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聖霊の街  作者: 葛城 炯
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18.情報 1

 ソフィアとアリアの仲間達

18.情報

「おはよ〜」 寝惚けた声で挨拶するのはアタシ。

 起き上がってみるとソフィアは既に外出着に着替えて、ネメシアさんに霊精を振る舞っている。テーブルの上には朝食が……アタシの分だけが残っている。

「ん〜? ヴィオラさんは?」

「朝練とか言って出て行ったわよ。今日の試合は午前と午後の二試合だから」

 ……ということは決勝が近いのかなと朧気に思いながら……テーブルに着き、ふと見ると……

「あれ? ネメシアさん。大丈夫?」

 なんか随分とやつれて幽霊っぽくなっている。あれ? 元から幽霊か? でも随分と元気がない。

「そうなのよね。大丈夫なんですか?」

 アタシとソフィアの問い掛けに小さく微笑んで……『大丈夫。大丈夫だから』みたいに手を振った。

 アタシとソフィアは顔を見合わせて……どうしようかと思案投首。実際、ソフィアだって幽霊の健康診断なんてしたことがないはずだし、どうやったら元気になるのかも判らないはずだ。

「ソフィ姉ぇ……霊精の予備を用意しておこうか?」

 霊精を飲むと元気になるのだけど……朝と夕の二回じゃ足りないのかも知れない。

「そうね。でも、入れ物が……」

 宿のティーポットとかだと……朝食が終わると中身ごと持って行かれそうだし……

「んじゃ、アタシが買ってくるよ。その骨董品を売っていた店で手頃なのがありそうだったし」

 「それじゃ、御願いね。私はヴィオラさんのトコについて……昼前に一度戻ってくるから」と言い残して……ソフィアは出て行った。出掛けにネメシアさんに「何をしているか判りませんけど……無理はしないでくださいね」と言い残して。

 アタシは蜂蜜とパンを頬張ってから出かける支度をして……ふと、ネメシアさんを見る。

 所在なさげに溜息をついているようなそんな感じなんだけど……聞いても何をしているのかは言ってはくれなさそうな……そんな凛とした感じもある。

「んじゃ、一緒に行こうよ。ネメシアさん。目利きして欲しいし」

 最初は『私はここにいるわよ』みたいにきょとのんとした顔をしていたけど……なんか一人にしておくとそのまま消えてしまうような感じがして……アタシは何度も頼み込んだ。やっと『んじゃ、しょうがないわね』みたいに微笑んでくれて、アタシ達は部屋を後にした。

「あ、ちょっと待って」

 宿の外に出ようとしたところで、ちょっとだけネメシアさんに待って貰って、アタシはカウンターへと走り寄った。

 朝食の支度を終わって、グラスとかを拭いている支配人を見かけたから。ちょっと聞きたいことがあったのさ。

「ちょっといいかしら?」 と尋ねるアタシに支配人はちらっと一瞥して直ぐに視線を拭いているグラスに戻した。やな感じだな。

「なんだい? お嬢ちゃん。朝食のメニューの変更なら追加料金を頂くよ」

「そんなんじゃないわ。ちょっと聞きたいことがあって」

 ん? と真面目な顔に戻り、グラスを樹綿のネルに置き、アタシに視線をきちんと向けた。

「何か必要な情報でも? 念のため言っておくがここはギルドだ。情報も金貨銀貨との交換だ。判っているね?」

 と、説教気味の支配人の鼻先に金貨一枚を差し出した。

「金貨に相当するほどの情報……という訳かね?」 にやりと笑う支配人にしれっと言い切った。

「取り敢えず、両替してちょうだい。どれだけの価値があるのかは……アタシが判断するわ」

 「なかなかやるね」とばかりに不敵に笑みに変わった支配人は銀貨を2つの塔にしてカウンターに置いた。アタシは銀貨の塔の横に金貨を置いて……銀貨の塔に手を置いた。

「で? 聞きたいこととは?」 支配人は金貨をすっと手に取りポケットへとしまってからカウンターに手を置き改めて尋ねた。このとおり武器は使わないけど変なことはするなよ?オレだってそれなりに実力はあるぞ? というポーズ。この人もギルド直系の宿の支配人だけ在って一癖はありそうだ。

 その間にアタシは銀貨の塔の1つを仕舞ってから、もう一つの塔に手を置いたままにしておいた。少なくとも銀貨の塔1つ分の価値を認めて場合によっては払うという意味で。

「聞きたいのは……遺跡のコトよ」

 そう。アタシとソフィアがこの町に来たのは遺跡探検。有り体に言って遺跡の中の宝物探しだ。……武術大会でごちゃごちゃになっていたけど。

「遺跡? そんなモノがあるとは聞いてないな」

 支配人の話だと……支配人がこの町に来たのが数年前、前任がオーヴェマの侵攻前に居なくなって、その後任としてきたのだそうな。宿と支配人の権利を買って。

「まぁ、実際には武力侵攻が無くて政略侵攻だけだったから……前任が戦争に巻き込まれてお亡くなりになったという訳では無さそうだが……兎に角、正式に引き継いだ訳じゃない。従って町の情報とかは……このオレもそんなに詳しい訳じゃないが……少なくとも、この町近くに遺跡があるなんて話は聞いたことがない」

 う〜む。地元情報に詳しいはずのギルドで情報の引き継ぎがないんじゃ……こんなんモノかね。

「さて? 大した情報が無くてすまないが……幾ら払ってくれるのかね?」

 相場は知っているよな? と言わんばかりの不敵な笑みにアタシは銀貨の塔を持ち上げた。カウンターに残っているのは……銀貨2枚。

 ひゅ〜と軽く口笛を吹く支配人の顔を笑いながら見つめて……2枚の横に指先を軽く置いて3枚の銀貨を置き、残りの銀貨の塔をポケットにしまった。

「これは今後の情報収集と集めた情報への前払い。勿論、下らない情報だったらコレは払わないわ」

 「ほほぉ」

 ギルドの使い方を知っているねと言わんばかりににやける支配人にきっぱりと言った。

「期限は5日。その時までに情報が集まらなかったら、コレは晩御飯の御馳走に変えてね?」

「判った。アンタは上客だ。但し……価値のある情報だったら……」

「勿論、追加料金を払うわよ。但し……アタシの査定は厳しいわよ?」

 「ふふん。やるじゃないか」と言わんばかりににやけきった支配人に背中で手を振って「宜しくね〜」と言い残し、アタシはネメシアさんと町へと出かけた。


 骨董品店で、前にネメシアさんが選んだ品は売れずに残っていたので……それらを全部お買い上げ〜 さらに色々と追加で選んで貰って、総て購入〜

 なんといっても、賭で勝った分があるからね。今はすることがないから、ネメシアさんの目利きを信じてあれやこれやと買っておこう。

 ……前に言っていたことと違う? 気にしない。臨機応変って言葉はこういうときにあるんだよ。いいの。こういうときのためにあるってコトを信じなさい。ソコ。


 骨董品を買い漁った後は他の店で小物を買って……と、気がついたら昼前だ。

 何で買い物って時間が経つのが早いかな? 取り敢えず、さっさと宿に戻ってソフィアと合流だ。

 宿に戻ったらカウンターで支配人がにやっと笑って手を振ってきた。ん〜何か情報でも仕入れたのかな? 念のため、確認しておこう。

「……で? 何か手に入れた?」

「大したモノじゃないんだが……」

 こういう言葉を前置きするってコトは自信はあるんだろうな。

「……実はこういうモノが倉庫にあるのを思い出してね」 と、カウンターの中から出てきたのは……絵巻物?

「コレはこの地域の古文書らしい。前任の支配人が纏めたのか、好事家が色んなのを手に入れては巻物に纏め直したのを手に入れたんだか……兎に角、前任の荷物の中に在った。コレで要望には満足して貰えるかな?」

「ちょっと見せてよ」と手にとって、中を見てみると……色んな樹紙の古文書を樹綿紙に貼り付けて巻物に仕立て上げた……そんなところだな。ただ……古文書の文字が……ムーマ文明だかレムア文明だか……或いは知らない古代文明の紋様文字で……一切、読めない。

「どうだね?」としたり顔で尋ねる支配人に……取り敢えず態度だけは取り繕っておこう。

「ん。確かに。んで御要望の代金は?」 何となくだけど追加料金をと言われそうだな。

「今朝の前払い料金に銀貨2枚プラス。……で、どうだね?」

 やっぱり。まぁ自信在りそうだし、色々と楽しめそうだけから良いか。

「判ったわ」とポケットから銀貨を取り出して3枚カウンターに置いた。

「ん?」と怪訝そうな顔を一瞬して、それから自信ありげな顔に戻ったのをアタシは見逃さない。

「言っとくけど、2枚は今後の追加情報への前払いだからね。そういうことで宜しく〜」

 一瞬、「やられた」またいな渋面になったのを確認して、アタシはネメシアさんと部屋に引き上げた。しまったな。あんな顔をするようじゃ、追加料金無しまで叩けたかも知れない。でも、ま、いっか。情報を集めないことには先に進めないんだし。



 読んで頂きありがとうございます。

 これはアコライト・ソフィア、アリアとソフィア、闇の剣、岬岩城の姫の後編に当たります。

 感想などいただけると有り難いです。

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