20.精霊契約文書
ソフィアとアリアの仲間達
20.精霊契約文書
精霊契約文書ってのは、文字通り精霊との契約を記した文書。因みに契約したのは精霊とその時々の人間界代表者。つまりは光の杖を所持していた者との契約ということらしい。
んで、精霊ノギってのはネメシアさんとヴィオラさんの共通の御先祖様。
「精霊ノギは最初、魔王側についていたんだ。その由縁は判らない。魔王に騙されていたというのが伝承だけどね」
「そして人間界側……つまりは光の杖側について……魔王と死闘を繰り広げた」
「戦いは凄まじく、魔王の眷族も人間界側も誰も手が出せなかったほどらしい」
「そして数日間もの戦いの後、自らも瀕死の状態となりながらも、魔王の四肢の一つを奪い去った。そして、人間界側の猛攻を受けて魔王はついに倒された」
「これはその時の……魔王と闘う前の契約か、聖魔大戦の後に精霊ノギが次の戦いには人間側に付くことを誓った文書」
「聖魔大戦直後に……残っていた魔王の眷族が聖光城アィルコンティヌ寺院か、寺院に聖宝を運ぼうとしていた所かを襲い、他の精霊の契約文書と共に失われたと……」
「何にしても……こんな所に……コレが在れば……ワタシもネメシアも……」
悔しそうに説明するヴィオラさんに続きを聞くと……
最初は魔王側についていたという伝承のせいか、契約文書が無くなったのは精霊ノギ自身の意志なのでは? と精霊界では少なからず疑われていたらしい。その影響か、ヴィオラさんの国とネメシアさんの国の間にあった精霊界と人間界を繋ぐ回廊は閉ざされてしまった。そして、更にはネメシアさんとヴィオラさんの一族も次の聖魔大戦時にどちらにつくのかを……疑われていたと。
……だから、ネメシアさんもヴィオラさんも幼い内から寺院に入れられたらしい。精霊ノギの子孫は魔王側につくことはないという意思表示として……
「精霊界ってそんなに魔王が嫌いなの?」 まぁ、魔王が好きなのがいるとは思えんけど。
「精霊達は基本的に聖魔大戦には中立。人間達と契約した精霊が援軍として参加するだけさ。それだけに最初、魔王に付いていたというのが精霊ノギの意志だと……疑われているのさ。精霊が自主的に戦いに参加することが奇異に感じられているからね。さらに最初は魔王側についていたらしいということが……」
唇をかむ。本当に悔しそうだ。
「……でも、人間との……その戦いでの縁でとある聖者と婚姻されて子孫を残されたんですよね。一説には……精霊ノギを説得したとか、魔王の呪縛を解いたという聖者と……」
ソフィアが話の矛先を変える。実際、精霊ノギの話だけでちょっと堂々巡りしていたからね。
「そう。生まれた子供のうち、精霊に近い身形をしたのが精霊界、人間に近い身形をしたのが人間界に……それぞれに子孫を残してきたんだけど」
「それがヴィオラさんとネメシアさんの御先祖さん?」アタシも割って入る。
「そ。聖者というのが美人らしくてね。ネメシアの方は美人ばかりの系統さ」
「ん? ヴィオラさんだって美人系統じゃない? 違うの?」
「かははは。精霊界じゃ美人の基準が違うからね。アタシは……ハーフヒューマンって言われて……それなりかな?」
う〜む。なんか差別っぽい言われ方だな。
「でも……そんなのがここにあるなんて……とっくに魔王の眷族に消滅させられていたとばかり……少なくとも魔王への貢ぎ物にでもされたかと……」
「精霊契約文書を消滅した者は精霊からの怒りが……齎されると云われていますから……魔王の眷族としても消却したりは出来なかったのでは? 実際、今ならば判りますけど……この樹紙はかなりの法力が籠められていますから……」
ソフィアがまだ悔しがるヴィオラさんを宥めつつ、古文書を手に取り、文書を繁々と見る。確かに記されている書というか文様が虹色に煌めいて……いるのはソフィアの法力の影響なのかな?
「でも今まで見えなかったというのは……魔王眷属達の呪い?」
「そうかも知れない。薄い樹紙を上に貼って……この書面を見えないようにして……別の文書としていたのね……この上にあった樹紙にはなんて書いてあったの?」
今はすっかり消え去った文書は……ノートに書き写していたからそれを見せる。
「この町の由縁を書いたモノね。精霊とは無関係の……『呪封印』とか『呪いの血を清めよ』って単語はあるけど」
ふぅむ。精霊契約文書が樹紙の間にあるとは知らずに書いたんだろうか?
「その呪いっぽい言葉も関係ないんだよね?」
「関係なさそう。最後になんか上に書き殴った感じね。書いた人は真っ新な樹紙……ただ単に古い樹紙だと思って書き記していたみたいね」
念のため、巻物となっていた別の樹紙の古文書にも霊精を垂らしてみたけど……何も変化しない。精霊契約文書は精霊ノギとの1枚だけみたいだ。
「まぁ、他の精霊は新たに契約して……契約文書は寺院に保管されていると云うことでしたから……」
「ん。コレで前の聖魔大戦で契約して闘った精霊達は全員、また闘ってくれることになる」
んん? 再契約した? だったら……
「あれ? じゃなんで精霊ノギとも再契約しなかったの?」
アタシの問い掛けにソフィアは表情を硬くして、ネメシアさんは困ったような顔をした。なんで?
「かははは。精霊ノギは魔王の断末魔の呪いで……絶命した。というか、岩に変えられた。と云われているのさ。だから契約したくても……契約できない」
あれ? ということなら……
「聖者との婚姻というか子孫が居たということは……聖魔大戦前に婚姻していたってコト?」
「ん〜。なんかその辺が微妙なんだよね。アタシの家にもネメシアの家にも詳しくは伝わっていないんだ」
「魔王の呪いの効果が……ゆっくりと進行していったとも考えられるし……よく判らないのよ」
寺院でそれなりにながらも前の聖魔大戦の状況は伝わっていて、それを教わっていたソフィアや当事者の末裔であるヴィオラさんにも判らないんじゃ……第3者で普通人のアタシが判る訳ないな。
「なんか……不思議だね」 思わず零したアタシの言葉に……ソフィアやネメシアさん、ヴィオラさんも「ん?」というような顔をした。
「アタシとソフィアが出会った偶然と、この町に来る途中でヴィオラさんと出会った偶然、この町にネメシアさんが……エァリエスさんと一緒にいた偶然。そして……」
精霊契約文書を見る。微かに虹色に煌めく文と文様が神々しい雰囲気を放っている。
「……もの凄い偶然ながらもアタシがこの古文書を手に入れたコト。出来すぎたね」
「なるほどね」という感じで全員がお互いに顔を見合わせた。そして……
「でも、霊精を零したのはアタシだから……ヴィオラさん? アタシに感謝してね?」
ちょっと威張ってみる。実際、そんなに威張れることではない。霊精自体はソフィアが造ったんだし。文書の意味というか価値に気づいたのはヴィオラさんとネメシアさんだ。
「かははは。そうだね。感謝します。アリア様」
ヴィオラさんに釣られてネメシアさんも飛びきりの笑顔だ。ソフィアは「そんなこと言って威張らないでっ!」みたいな困惑顔だったけど……ヴィオラさんの笑顔に釣られて笑ってた。……ちょっと引きつっていたけどね。
でも……やっぱり偶然にしてはできすぎかな。
もし偶然じゃないとしたら……魔王の呪いから解き放たれることを望んでいる精霊ノギの意志なのかも知れない。
読んで頂きありがとうございます。
これはアコライト・ソフィア、アリアとソフィア、闇の剣、岬岩城の姫の後編に当たります。
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