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聖霊の街  作者: 葛城 炯
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11.ちょっと待て

 ソフィアとアリアの仲間達

11.ちょっと待て

 え〜と。つまりだ。

 昨日、ヴィオラさんが宿帳に宿泊者の名前を書いたつもりがそれは武術大会の申請書で、大会の申請しに行ったら「既に申し込んでありますよ?」と言われて間違いが発覚したと。キャンセルしようとしたら「ならば未納の申込金の金貨10枚をお支払い下さい」と言われたと。ヴィオラさんの手持ちでは当然足りなく、アタシだってそんな大金持っていない。……ソフィアだったら持っていそうだけど、金貨20枚なんてギルドに預けてある方から下ろさないと無理なのは目に見えているし「預け金ではお断りいたします。ここは現金じゃないと」と言われてヴィオラさんは帰ってくるしかなかったらしい。

 話は変わるというか、関係しているけどギルドにはお金を預けることができる。現金を持ち歩いていたら危ないからね。ま、預けると言うよりはギルドが仲介した仕事をしたときに、報酬を後払いにするのが本当だけどね。ん? 利子? 何それ? お菓子の種類? 利子なんて言葉……ああ、金貸しの用語ね。そんなのは預かり金には付かないよ。

 兎に角、手持ちに金貨20枚なんて無い。ヴィオラさんは参加するつもりだったから良いとしても、アタシとソフィアは参加するつもりなんか毛頭無い。

「兎に角さ。ワタシが6回以上、勝てばそれで金貨30枚になるから……」

 一応、賞金はあるらしく、1回勝てば金貨5枚だそうな。

 ……随分と阿漕な運営だ。参加費だけでボロ儲けだな。

「棄権したらそのときに参加費を取られるんだから、勝ち続けるなんて関係ないじゃないですか。私とアリアの戦いまでにヴィオラさんが6回も戦えないじゃないですか」

 はい。ごもっとも。

 ヴィオラさんも反論できなくて……仔猫のように小さくなっていく。

「ネメシアさん……悪いけど、いいよね?」

 アタシはネメシアさんに同意を求めたのは……昨日買った骨董品。コップで金貨100枚ならば笛みたいのとか、鈴みたいのもそれなりには売れるはずだ。ネメシアさんはアタシの言いたいことがすぐに判ったみたいで『いいわよ』とばかりに満面の笑みを返してくれた。

「なに? どうしたの?」

 まだ飲み込めないソフィアと小さくなっているヴィオラさんを宿に残して、アタシとネメシアさんは品を手に骨董屋へと駆けていった。



「……はぁ。足元みられた」

 溜息混じりに呟くしかない。

 結局、売れなかった。というか売らなかった。

 念のため言っとくけど、買った店になんか持っていかないよ。それこそ買った値段より低い値でしか取ってくれないからね。

 しかし……安かったなぁ。最初は笛と鈴を出し、反応が良くないので残すつもりだったコップをも出したんだけど……出てきた値段は買ったときの値段より低い。武術大会モードで聞いてもくれないという感じだ。

「だったら店を開けてないで見物に行けばいいのに」

 ……という愚痴も無理だ。開催は明日から、それまでは売れるモノは売ってしまおうという方針らしい。何故かというと……どっちが勝つかというギャンブルが催されるらしい。そのための手持ちの資金が欲しい。それだけで開けているんだよ。買い取りなんかまっぴらゴメンだ。……という事らしいんだよね。

 ならば売る必要はない。少なくとも違う町に行けばそれなりの値段で売れそうなんだから。

「はぁ……参加するしかないか」

 心配なのは……参加する事じゃない。ソフィアの怒りが収まらないことだ。


 結局、その夜はソフィアの怒りを宥めるのに手一杯で……夢は見なかった。



 翌日。闘技場の横にいた。

 何やら複雑怪奇な呪紋が側面に刻まれた石床の闘技場。闘技場は4つ在って、4つの真ん中にこれまた見たこともない呪紋が刻まれた石柱が1本、斜めに立っている。石柱の上の方に水晶みたいのがあるんだけど……まぁ、高そうな宝石の類では無さそうだ。なんかくすんで灰色っぽく変色している感じだし……

 ちなみにこの町は東西南北に大きめの通りが走っていて、その交差点が八角形の広場。闘技場はその広場に東西南北の方向に一つずつ在る。石床の高さはアタシの背よりちょっと低いぐらい。普段は……演説会場とかなのかも知れないね。

 で、ヴィオラさんとソフィアはアタシとは別の闘技場の横。御丁寧にも3人同時に別々の闘技場で戦闘開始……ということになっていた。ちなみにネメシアさんはアタシの横にいるけど誰も気にもとめていない。ここ数日……じゃないな昨日、歩き回っていた所為で幽霊であるネメシアさんの事は周知の事実となっている……らしい。んで、ネメシアさんは闘技場の側面に描かれた呪紋を恐る恐る触っては慌てて指を引っ込めている。……幽霊除けの効果でもあるんだろうか?

 ちなみにソフィアの人形達は……アタシの横の袋鞄の中。「いざという時にね」とソフィアの心配により持っていくことを強制させられたのさ。人形というか精霊のミダルの力を借りなくても大丈夫だけどね。ま、戦力は少ないよりは多い方が良いでしょ。

 しかし……なるほど。ギルドの支配人兼宿屋の主人が武術大会の運営責任者か。宿帳のつもりで申込書が置いてあったとしても自然だし、ヴィオラさんが間違えて書いたとしても自然だなと。

 ……そうか? などと自分に突っ込んでも仕方ないし。とは言え、どうしようか。

 棄権するのは簡単だけど、なんか面白くないし。そうは言っても戦うのはねぇ……

 何故ってアタシの得意なのは黒魔術。しかも無差別攻撃呪文である陣形態とか帯形態とか。術の対象範囲が広すぎてこんな狭い闘技場じゃ見物人達にも被害が及んでしまう。勝ったはいいけど治療費とかで大赤字になりそうだ。

 さて、どうしようかな。

 ……などと悩んでいると、支配人が闘技場に登って演説を始めた。

「さて、お集まりの紳士と淑女の皆様……」

 お決まりの演説は基本的に右から左へと聞き流して、周りを見る。まぁ……血が見たそうな顔やら勝ち負けの札を賭けた相手の勝利だけを願っている顔やら……紳士と淑女の集まりにはとても見えないな。

「では第一闘技場〜 対するは怪力の尼僧〜 ヴィオラ〜 相対するは〜」

 フルネームで言わないのは当然として、怪力ねぇ……多分、当たっているだろうけど。

「第二闘技場〜 対するは疾風のソフィア〜 相対するは〜」

 疾風ねぇ。

 確かに風のように空を飛んだりするけど。そんな事は知らないだろうから適当に付けたんだろうね。

「第三闘技場〜」

 呼ばれて登場したのは昨日、盾の人に一発殴られて倒されていた厳つい千斤斧の人と似たような厳つい大男。背に5,6本もの長大剣を背負っているのは……なんか笑える。んで……

「審判は〜 双鋼玉眼のエァリエス〜」

 ん〜 エァリエスさんが審判ね。

 巻き込まれても大丈夫だな。……多分。腰にちゃんと帯刀しているし……

 さて……アタシがいる東の方の闘技場の番だな。

「第四闘技場〜 対するは……」 ちらっとアタシを見て……何というかを悩んでいる……

「……今大会一のダークホース。ミステリアス・アリア〜」

 ……言うに事欠いてそれかい。

 ま、いいさ。確かにダークホースだろう。参加最年少は間違いなさそうだし。覚悟を決めて闘技場に登りますかね。

「相対するは〜 鉄壁の防御〜 無剣のギザキ〜」

 んん?

 相手は昨日、厳つい千斤斧の人を一発で殴り倒した……あの4つの盾の人だ。無剣ということは……つまりは相手を殴り倒すという訳ね。

 ん〜 だったら戦い方も無難に済ませそうだな。

「さて、ルールは皆様〜 御承知でしょうから〜 さっさと始めます〜」

 急に品格が無くなったぞ。支配人のアナウンス。……いや? 元から無かったか。

「では……」 支配人の右手が高々と上げられて……

「ちょい待ちっ!」

 止めたのは……他ならぬアタシの大声。ちょっとだけ思い付いたのさ。



 読んで頂きありがとうございます。

 これはアコライト・ソフィア、アリアとソフィア、闇の剣、岬岩城の姫の後編に当たります。

 感想などいただけると有り難いです。

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