12.勝ちと敗け 2
ソフィアとアリアの仲間達
「アリアっ! 早く上着を着てっ! はしたないわよっ」 と、お節介者げな声を掛けるのはソフィアに決まっている。別に見られても構わないデザインなんだけどな。ま、仰せの通りに闘技場に上がって袋鞄とかを届けてくれた盾の人から上着を受け取って、着ながらソフィアを見ると……
案の定、軽く相手をあしらっている。というか片手の指先で杖を回して相手の攻撃を総て防いでいる。その相手はと改めて見れば両手でなければ持てないような長くて重そう長剣を一生懸命振るっているんだけど……凄すぎないか? 相手の両手の力がソフィアの片手の指先なんだよ?
もう片手が何していたかと言えば……アタシに声を掛けたときは口の横、そして今は胸を撫で下ろすのに使っている。
あの……ソフィア? アナタは今、戦闘中なんですけど?
呆れるほどに余裕有り過ぎ。あんなんじゃ竜でも避けて隠れるんじゃないか? 次は「ドラゴンバスター・ソフィアぁあぁぁぁ」と支配人が言いそうだぞ。
「ソフィ姉ぇ。さっさと片付けようよ」
アタシの声にソフィアは「きょとのん」とした顔になって、相手を思い出したように見て、
「そうだった。戦闘中だった」みたいな感じでちろりっと舌を出す。
余裕有り過ぎて嫌みだぞ。それ。
と、「ぎゃいん」と金属音が響いて、どした? と見ると相手がソフィアの杖を空へと弾き飛ばしてた。
「余裕見せ過ぎなんだよ。アンタはっ! コレでオレの……」
勝利を確信したらしくニヤッと笑ってからソフィアに斬りかかってきた。
「……負けですね」
落ち着いた声でソフィアがしれっと言ったのと同時に相手が場外へと吹き飛んでいた。誰もが単にソフィアが突き飛ばしたと見ているんだろうな。でも実は違う。杖が飛ばされると同時に指先に作られた宝珠が効果を発揮しただけだね。多分、作ったのは風の飛礫。ガスト・ウィンとかいう法術で相手は南の通りの先まで飛ばされて……数回転がってやっと止まって……のびている。
相手が、地面で失神して大の字に伸びた時と同時に落ちてきた杖を受け止めて、またもや指先でくるくるっと回してから、闘技場をとんっと叩いて、審判に尋ねた。
「私の勝ちということで宜しいでしょうか?」
確認するまでもなく勝ちなんだけど、審判以下、全員が呆気に取られて勝敗のことを忘れていた。……そんな感じだ。そりゃそうだろう。結局、最初から最後までソフィアは片手しか……正確には片手の指先しか使っていなかったんだから。
「勝者っ! 疾風のソフィアっあぁっ!」
ん〜。取り敢えず勝ったから良いか。称号も……結果としては合っているかな。
「……凄い」
アタシの横で盾の人が呟いた。やっと判ったの? って、ソフィアを見たのは初めてか。この人は。
「土飛礫であれだけ威力があるのは初めて見た」
違うわよ。アタシが使ったのは砂飛礫。って、視線の先はアタシを見ていなくてソフィアを見ている。土飛礫? さっきソフィアが使った術のこと? 風系の術じゃなくて土系の術だったのか……というか、術を使ったのが判るなんて……ふぅん。やっぱり、かなりの実力者なんだね。
「流石ね。ちゃんと見ているなんて」と、誉めておこう。
「これでも戦場暮らしは長かったんでね」
さわやかに笑う。ん〜。ヴィオラさんの婿に推薦しておこうか? なんて思ったけど止めておこう。何故かと言えばだ……
「ギザキっ! 何で負けるのよっ!」
盾の人の連れらしい人……巫女姿の少女が後ろで怒鳴っている。どう見ても恋人みたいな感じだ。ヴィオラさんは「面倒なのは遠慮する」っていっていたからなぁ。
そうだ。ヴィオラさんは? と、見てみれば……楽しんでいた。
いや、戦闘なんだから楽しんでいるというのは不謹慎かなとも思うんだけど……やっぱり楽しんでいる。
相手はちょいと短めの剣を両手に持って殴るというか切っ先で息も継がずに突いているんだけど……ヴィオラさんが総て手で受け止めている。
手で剣を? 剣が持てない白魔導師なのに? って、その前に素手で切っ先を?
信じられないけど何回見直しても掌で鋭い剣の切っ先を受け止めている。
「ほぅ……指先で切っ先を受け止めるとは……」
指先? ん〜〜。んむ? 確かによぉ〜く見れば、長い指……親指と人差し指でとか、中指と薬指の間とか、果てには親指と小指でとか……兎に角、指先で挟んで切っ先を受け止めている。で、相手はそのまま奪い取れるのを防ぐために、素早く引いて突き直す。……という状況なんだな。
「文字どおりの百戦錬磨だな。実戦で修練していなければ彼程の余裕は出てくるまい」
盾の人は感心しきり。でもヴィオラさんは寺院で修行していたんだろうから、そんなに実戦自体はないだろう……て、ことは寺院の修行自体が実戦なみの内容を実践していたんだろうか? ……心底、入りたくない寺院だ。
で、呆れつつ感心しつつ戦いを眺めていると……相手の息が切れてきた。まぁ、あれだけの手数を繰り出し続けていたら、納得だな。
「ん〜。これしきで息が上がっていたんじゃダメだね。アンタは失格」
「何が失格だっ! そっちは防御だけで攻撃してねぇだろうがっ! 悔しかったらこ……」
「攻撃して来いっ!」って続けて言いたかったんだろうけど、次の言葉は聞こえない。何故かというと……ヴィオラさんの前蹴り一閃で西通りの先へと転げて消えていった。……消滅した訳じゃなくて転げて巻き上げた土煙で見えなくなっただけだけど。
「速くもないし、持続力もない。なにより根本的に強くないんじゃワタシの婿には到底なれないね。ま、『防御は最良の攻撃』って言葉も知らないようじゃ学も無さそうだし。どっかの寺院で修行して出直しな」
……あの。もし?
コレはヴィオラさんの婿選び大会じゃなくて武術大会なんですけど。
ま、順当に勝っているから良いか。と、溜息混じりに安心したアタシに誰かの声と……ソフィアとヴィオラさんの声が飛んできた。
「伏せろっ!」 「アリアっ! 危ないっ!」 「避けてっ!」
ん? と、事態が飲み込めていないアタシが何気に横を見ると……長大剣が唸りを上げて飛んでくるっ!
読んで頂きありがとうございます。
これはアコライト・ソフィア、アリアとソフィア、闇の剣、岬岩城の姫の後編に当たります。
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