた。流れ出ていた涙を拭い、見上げるとソフィアの顔。すやすやと寝ている。……けど、ソフィアは色んなコトを黙って乗り越えてきたんだな。
話を聞いても流してきたけど……もし、それが総て自分に降り懸ったことだったら……
アタシは疾うの昔に……耐えきれないで……
「ん? どしたの?」
不意にソフィアが目を醒まして……アタシを見て吃驚していた。
「怖い夢でも見た? 涙が出ているわよ」
なんでだろ? もの凄く懐かしい感じだ。
「何でもない」 その時アタシは……自分でソフィアに抱きついていた。
「ん。んじゃ寝ましょ」 アタシの背中に回したソフィアの手がぽんぽんと心地よく叩く。
それからは……夢を見ないで眠り込んだ。
読んで頂きありがとうございます。
これはアコライト・ソフィア、アリアとソフィア、闇の剣、岬岩城の姫の後編に当たります。
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