13.それぞれの名 3
ソフィアとアリアの仲間達
水面下で場が白けつつあるのを感じてアタシが声を出した。
「あ、ごめんなさい。アタシ達のことを紹介していなかったね。アタシは知っているだろうけどアリア・ファルド。本業は遺跡探検家。向こうの杖の隣にいるのがアタシと一緒に旅をしているソフィア・フレイア。見て判るとおり白魔導師。ソフィアの隣が同じく白魔導師のヴィオラさん。数日前から一緒に旅している。アタシの隣の幽霊がネメシアさん。……もう判っているんだろうけど、ソフィアとヴィオラさんとアナタの姉様と同じ寺院の出身の縁。で、ヴィオラさんの隣が……ネメシアさんの知合いでエァリエスさん。剣術家ね。で、エァリエスさんの隣が……ギザキさんの知合いでもある人形遣いのグレイさん」
ふぅ。なんか疲れるぞ。この説明は。幽霊とか人形遣いを説明するなんて……
「ちょっと確認したいんだけど……」 ノィエさんが返してきた。
「私達がフル……え〜と。セカンドネームまで申し述べましたのに、ファーストネームだけの紹介とは……失礼じゃありません?」
あ……指摘は確かだけど……一気に場が白けてしまった。表面化してしまったというのが正確だろうけど。
溜らずヴィオラさんが白けた雰囲気に割って入る。
「アリアとソフィアは名乗っているから良いね? ワタシはヴィオラ・ノラネ。そっちの幽霊はネメシア・ノラゼ。ワタシとネメシアは遠い親戚なのさ。で……」
ヴィオラさんが隣のエァリエスさんに視線を投げる。そういえば、エァリエスさんの名前は通り名しか知らないな。グレイさんは……まぁ、どうでもいいや。
「アタシは……」 エァリエスさんは……なんか悲しげな苦しげな表情だ。
「ごめん。通り名しかないんだ。グレイ、アンタは?」
「え〜と。人形遣いになるときに捨てたので……今は『グレイ』という名しか有りませんね」
ははは……と、力なく笑いながらグレイさんは頭をかく。まぁ、笑うしかないよね。そんな事情じゃ。
ノィエさんが『むっ』と不機嫌になるのを無視してエァリエスさんがソフィアの方を見て……尋ねた。
「そういえば……以前、コイツに私の名には『否定』と『過去』というスペルが入っているって言われたんだけど……そいつを除いたら何が残るんだい?」
尋ねられたソフィアは……きょとのんとした顔になってから、目を閉じて空中にエァリエスさんの名のスペルを描いて……何故かその間、グレイさんがなんか慌てていたけどなんで? まぁいいや。そんなこんなでソフィアは目を開けてからにっこりと笑った。
「残るのは女神の名前ですね」
どんな名前? と、注目しているのはアタシ以下、寺院『無』関係者だけ。寺院関係者のヴィオラさんとネメシアさんは既に判っていたようで微笑んでいる。
「何が残っているんだい? 焦らさないで教えてくれないか」
エァリエスさんはなんか安心したようにソフィアの答を待っている。
なんか……従姉妹というか姉妹みたいな感じだな。ま、姉妹じゃないのは分かり切っているんだけど。
この世界、長女は「ア」で終わる名前。次女は「エ」、以下、「イ」、「ウ」、「オ」かそれぞれに類する言葉で終わるのが基本原則。
従って、ソフィア、ヴィオラ、ネメシアそしてアタシの名であるアリアは長女の名前だとすぐに判る。同じ理由でノィエは次女、そのお姉さんのノェアは当然、長女。エァリエスって名は感覚的には四女という事になって、当然ながら、長女の名であるソフィアの姉にはならない。って、そういえばソフィアが捜している家族って……たしか、ソフィアが捨て子だったのを養女として迎えてくれたんだったな。だったら……でも、エァリエスさんが長女じゃない以上は関係ないな。
ところで、残った女神の名前って何?
「残るのは『イリス』。虹の女神の名前です」
エァリエスさんはなんか嬉しそうだ。傭兵生活ではあまり良いことがなかったのかな?
グレイさんが何故かほっとしていたけど……なんで?
「でも……通り名しかないのは不便じゃありません?」
「そうか? ……そうだね。確かに不便かも……」
ソフィアに言われてエァリエスさんはちょっと考えてから……ソフィアに頼んだ。
「そうだ。アンタは白魔導師になったんだから、アタシに名前を付けてくれないか? 厚かましいようで申し訳ないけど……こうして出逢ったという縁で頼まれてくれないか?」
なんか変な言葉の言い回しをしなかった? とアタシは思ったけど、頼まれたソフィアは、もの凄く「きょとのよん」というような顔になってから……悩み始めた。
「あ……いや。迷惑だったら良いんだよ……」
「あ……いえ。突然だったので吃驚して……」
なんかの詩を朗読しているというか歌劇みたいな台詞の遣り取りだなと思ったのはアタシだけではなかったようで、ヴィオラさん以下、全員がエァリエスさんとソフィアに注目している。
「ちょっと考えさせてください。……フル・ネームをここで言うのも何ですから」
確かにそりゃそうだとアタシ以下全員が笑い出した。
ノィエさんだけあまり笑ってなかったけど。まぁ、自分の指摘が他の事へ流れて胡散霧消したのがちょっと面白くなかったんだろうな。
読んで頂きありがとうございます。
これはアコライト・ソフィア、アリアとソフィア、闇の剣、岬岩城の姫の後編に当たります。
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