1.大猫娘と人形と…… 1
ソフィアとアリアの仲間達
1.大猫娘と人形と……
「……あじぃ」
アタシは無駄と知りつつも呟かずには居られなかった。
なんでカンカン照りの山尾根の道を歩いているのかというと……ソフィアの占いの所為だ。先を行くソフィアは白銀色の細長い杖を持ち、大きめの袋鞄を背に、白魔導師の定番衣装の僧衣に乱れ一つもなくきちっと着こなしたまま、無駄口も言わずに時々、アタシを振り向き『しかたないわね』みたいな視線を投げつつも、無言ですすっとソツなく歩いている。
ここ数日、熱っぽいというか風邪っぽかったのに、ご立派です事。
ちなみにソフィアが持っているのは『光の杖』。『魔王が顕れるとき、光の杖を持つ尼僧が顕れ、魔王を撃ち倒すだろう』と巷の吟遊詩人の定番で歌われている杖。
……それがこんな所にあるなんて、出発した町の吟遊詩人達も知ったら目玉を飛び出させて吃驚して宿屋の屋根を突き破らんばかりに飛び上がるだろう。
とはいえ……いまはタダの旅の僧侶と同行一名。
「なんでソフィ姉ぇの戒律に付き合って居るんだろ……」
アタシはソフィアを『ソフィ姉ぇ』と呼んでいる。言っとくけど、本当の姉妹ではない。お互い旅の途中で出会って……まぁ、訳あって同行している。まわりに説明するのが面倒いので『義姉妹』で通しているけどね。
ソフィアの本名はソフィア・フレイア。誰も見たことはないという聖アィルコンティヌ寺院出身の白魔導師。階級はアコライト。つまりは見習い修行僧。毎朝、五角形で出来たサイコロ2個を投げて日々の戒律を決めている。
今日の戒律は『もっとも暑き道(手段)を』と『不言』だそうな。
……ということで、次の町までの道をもっとも暑いという山尾根の道を選んで一言も言わずに移動しているというわけ。アタシは『不言』の方は遠慮しているけど。
向かっているのはノギの町。精霊の名を付けて居るんだから遺跡とかお宝がありそうだとアタシが決めて向かって居るんだけど……こんな険しい道の場所だったとは。とは言え、普通は尾根下の日陰の道を使うらしい。断崖から見下ろせる道には幾つかの商隊やら旅人達が見え……たまにコッチを振り仰ぐ人達はアタシ達が何処かの旅初心者だと思っているに違いない。
あのね。こちとら旅慣れしている遺跡探検家のアリア・フェージァム・ファルド様だってぇのっ! 一人旅で世界を旅して……いたんだからアタシだけアッチの道を使っても良かったんじゃないの? って、気づくのが遅かったな。戻るより進む方が早そうな位置まで来ちゃってるし……
ははは……我ながら、ナントカ正直にソフィアに付き合っているな。なんでだろ?
まぁ、試練を踏めば踏んだ数だけ、強靱な人生になると信じて付いていきましょ。
って、何度目かの諦観の境地に達しかけた時……不意にソフィアが立ち止まった。
「ん? どしたの?」
ソフィアの先を見ると……なんか大きな毛の固まり? そしてその周囲に人集り。
ん〜 なんかの魔獣か精霊の使いかが倒れて、物見の人集りかな?
と、思う間もなくこちらに気づいた人集りがわらわらと囲んできた。
「おぅ。僧侶様達。貧乏な俺達になんか恵んでくれねぇか?」
既に抜刀している輩、斧やら鉈やらをぶら下げている輩。棍棒を持っているのは……三下だろうな……そんなのがアタシ達を取り囲んだ。
「えーと。つまり山賊さん達?」
疲れ気味に問い掛けるアタシに相手は不遜な笑みで応えた。
「おぅ。僧侶の従者様。従者も連れてなさるんだ。それなりの寺院のそれなりの役職には就いてなさるんだろう? さっさと出すモノ出しなっ!」
凄む山賊達を一瞥するアタシ。
悪いけど従者じゃないわよ。陣形態とか帯形態の黒魔法が得意な遺跡探検家と防御呪文は完璧な白魔導師一名なんだから。
ん? さっきと表現が違う? 気にしなさんな。時と場合で言い方は変わるんだから。
こっちが黒魔術が使えるとは露程にも考えていないヤツらの相手は疲れるからさっさと雷襲陣で終わらせようか、氷襲陣で凍らせたついでに涼もうかと悩んでいると、ソフィアが口を覆っていた聖絹布を取り、深々と挨拶した。
「ありがとうございます」
へ? なにそれ?
……と思ったのは山賊達も同じようで、ちょっとの間を置いてから凄み直してきた。
「なんだぁ? 感謝するよりも金目の物を置いて……」
「確認しますが……」
山賊達の言葉を遮ったのはソフィア。
僧衣のフードも取って、髪をふわっと広げて、杖を持ち直し、ゆっくりと確認した。
「アナタ方全員で私達を襲っているのですよね?」
額から出ている汗が髪と共に振りまかれたのは……ちょっとというか、かなり色っぽい。
でへ〜 とニヤけた手下達を無視して、山賊の頭目らしき男が脅し直してきた。
「そういうことだ。判ったらさっさと金目の物を……」
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これはアコライト・ソフィア、アリアとソフィア、闇の剣、岬岩城の姫の後編に当たります。
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