15.その朝の夢と…… 3
ソフィアとアリアの仲間達
一人は腕を抱えて転げ回っているし……実質的に3人。その3人が目配せして……ゆっくりとギザキさんを取り囲むと……同時に飛びかかってきたっ!
……けど、同じだね。
ギザキさんの唇が「芸がない」と動いていたけど、同感。一番動きが読みやすい大男の脇へと体を躱し、大男の剣の一つを盾で跳ね上げ……最初に床に転げさせられた輩の剣を別の盾で横に跳ね飛ばす。さっき大男の陰から突きかかろうとしていた輩は横に跳ねられた剣に邪魔されて突き切れていない。……当然、届かない。その間に大男の脇腹に発勁を当て、飛ばすと横に跳ね飛ばした剣の男の背後に回って、一撃。気絶した男に覆い被されて細長い剣の男も床へと崩れ落ちた。
「あっけない……これで……」
「終わりだっ」
さっきまで腕を抱えて転げ回っていた男が……いつの間にかギザキさんの背後に回っていて剣を突き刺したっ!
……ように見えたけど。判っていたのだろうね。振り返りもせずに半歩横に動いて、肱を……いや腕の盾の端で脇腹に一発。気絶して崩れ落ちる男。突き刺したように見えたのはギザキさんの動きが速すぎて、躱したのが判らなかったからだ。
「……おまえがな」気絶した男を一顧だにせず、動ける相手を冷ややかに見つめている。
残るは……細長い剣の男だけ。後の3人は気絶して床にのびている。
「……で、どうする?」
覆い被さっていた気絶した男を払い除けて立ち上がった細長い剣の男は、剣を構えて……からんと剣を手から落として、肩をすくめた。戦意喪失……と思ったら、大男がギザキさんの足首に剣を一閃っ! 空へと飛び上がったギザキさんに素早く床に落とした細長い剣を拾い……というのは無理。剣を掴んだ手をギザキさんが踏みつけたから。……しかも両足で。
「ぎゃあぁぁぁ」 あ〜ぁ。指の骨が折れたかな?
「あ、すまん。大丈夫か?」と頭を下げるギザキさんの後ろから襲い来る大男っ! ……には後ろ蹴りを一閃。しかも膝に……
「ぐおぉぉっ」 膝を抱えて転げ回る大男。ん〜。確かにそこは痛い。さて、手を踏みつけられた男はと確認すれば既に頭を抱えて転げ回っている。後ろ蹴りを繰り出した時の反動でギザキさんの頭突きが入っていた。……のは単なる偶然のようで、ギザキさんも頭を片手で押さえている。
「痛たたた……」ギザキさんはかなり痛いようでしゃがみ込んでしまった。無防備だな。
でも、見渡しても……その隙をついてくる相手は誰もいない。
大男は膝の痛さのあまり闘技場への下へと転げ落ち……たのは、ワザとだな。実力が判って勝てないと踏んでの演技だろう。細長い剣の男もそれを見てからか、わざわざと床半分も転げて落ちていた。床に転がっているのは正真正銘に気絶している二人。……気絶したフリかも知れないけど。
兎に角、立っているのはギザキさんだけ。頭を押さえて立ち上がったのはちょっと間抜けっぽいけど。
「勝者っ 無剣のギザキ〜」
支配人がなんか嫌そうにギザキさんの勝利を宣言した。
ふぅ。ちょっとだけ心配したけど、実力発揮。順当勝ちだ。
おおっと、斜向いの方でも観客がざわめいたので、見てみれば……残った一人が最後の相手の大男を闘技場への外へと放り投げ……こっちに投げられたっ!
慌てて逃げて……避けたけど、転んでしまった。
「あ痛たたた……た?」
転んだまま振り返ってみると、人集りがぽっかり空いた中に投げられた男と……ネメシアさん? なんで、そんな所に? って、アタシがいた場所にそのままぼやっと立っていただけだな。きっと。ソフィアとヴィオラさんは逃げた群衆に押されて、アタシとは反対側にいる。
「ネメシアさん、逃げてっ」
咄嗟に叫ぶ。ネメシアさんは術が使えないんだ。……なんで? 使えないの? いや、兎に角、そうだろうと思う。幽霊なんだし。
投げられた大男は二度三度と頭を振って、意識を確かめると廻りを見渡す。血走った目で……ふと、ネメシアさんが持っていた剣……エァリエスさんの剣を目にとめると、力尽くで奪い取った。
「てめぇっ! 落とすだけならまだしも投げるとは傭兵の風上にも置けねぇ。叩き斬ってやるっ!」
「あ……」
驚いたのはアタシだけじゃない。その場にいた全員が息を呑んだ。幽霊であるネメシアさんが持っていた剣。何かを知らない他の人達にとっても薄気味悪い縁があると信じて疑わない剣。エァリエスさんから謂れを聞いているアタシとソフィアは判っている。
それは正真正銘の魔剣。
手に取った人間がどうなるのか、抜いたらどうなるのかが判らない剣をネメシアさんから奪い取って……今、正に抜こうと柄と鞘に手をかけて力任せに抜こうとして……抜けなかった。
鞘から柄にかけて巻き付けられた紫銀の鎖が眩く輝き……って、瞬後にソフィアの杖が大男の鳩尾に、ヴィオラさんの正拳が喉元に……おまけに背後からグレイさんが背骨に頭突き、活殺とか言う心臓の背中側に鳥嘴拳、腰椎に掌底が、更にはエァリエスさんが剣を鞘のまま頸椎を撃ちつけ……朽ち木が倒れるように大男は地面に崩れ落ちた。グレイさんがソフィア達の目に止まらぬように、ささっと人集りの中へと姿を消したのが……なんか可笑しい。アタシの位置からは何をしたのかがバレバレだったからね。
ネメシアさんが「ダメでしょ? 人の物に手を出しちゃ」みたいな感じで地面の小石というか砂粒みたいのを大男の眉間にぺしって投げていたけど……まぁ、駄目押しだね。
「ネメシアさん大丈夫?」
慌てて駆けつけるとネメシアさんは剣を拾い上げ……にっこりと笑ってくれた。
なんか……ちょっと疲れている感じだったけど……
「ネメシア。大丈夫かい? なんか元気ないけど……」
「アリア。ネメシアさんを連れて宿で休んでいてくれる? 調子悪そうだし……」
エァリエスさんも心配そうに……睨んでいる?
「アンタ。アタシの剣を奪い取ったんなら、誰にも渡さないで欲しいね。いい? 二度と誰にも獲られるんじゃないっ! 誓いなさいっ!」
……そこまで幽霊に怒らないでも。って、『誓いなさい』? どっかで聞いたような……変な感じのする言葉……じゃないよね。一般言語だよね? ……でもなんか変な感じの言葉だな。
言われたネメシアさんは……何か言いたげだったけど、視線を落として……トボトボと宿の方へと歩いていった。
「んじゃ、休んでるね。ソフィア……ネメシアさんに霊精を飲ませた方が良いんじゃない?」
「そうだね。じゃ、ヴィオラさん、ちょっと待っててくださいね」
「ワタシのことなら心配無用。次の試合もささっと勝ち残ってみせるさ。んじゃ、行っといで」
ヴィオラさんに見送られてアタシとソフィアはネメシアさんの後を追う。ヴィオラさんの横でエァリエスさんが「言い過ぎたかな?」みたいな感じで後悔しているような「なんだい。ちっとは言い返しなさいよっ」って怒っているような……そんな感じだった。
宿に帰って、ソフィアがエァリエスさんの事を思い出して怒り出したネメシアさんに7杯ほど霊精を飲ませて、ソフィアは闘技場へととんぼ返り。聞けば、闘技で傷ついた方々を治療しているらしい。そういえば昨日も誰彼と無く治療していたな。「白魔導師としての義務ですから」とか言って。アタシと一緒でほぼ徹夜であんな凄い術を使って、そかも夜通し飛び続けたようなモノなのに元気だな。
か弱い乙女のアタシは睡魔に襲われるままにベッドへと潜り込んだ。ネメシアさんも椅子で休んでいる。
……か弱い乙女っという所に引っかからなかったよね? ソコ。単なる確認だから言い訳は聞かないでおくけど。
しかし……今は平穏無事な平和だな〜
こんな時がいつまでも続いていたらいいのに……
寝直したときに見た夢は……忘れてしまった。
読んで頂きありがとうございます。
これはアコライト・ソフィア、アリアとソフィア、闇の剣、岬岩城の姫の後編に当たります。
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