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聖霊の街  作者: 葛城 炯
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12.勝ちと敗け 1

 ソフィアとアリアの仲間達

12.勝ちと敗け

「な、何なんだ?」

 吃驚した顔からしかめっ面になった支配人に向かってびしっと人差し指を指してアタシは確認した。

「一つ確認したいんだけど……」

「だから何をだ?」

 そんなに先を急ぎなさんな。ちょっとだけ周りを見渡してみると全部の闘技場で試合が始まらずに止まっている。ん。それで良し。

「さっさと言ってくれないか? 次の試合も控えているんだから」

「確認したいのはアタシが魔法を使って周りに被害がおよんだ時、弁償するのはアタシ? それともソッチ?」

 取り敢えず、外堀を埋めておかないとね。心おきなく戦えないし。

「そんなことなら大丈夫だ。この闘技場の側面の呪紋は中から外へ、更には外から中への魔法効果を防ぐようにできている。序でに言うとだ。審判役が闘技場から降りない限り、戦う人間以外は誰も闘技場に上がることができないという効果もある。勿論、君の連れの幽霊もだ。……どういう理屈かは私も知らんから説明できんがね」

「そんな責任逃れみたいなこと言って。魔法効果がどうなるか判らないじゃないの?」

「絶対に外に効果が及ぶことはない。重ねて言うが、絶対にだっ!」

「んじゃ、効果が及んだ時はソッチで責任とって貰えるって事で良いのね?」

 むっとした顔になってやや感情が高ぶっているのを抑えたような声で支配人は応えた。

「あぁ。それで構わん。で、それだけか?」

「勝敗の決着方法をもう一回教えて」

 やれやれと言った顔で支配人は説明してくれた。意外といい人かも。

「勝敗は相手が戦闘不能となるか、降参するまで。闘技場の外に出た場合も降参若しくは戦闘放棄と見なされて負けとなる。魔術も使い放題。ただし、障壁の術だけは使用禁止。勝負が付かなくなるからな。コレで良いか?」

 なるほど。闘技場に上がってから言うのも何だけどシンプルなルールだな。さて……

「も一つ確認」 「何だっ? コレで最後だぞ。さっさと言えっ!」

「アレって勝敗を掛けているんだよね?」

 アタシが指さす先は札売り屋。

 普段は御守りとか荷札用の木札を売っていそうな屋台が勝敗の札を売っている。

「アア。そうだが? それがどうした?」

「アタシも賭けて良いかな?」

 支配人は「何を今更」みたいなことを言いかけたようだけど、アタシを説得するのは時間の無駄と決めつたようで顔を背けて、掌で指し示した。

「買いたければどうぞ。ただし、君の勝負に関しては相手の札は買えないぞ」

「そんなモノ買わないわよ。ありがとね。ゴメンね。ちょっとだけ待ってて」

 アタシは盾の人に断ってから札売り屋の方へと駆け寄った。

「お嬢ちゃん。どの札を買うんだい?」

 人が良さげだけど一癖在りそうなおっちゃんに普段より一層、無邪気な笑顔を装って尋ねた。

「アタシが勝つのって何倍になっているの?」

「悪いが誰もお嬢ちゃんの勝利に掛けていない。つまりは……一枚買ったら百倍は保証する」

 ふぅん。節穴の掛け屋さんだな。

「んで、アッチとソッチは?」

 何気なく聞いたという感じでソフィアとヴィオラさんのを聞いてみる。

「第一闘技場は尼僧の勝ちが5倍、相手の勝ちが場合によっては3倍、第二闘技場の尼僧は10倍、相手は場合によっては5倍だ」

 間違いない。限りなく見る目がない。「場合によっては」という言葉の意味は……あまり平穏無事なことを前提としていないだろうから深追いはしない。

 兎に角、見る目がないのは……ま、都合が良い。

「んじゃ、アタシの勝ちに一番大きい札を2枚、第一闘技場の尼僧の札を10枚、第二闘技場の尼僧の札を……20枚。宜しくっ」

「ぎゃははは。お嬢ちゃん、そんなに掛けて大丈夫か? 全部で金貨3枚と銀貨8枚だが特別だ。金貨3枚に負けとくよ」

 全て負け札だと判断しているのだろう。大甘だ。

「ありがとね。じゃ札を頂戴」

 ソフィアから「相手が強そうだったら棄権してね」と預かっていた金貨10枚の中から3枚を出し、換わりに札を受け取って闘技場の下に置いておいた袋鞄の中に……いや?

「あ、そうそう。道具は使っても良いんだよね? この鞄の中のは?」

 袋鞄を持って闘技場に上がって確認する。

「アア。構わん。道具を使わんことにすると剣もダメとなってしまうからな。で? もう良いのか?」

「ありがと。もう良いわよ」

 と言いながらも、アタシは袋の中の人形達と小声で確認していた。

『○……オッケー。やれるで』 「頼んだわよ」

 さて……と。袋鞄を軽々と片手で担いで右手にちょっと気を集中させてと……

「ではっ! 始めっ!」

 開始の合図と共にアタシは気合いと共に術を放った。

「土粉陣っ!」 闘技場一杯に土煙が巻き上がる。ま、目眩ましだね。陣形態の中では一番地味な効果しかでないヤツだ。けれども、仕上げを御覧じろってね。

 土煙でアタシも相手は見えないけど……闘技場の端々で呪紋が効力を発揮しているらしく青白い光と共に土煙を中へと弾いている。ふ〜ん。大した呪紋だね。お陰で闘技場の形が判って自分の位置も判る。

「大した法術使いのようだが……目眩ましだけでは勝てないぞ」

 盾の人の声だ。まぁ、お陰で相手の位置が……うわぉっ!

 盾の人はアタシの帽子を見つけていたらしく、襟首を片手で掴んで摘み上げた。

「さて、手荒なことはしたくないんでね。退場願うよ」

 と、闘技場の端に立って外へと腕を伸ばし……

「掛かったわね。砂飛礫っ!」

 ソフィアから『巨人の足蹴り並み』と評価を賜った無駄に威力のある砂飛礫が盾の人の背中に当たって、摘み上げていたアタシの帽子と上着諸共、闘技場の外へと転げ落ちた。

 ……序でに、闘技場の土煙と見物客をも砂だらけにして吹き飛ばしてしまったけど。

 なんかいつもより威力があるぞ? ま、闘技で気負っていた所為かもね。

「え? えぇっ!?」

 盾の人は起き上がりながら……闘技場の上にいるアタシを見て、自分が摘み上げていた上着と袋鞄を見て事情が判ったようだ。吹き飛ばされた見物人共々目を丸くしていたのはちょっとだけ笑えたけど。

「やられた。力持ちなんだな? お嬢ちゃん」

 アタシが片手で持ち上げたのを見て袋鞄が軽いと思ったのが罠の始まり。ま、実際、その時は軽かったけどね。土の精霊のミダルであるノーラに頼んで、袋鞄ごと重くして貰ったのさ。土煙の中で帽子と上着を括り付けたときにね。

 中着姿のままアタシは支配人に確認した。

「で、アタシの勝ちって事で良いんだよね?」

 まだ呆気に取られている支配人はやっと気づいたかのように見開いていた目を……もう二度三度とぱちぱちしてから普通の顔に戻って宣言した。

「第四闘技場〜 勝者〜 ミステリアス・アリア〜」

 をい。その称号は止めなさい。ま、いいか。勝ったし。



 読んで頂きありがとうございます。

 これはアコライト・ソフィア、アリアとソフィア、闇の剣、岬岩城の姫の後編に当たります。

 感想などいただけると有り難いです。

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