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聖霊の街  作者: 葛城 炯
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8.必要な……モノ?

 ソフィアとアリアの仲間達

8.必要な……モノ?

 ヴィオラさんが買ってきたのは新しい紫銀の鎖と丈夫そうな僧衣……じゃなくてなんだその服は?

「これは戦闘用僧衣。肩口とか胴回りに余裕があって、腰、膝の動きが邪魔されない法衣。ま、ワタシのサイズがあるか不安だったけど、武術大会のおかげか、ちゃんと在ったよ」

 んじゃなくて、何故にその服を?

「ひょっとして……武術大会に出るの?」

 アタシの問い掛けに……ヴィオラさんはにっこりと笑って応えた。

「そ。さっき、この部屋を借りるときに一緒に申請してきたのさ。実際に手合わせしないとね。実力があったとしてもワタシに勝てるぐらいじゃないと。婿の基準は厳しいのさ。かははは」

 泣いてた大猫娘がもう笑ってる。

 というか……普通に武術大会に優勝できるような人が相手だとしても……聖アィルコンティヌ寺院出身の実力者に勝てるのか? ソフィアが桁外れに強いんだから、ヴィオラさんだってそれなりに桁違い程度には強いはずだ。

 どうなんだろうと、ソフィアを見ると微笑んでいるけど『どうしましょ?』みたいな感じだし、ネメシアさんは首を左右に振って呆れている。

 ……やっぱり、余裕で優勝してしまいそうだな。

 ふと、手に違和感を感じると……ネメシアさんがアタシの手を持って『外に行きましょ』みたいな感じでドアを指さしている。

「あ……ソフィア。外に行ってもいい?」


 外に出てみると……ネメシアさんは片手で剣を抱いて、もう片手でアタシの手を持って先へと進んでいく。アタシの頭とかにはソフィアの人形達が引っ付いている。護衛みたいなモノなんだろうけど、ソフィアも心配性だな。アタシだって一人で世界を旅していたんだから、破落戸の2、3人……って、改めて通りを見ると一騎当千のような顔をした輩がアチコチで殺気をこれでもかと放っている。熊のような『怪力です』と言わんばかりの巨漢やら、三白眼で『今まで殺った人間の数は数えたことがありません』みたいな薄気味悪い剣士とか。

 ん〜。確かに武術大会が終わるまでは無駄な争いは避けた方が良さそうだな。

 武術大会が無くても無用な争いは避けた方が良いという常識的な意見は却下。

 そのぐらいの気構えがないと、すぐにつけ込まれる世界なんだから。

 で、ネメシアさんがアタシを連れて行ったのは……古道具屋。

 古すぎて効果が不明な盾やら武器やら防具やら杖やら……そんなのが『誰にも買われないので数年はここにいますよ』みたいな感じで埃を被っている。

 大丈夫か? この店。

 幽霊ネメシアさんを見ても動ぜずに入り口付近で店の主人は居眠りというか微睡みに戻っていくし。

 と、ネメシアさんがすぃっと奥に入って……棚の上の陶器を指さした。

 にっこりと笑う笑顔の意味は……『コレを買って頂戴』なんだろうな。想像するに……ネメシアさんはさっきもヴィオラさんに買い物をねだりに連れ出したんだけどヴィオラさんは自分用の買い物で頭が一杯で聞いて貰えなかったんでアタシを連れ出したと。……そんなところだろうね。

「判った。それだけで良いんだよね?」と、一般慣用句的に言ったのがいけなかった。

 『あら? それじゃ……』みたいな感じで、アレやコレやと……

 アタシの財布の都合もあるんで……3つほどで勘弁して貰ったけど、結局、財布の底が見えかけるぐらい買わされてしまった。高いぞっ! この店っ! ……ま、そんなんだから、埃かぶってても商売になっているんだろうね。

 将来、自分の店を持ったときの参考にさせて貰おう。


 宿に帰って、品物をテーブルに並べ、仕方なしに溜息混じりで埃を払い、樹綿の布で磨いてみる。

 ん〜。なんか変な呪紋様が刻まれている取っ手が4つ付いている陶器のコップ? 同じ様な呪紋様の陶器の……笛かな? もう一つは……金属だか陶器なんだかよく判らない球形の……鈴かな?

「アリア。何買ってきたんだい?」

「ネメシアさんに聞いてよ。アタシも知らないんだから」

 と、ネメシアさんを見るとアタシが磨いた陶器のコップを嬉しそうに手にとって、ソフィアに差し出した。

 ソフィアがきょとのんとした顔で暫く見ていたけどネメシアさんの唇が僅かに動いたのを見てアタシに「なんと言っているの?」みたいな顔で助けを求めてきた。

「え〜とね。『霊精を御願いね』って言ってたみたいだけど」

 もう一度、きょとのんとした顔でネメシアさんを見てからソフィアはコップを手に取った。

「ネメシアさんのお望みでしたら構いませんけど……」

 コップを手に取り……何故かじっと見ている。

「あら。これってムーマ文明時代の儀式用聖杯じゃないですか。アリア。流石ね。遺跡探検家というのは伊達じゃないわね」

 やっと判ったの? って、それはネメシアさんが……あれ? ちょい待ち。ムーマ文明の儀礼用聖杯って……

「もの凄い骨董品じゃないっ!」

「そうよ。知らないで買ってきたの? これ、好事家だったら金貨100枚は……きゃあっ」

 ソフィアが声を上げて引いたのは……ネメシアさんが睨んだだけだよね? アタシは真横というかやや斜め後方にいたんでネメシアさんの表情はよく判らなかったけど。

「わ、判りました。霊精ですよね」

 コップを指先に持ち、薬指を中に入れて二度三度と振ると……縁一杯までの虹色に煌めく透明な液体が満たされた。……手品みたいだな。間違いなくネタがある訳じゃないんだけど。

 そしてコップをネメシアさんに渡すと『悪いわね。ありがと』と言わんばかりの笑顔で受け取って……一気に飲み干した。

 『ぷはぁっ』と満足げな顔で微笑むと……もう一度、コップをソフィアに差し出した。

 『お代わり頂戴』だね。間違いなく。少しネメシアさんの身体の透明度が下がっているのは……霊精の効果なのかな?

 結局、七杯ほど霊精を飲み干すと、八杯目の霊精を指にとって魔剣に巻き付けた紫銀の鎖を磨き始めた。

「何しているんだろうね?」

 とソフィアに聞いてみても困った顔で首を小さく振るだけ。ソフィアに判らないんじゃアタシに判るはずもない。



 読んで頂きありがとうございます。

 これはアコライト・ソフィア、アリアとソフィア、闇の剣、岬岩城の姫の後編に当たります。

 感想などいただけると有り難いです。

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