7.魔剣と人形遣い 2
ソフィアとアリアの仲間達
「でも……あの剣にはグレイさんが封印呪をかけてあるのでしょ? 魔を封じられているのでしたら……」
んむ。やっぱりこういう事は専門家に任せるべきだな。ソフィアは白魔導師でこういう事の専門家だからして。
「いや。問題は……グレイが変わってしまったということ……らしいんだ」
エァリエスさんは額に手をあててゆっくりと思い出すように言葉を続けた。
「アイツは……グレイは人形遣い。人形遣いの弱点は……」
ソフィアをじっと見る。
「……アンタも知っているんだろうけど、人形遣いの弱点は『浄化』の術。実際、アタシの目の前で……」
瞳を閉じて……暫く黙ってから、続けた。
「……けれど、その時に自分自身で浄化の術を……応用した術を使ってアタシを救って、そしてあの剣に封印呪をかけた。ソコまでは良いんだ……良いらしいんだけど……」
エァリエスさんが言っているのは多分、グレイさんの説明なんだろうな。自分で言っていることを自分自身ではまだ理解していない感じだからね。
「問題は……生き返らせたのがあの幽霊。いや、あの幽霊の基本魔法が浄化ということらしい」
ん。なるほど。
「つまり、弱点だった浄化の術を死の間際に使ったのは良いとして……生き返った法力自体が浄化の術なのが問題ということ?」
アタシの問い掛けにエァリエスさんが戸惑いながら頷く。したり顔でアタシは微笑んだ。……けど、合ってるらしいのはいいとして言ったことには全く自信がない。
「どういう事? アリア」
ソフィアに問い掛けられてアタシは自分の頭の中を整理しながら説明した。
「グレイさんの弱点は浄化。それが判っていたから浄化の術自体を使うことは出来なかった。浄化の術を知っていたけどね。でも、死ぬのが判っているときには、弱点なんぞを気にする必要もないから浄化の術……の応用術を使ってエァリエスさんを救って、序でに魔剣に封印呪をかけた。これも浄化の術を使ってね。それで復活してみたら……自分自身が浄化の術で復活されていたと。つまり……」
え〜と。ソコまでは良いんだよね。
「つまり……弱点だったのが弱点じゃなくなっているということが問題……なんじゃない?」
……だよね?
「つまり飛べないニワトリが飛べるようになってしまったというか、魚が陸の上で普通に呼吸できるようになって『あれ?』というような……感じなんじゃない?」
自信ないけど……さっき見た感じとかの総合的判断でそういうことだと……そう考えて良いんだよね?
……と、アタシが自分自身の説明に納得しようとしているけど、ソフィアもエァリエスさんも『なるほど』みたいな顔をしているから良いことにしておこう。
「ん。多分そういうことだね。この木の箱も……」
床に置いた木の箱を指さしてエァリエスさんは説明を続けた。
「アイツの持ち物。死ぬときにアイツから預かったんだけど、アタシが開けようとしても開かないんだ。さっき聞いたらグレイの法力の……固有振動数とかで鍵をかけてあるらしいんだけど……」
「……いま、グレイさんが開けようとしても法力の振動数が変わってしまっているから開けられないんでしょ?」
……と、憶測で言い切ってみた。
「そう。流石だね」 エァリエスさんがにっこりと笑って感心してくれた。
懐かしい晴々とした笑顔だ。……ん? 『懐かしい』? なんで?
「そうなんですか?」
アタシの疑問に気づくはずもなくソフィアはそっと指で箱の呪紋様を触ってみる。……と、
ばちっ!
小さな火花が散ったような音を放って、ソフィアの指を弾いた。……呪紋様が? それとも箱の封印呪?
「箱は古いけど……呪紋様はかなりの効果を発する品ですね。しかも、鍵がかかった状態のまま保持している……しかも表面を霊精でコーティングしてあるから……霊精が尽きるまではこのままですね」
霊精で? 霊精って法力の源って言っていたよね? 昨夜。
「つまり、箱自体が法術を発揮中って事? だよね?」
尋ねるアタシにソフィアが振り向き、にっこりと笑って頷いた。エァリエスさんは「なるほど」という様な顔をしてから「さすがだね」みたいな顔でアタシを感心してみている。
ふふん。なんか魔法術のことが判ってきたぞ。 ……たぶんソフィア達の億分の一ぐらいだろうけど。
「……それで、あの剣にかけてある封印呪も今、どうなっているのやら。そして……どうなるのか判らないんだ」
んむ。掛けた本人が戸惑うぐらい別人になってしまっているようなモノなんだから……そういうことだよね。
「どんな封印呪が掛けてあるんですか?」
読んで頂きありがとうございます。
これはアコライト・ソフィア、アリアとソフィア、闇の剣、岬岩城の姫の後編に当たります。
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