14.夜の旅 2
ソフィアとアリアの仲間達
「ウィスプ?」
さっきの行き先案内用光の珠を思い出して、思わず口に出る。
「違うわよ」
ソフィアは微笑みながら振り返った。
「これは……警告用兼確認用の……言わばサーチ・ライト」
両手で光の珠を掴むと、何かしら念を籠めるように光の珠に呟く。そして、両手を森へと開くと……両手から飛び散る無数の光の珠。光の珠達は凄い速さで森の中へと飛び行き……森の中をアチコチへと飛び回っている。そして……奇声と共に何か……いろんな動物たちが森から逃げていくのが……遠すぎるのと月明かりでは見えなかったけど、雰囲気で判った。
やがて、光の珠は森の中心で集まり……空へと廻りながら飛び上がり、霧のように消えていった。
「ふぅん。形は判ったし、動物たちも逃げたようだから……」
ソフィアは改めて両手に念を集めて……両手から光が湧き出した。そしてその光を両手で抱きしめるように集め……見る間に両手の中に巨大な光の珠を作り上げた。虹色のような紫色のような綺麗な光の珠。それを両手で縮めて……片手で持てるようになると……振り返ってアタシに忠告した。
「ちょっと後ろを向いていて。この術……時元修復の術の光はあまり……生き物とか……特に目に良くないから……」
真剣な顔から本当に危ないんだなと理解して、アタシは素直に森に背を向ける。
後ろでソフィアが光の珠を森に投げ入れると……後ろで紫色の光が爆発した。
いや、爆発したのではなく紫色の光が凄まじい勢いで飛び交っているのが背を向けていても判る。やがて……光はゆっくりと穏やかな光へと変わり……ぼんやりと消えていった。
「もう良いの?」 「もう良いわよ」
振り返って、森を見ると……凛と立つ岩城が深い森の中に二つ月の光に照らされて聳え立っていた。
「ひゃあぁぁぁぁ……」 感嘆しか声にならない。
漆黒の深い森に白く光る岩の城。古代から聳え立っていて誰一人として寄せ付けないような……そんな雰囲気の岩城が復活していた。 ……だよね? さっきまで無かったんだから。アタシ達がいる広場から岩城までの石橋……空中回廊のような石橋も復活して……厳かに佇んで二つ月の光を反射している。
「凄い……」
「そうよね。これだけの城があんな残骸になっていたんだから……凄まじい戦いだったのね」
あの……ちょっと話が食い違っているんですけど。アタシが驚いたのはソフィアの術。ソフィアが感じているのは城を壊した戦いの規模。凄いのは……まあ、そうなんだろうな。これだけの城をさっきの残骸へと変える戦いは……
そしてその戦いにギザキさんがいて……無事にノェアさんを輿入れさせたのであれば……ギザキさんもかなりの凄腕……なんだろうな。ノィエさんが威張る訳だ。
しかし……これだけの術を使って何ともないんだろうか? と、ソフィアを見ればなんかすっきりとした顔をしている。ん〜む。『法力酔いしかけている』とかヴィオラさんが言っていたから、溜っていた法力を盛大に放出してすっきりした。……というところなのかな?
「さぁ、帰りま……あら。これは……」
アタシの方を振り返ったソフィアが見ているのはアタシの後ろの岩壁。何事? と振り返って見れば……岩壁が窪んでいて廻りに刻まれた厳かな雰囲気の呪紋様。岩城と石橋の反射光で照らされて……浮かび上がっていた。
「これって……」
「旅人の門……これだけの物が残っていたなんて……」
岩壁の窪みは十数歩も行けば行き止まりなんだけど……呪紋様が漂わせている雰囲気はこの窪み自体に意味があると……厳かに語っているようだ。
「ありがとうございます」
「ぎゃあっ! ? ……どなた?」
不意に、後ろから声をかけられて二人で悲鳴を上げてしまった。振り返ってみると……年老いた執事のようなおじさん……というか、おじいさんが立っていた。変なのは執事の格好なんだけど腰に細い長剣を下げていること……だけかな? 何にしてもなんか変な雰囲気の御老人だ。
「光の杖の尼僧様でしょう? 聖アィルコンティヌ寺院に居られる……」
老執事さんはアタシの疑惑の眼など気にもせずに静かに微笑みながら……ソフィアの方をじっと見つめている。
「は、はい。確かに寺院にはおりましたが……どちらさまでしょうか?」
「おぉ。コレは失礼を。私めはこのノ・トワ城の移し身、言うなれば……名はトワザとでも申しましょうか」
城の移し身? 化身って事? 少なくとも……人間ではないということだな。
「わざわざお越し頂き、さらには修復していただき感謝の念に堪えません。礼と言うわけではありませぬが、どうかコレを……」
手に捧げ持つのは古めかしい綺麗な宝物箱。
「いえ、そんな大層な品を受け取るわけには……聖光城となる城を修復するのは光の定めに従う者の義務。魔王との戦いに不可欠な場所なのですから……義務を遂行して礼を受け取るわけにはいきません。お下げくださいませ」
困り顔で、でも凛とした態度でソフィアは断った。実際、ソフィアは結構というか、かなり頑固だから自分で決めたことは滅多に変えない。
二度三度と老執事さんの申し出を丁寧に断って、それでも埒が明かないのでアタシが提案した。
「ソフィ姉ぇ。中を見て確認してから……断るか受け取るかを決めても良いんじゃない? なんか事情がありそうだし……」
読んで頂きありがとうございます。
これはアコライト・ソフィア、アリアとソフィア、闇の剣、岬岩城の姫の後編に当たります。
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