1.大猫娘と人形と…… 2
ソフィアとアリアの仲間達
次の言葉はなかった。
ソフィアの右手が振り上げられると同時に相手は氷の柱となって固まっていた。
「え?」
アタシが驚く間もなく、ソフィアの右手が次々と振り下ろされ……山賊全員があっという間に氷柱となって凍り付いていた。
「ソフィ姉ぇ……それって氷雪鞭?」
白魔導師も黒魔術は使えるんだけど精々、飛礫形態とか鞭形態。今、ソフィアが使ったのも鞭形態の一つで水系のさらに細かく言うと氷分類の氷雪鞭……なのは良いとしてもだ。その威力は何よ。アタシの陣形態と大差ないじゃない。
「そうよ。相手の動きも止められるし涼しいでしょ?」
布で汗をぬぐって、微笑むソフィア。
……う〜む。そういうのはアタシの役目の筈なんだけどな。
「……つまり、戒律を守るのがツラくなってきたので渡りに船だったと言う訳ね」
ぎくっとした表情でちろっと舌を出して誤魔化し笑いをするソフィア。
……美人だからって騙されないわよ。
「アリア。そんなに鋭く指摘しなくても良いじゃない」
「誰でも判るわよ。そんなこと」
まぁ、コイツらを次の町のギルドに引き渡せば路銀の足しにもなるし。ま、いっか。
「そういや。アレなんだろうね?」
道の先にある毛の固まりを指さして尋ねるアタシにソフィアは真面目な顔に戻って呟いた。
「う〜ん。魔獣にはあんなのはいないと思ったけど……確かめましょ」
近付いて確かめると……毛の固まりは猫だった。
いや、猫と言うには有り得ない程の大きさなんだけど見た目は猫。魚屋の店先からデカい魚を盗んで全力ダッシュしたのは良いけど、力尽きてへばって倒れたところでデカい魚を奪い返されて悔しいけれど立ち上がる気力が湧かなくて倒れ込んでいる。……って言うような感じでへばっているデカい猫。
判りにくい? ん〜。ま、兎に角。そういう感じだから、勝手に想像して。
「あら……ひょっして?」
「何? 知合い? アィルコンティヌ寺院の先輩とか?」
暑さにかまけてちょっとボケてみた。
「そうよ。何で知ってるの?」
をい。ボケをマジ返しするなっ! って……ホント?
「えーと。魔石を持っている筈なんだけど……持っていなさそう……ということは」
ソフィアはさっきの盗賊の頭目を凍らせた氷柱に近付くと……杖で顔面を一突き。ぱしっという音と共に綺麗に頭の所だけ氷が砕けた。
「ぐわぉっ。ひ、酷ぇ事するじゃねぇかっ! ……僧侶サマ。ほんの出来心なんで……見逃してくださいまし……」
一瞬だけ気勢が良かったけど、すぐに謙る。
世渡りは上手そうだけど、アタシの嫌いなタイプだな。
「見逃してあげても良いけど、魔石は何処にあるのか教えて下さいます? さもないと……」
にっこりと笑いながら丁寧に脅すソフィア。
ん〜 こういうときは下手に逆らわない方が良いんだけどな。経験的に。
「知らねぇ。あ……いや、知りません。いや、ホント。御頭が街道に大猫がいるから捕まえて来いって言われてきただけで……」
「その御頭サマって何処に居られますの?」
山賊はソフィアの問い掛けにちょっとだけ横を向いて口籠もってしまった。
あ〜下手に逆らってしまったな。
ソフィアはにっこりと笑ったまま、額の端を一瞬ヒクつかせて……次の瞬間には右手を振り下ろしていた。
ばしぃいぃぃぃん
天から雷が落ちてきた。……のではなく、ソフィアが放った電撃の魔法鞭。近くで凍っていた数名も巻き添え喰らって魔氷結が飛び散ったのは幸いかも知れないけど地面で痙攣して転げ回っているのは、やはり不幸な出来事だろう。
「さっさと応えていただけます? さもないと……」
「ソフィ姉ぇ。応えたくても痺れて応えられないよ。そんなに威力のある電撃鞭を喰らっちゃったら」
あら? と、きょとんというか「きょとのん」という様な顔にちょっとだけ暑さか風邪っぽい熱の所為かでぼーっとしたのを付け加えたような表情に戻って、ソフィアはアタシを見た。
「でも、すぐに人化の魔石を取り戻さないとヴィオラさんが……」
えーと。アタシの後ろで延びている大猫がヴィオラさんね。たぶん。んで、人化の魔石が無いと……?
「どうなるの?」
「会話できないじゃない」
それだけかいっ! 死ぬとか苦しみ続けるとかそんなんを考えていたのに。
「兎に角、人の物を取るのは泥棒。泥棒は悪への入り口。例え万引きでも極刑に処しても然るべき犯罪。判ったらさっさと……」
おーい。目の前にいるのは、元々、山賊で強盗を生業としている方々なんだけどな。魔石が云々以前に……
読んで頂きありがとうございます。
これはアコライト・ソフィア、アリアとソフィア、闇の剣、岬岩城の姫の後編に当たります。
感想などいただけると有り難いです。