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聖霊の街  作者: 葛城 炯
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12.勝ちと敗け 3

 ソフィアとアリアの仲間達

 ん? と、事態が飲み込めていないアタシが何気に横を見ると……長大剣が唸りを上げて飛んでくるっ!

 直後に……がぃんと鈍い音と共に剣は弾かれ、アタシがいた闘技場に転げていた。それは……

「……ありがと」

 盾の人が無言のままに弾いてくれたからだ。盾の人……ギザキさんだっけ? ……は、にこっと笑い返して「気にするな。戦友」みたいな感じで親指を立てている。

 助けて貰って言うのも何だけど……さわやかすぎて嫌味なんですけど。


「貴様らっ! 正気かっ?」

 エァリエスさんの鋭い声が響く。何事が起きているのかと改めて見れば……戦っている二人は明らかに変だ。

 視線が虚ろだし、戦う相手が何処にいるのかもはっきり認識していないような……

「ひょっとして……狂っている?」

「あぁ、明らかに中毒症状だ」

 ギザキさんの話によるとだ……戦いの時に恐怖心を払うため薬物に頼る輩は多いそうだ。で、そういうのは本質的に心が弱い……単純に意志が弱いので中毒になりやすい。そして中毒になると薬を摂らなくても同じ状況……つまりはこういう武術大会とかでも中毒の発作状態となるらしい。

「実際に戦う前に少量服用したのが発作の引鉄かも知れない。いずれにしても二人とも失格だろう。が……押え止めるのは面倒だ」

 そりゃそうだよね。二人とも屈強な熊のような体格。持っているのは重長な武器。二人を押え止めるのは……

 大会運営側は何をしているのと見れば……支配人以下、全員が冷淡に眺めている。観客はと見れば……なんか薄気味悪い笑いを浮かべながら見ている。

「え……?」

 気味悪がっているアタシにギザキさんが視線を第三闘技場に向けたまま応えてくれた。

「気にするな。闘技を見る客なんてそんなモノだ」

 ……やっぱり、この人はいろんな戦いとかを経験していたんだろうな。目眩しそうなぐらいの頼もしさだ。

 しかし、誰も手助けがないと……審判のエァリエスさんだけで対処できるんだろうか……

 ……と心配していたら、狂ったまま戦っている二人の様子が変わり始めた。

「……ん? 女?」 「あぁ……女の匂いがする」

 狂ったままの視線を有りもしない方向へとぐるぐる回し投げて……二人ともエァリエスさんを同時に睨み付けた。

「女だ」 「あぁ、女だ」 「兄弟、ここは一つ……」 「……あぁ停戦して」

 狂っている。狂ったままの二人がエァリエスさんに向かって来たっ!

「エァリエスさんっ! 逃げてっ!」

 溜らずアタシが悲鳴に近い声を上げてしまった。けど……

 エァリエスさんは……向かってくる二人を気にもせずにアタシをちょっとだけ振り返って……にこっと笑った。

「前を見てっ! って……あれ?」

 次の瞬間、鈍い金属音が響くと同時に二人の動きは止まっている。何故かというと、素早く抜いた2本の剣で千斤斧と長大剣を受け止めたからだ。思いっきり両手で振り下ろされていたのに……

「凄っ……」

 熊みたいな輩が両手で振り下ろした武器の勢いを片手で持つギザギザの剣で受けたんだよ。しかも同時にふたつ。

「彼女も戦い慣れしているな。ソードブレーカーの使い方を知っている」

 そーどぶれーかー? エァリエスさんが振るっているギザギザの幅広い剣のこと?

「剣の根本の突起で相手の武器の先を……しかも受ける瞬間に引き流して受け止めた。弾かれないように力を入れながらね。彼程の使い手はそうはいない」

 と解説を聞いている間に狂った二人は両手で武器を持つのを止め、片手で武器越しにエァリエスさんを押さえつけながら、それぞれ空いた片手でもう一つの武器、千斤斧と長大剣を持ち、一気に振り下ろした。

 刹那っ!

 エァリエスさんはソードブレーカーで受けていた武器を弾き飛ばすと、振り下ろされた武器を……くるりと体を躱しながら受け……熊のような二人の腕はお互いに巻き付けられて……鈍い音が闘技場に響いた。

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁ」 濁った悲鳴を喚き散らすのはは熊のような輩達。 

「折れた?」思わず呟くアタシ。

「あぁ。肱の前後、つまりは腕と上腕が両方折れたな。大したモノだ」

 二人は腕を絡ませ合ったまま闘技場の石床に転がったまま呻いている。と、エァリエスさんは素早く二人の背後に回って剣の面で首の付け根を打ちつけて気絶させた。

「双方、闘技不適格にて、失格っ!」

 ざわめく会場を余所にエァリエスさんは「心配してくれてありがと」みたいな顔でアタシを見てから、さっさと闘技場を降りていった。

「なるほど。ああいう使い方もあるのか」

 って、何を感心しているんだろ? ギザキさんは。

「何のこと?」取り敢えず、聞いて欲しそうだから尋ねてみる。

「彼女が使っていた両刃の剣だと峰打ちができないとばかり思っていたのだけどね。なるほど。面で打てば同じ効果が期待できるな。うむ。百戦錬磨……いや、億千錬磨の使い手かも知れんなぁ」

 感心しきり。しかし、なんでこの人がアタシの横に居続けるのだろうか……って、理由は一つしかない。

「ギザキっ! 何してんのっ! さっさと闘技場から降りて、私に説明しなさいっ! 負けた理由をっ!」

 連れの巫女の人にどうやって説明しようかと悩む時間が欲しかっただけだな。


 ギザキさんは審判役の支配人と共に闘技場を降りていき、アタシは……ふと……誰かの視線を感じて……きょろきょろと見渡した。で、見つけたのは、人形遣いのグレイさん。第四闘技場と第三闘技場の間の隙間に潜んでいた。

 「何してんの?」と視線で問うアタシにグレイさんは「いや、何も。ははは。では、失礼しますよ」と小さな声で返してそそくさと退散したのは……

「アリア。大丈夫? 怪我しなかった?」とソフィアとヴィオラさんが駆けつけてきた所為だな。

「大丈夫だよ」と応えながら……さっきの「伏せろっ!」て声はギザキさんの声じゃなかったことをぼんやりと判別していた。ということは……グレイさんだったのかな?



 読んで頂きありがとうございます。

 これはアコライト・ソフィア、アリアとソフィア、闇の剣、岬岩城の姫の後編に当たります。

 感想などいただけると有り難いです。

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