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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第35章 人形墓標
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第25話 ゴーレムの命

 魂へ干渉することが可能な【深淵魔法】。

 対象へ破壊の力を込めることで魂の破壊も可能となる。

 メリッサに憑りついた女性型のゴーレムだったが、逆にメリッサから至近距離で【深淵魔法】を受けたことで魂を傷付けられてしまった。もしも、体があったなら全身を刃物でバラバラにされ、燃やされるような苦しみに苛まれているはずだ。


『馬鹿なの……? 【深淵魔法】は使えば自分にもダメージがあるのに……!』


 使用の際、使用者の魂にも負荷が掛かる。

 傷付いた魂を癒す方法は時間しかなく、癒すにも膨大な時間を必要としているため生涯で数える程度しか使用することができない魔法。したがって、使い勝手の悪さもあって人々の記憶から忘れ去られていた。

 古代文明時には、どうにかしようという研究も本気で行われていた。

 そのため遺跡の主たちは【深淵魔法】についても知っていた。


「問題ありません。私は【深淵魔法】に耐えられるだけの魂を保有しています」

『そんな方法が……』


 文明が栄えていた時代でさえ見つけられなかった方法。


「所有者の魔力を10倍に引き上げてくれる【魔神の加護】というスキルがあります。ですが、このスキルを持つ者がどのようにして10倍もの魔力を手にすることができるのか。それは、魔力の源とも言える魂の強度を10倍に引き上げることで可能にしています」


 つまり【魔神の加護】が有効な内は、常人の10倍の強度を持っている。

 普通の魂では耐えられないような【深淵魔法】であってもメリッサは問題なく使用することができる。


「耐えられることは分かっていました。ですが、なかなか踏ん切りがつかなかったので貴方たちのような方に出会えたのは僥倖でした」

『貴女は……!』


 女性型ゴーレムが完全に動かなくなる。


『おい、エレメア!』


 遺跡の主が女性型ゴーレムに宿っていた人物の名を呼ぶが、反応が返ってくることはない。


『お前ら……!』


 ラチェットさんの体に憑いたまま俺の方へ向く。

 その間へメリッサがサッと割り込む。強力な【深淵魔法】だが、十分な効果を発揮する為には触れているか、お互いの存在を強く認識する必要がある。最も簡単な方法は視線を交錯させることだ。

 そんなことまで分からない遺跡の主だったが、割り込んだメリッサから脅威を感じて顔を逸らす。


「余所見をしていていいのか?」

『……!?』


 逸らした方向とは反対からラチェットさんの腹を殴る。

 何の防御もできていなかったため苦痛に顔を歪ませながら横へ吹き飛ばされる。


『おい、いいのか!? この男は人質に取られているだけだぞ!』

「きちんと手加減して死なないようにするから問題ない」

『そういう問題では……』

「彼に協力して遺跡を攻略するのが俺たちに与えられた依頼だ。本当なら二人とも連れて帰らないといけないところなんだけど、一人連れて帰れなくなったから彼ぐらいは連れて帰りたいんだ。けど、人質に取られた状態なら無理に連れ帰る必要もない」


 死なせない為の努力はする。

 けど、努力が報われなかった時の覚悟はしている。


『その覚悟をするのは、この男の方だろ』


 ラチェットさんが拳を構える。

 今の彼は遺跡の主に支配されている。この構えも遺跡の主によるものなんだろうけど、これまでの戦闘で学んだ遺跡の主は本人とそっくりに構える。

 そして、支配している状態であるため力の使い方も把握している。


『ハァッ!』

「【魔導衝波】」


 接近して突き出されたラチェットさんの拳。

 合わせるように俺も拳を突き出すと二人の魔力が衝突して弾ける。

 ラチェットさんの【魔導衝波】なら爆発が起こるはずなのだが、魔力が俺まで届かなかったことで爆発が起こらない。


 自分よりも戦闘力の強い体を手に入れた遺跡の主は、思い通りにいかない状況に歯噛みし、空いていた左手を手刀にして振り下ろす。

 手刀の先にある足と衝突してラチェットさんの体が後ろへ弾かれる。


 手刀であろうと蹴りであろうとも相手の体へ魔力を流すことで衝撃を発生させるのが【魔導衝波】。コツさえ掴めば、どんな体勢からでも使用することができる。


「ほら、ドンドンこいよ」

『……いいだろう』


 駆ける遺跡の主が拳を振るう。

 大振りの攻撃。回避するのは簡単であるため体を反らすことでやり過ごす。


「ん?」


 背後、おまけに上下から迫る大量のディアント鋼。

 一瞬で鋼の壁を形成すると退路を断つ。


『もらった!』

「狙いがバレバレなんだよ」


 拳と共に叩き付けられるはずだった魔力。

 それらは俺の眼前に展開された【迷宮結界】によって阻まれた。


「お返し」


 腹を殴って浮かした体、落ちてきたところを下から蹴り上げて殴る。

 ついでに殴った瞬間、爆発が起こるよう細工をする。


『こ、これは……!』

「ラチェットさんの使う【魔導衝波】だ」


 爆発の規模は小さくしてあった。おかげで殴られた左腕がズタズタに裂かれて、火傷を負うだけで済んでいる。


「原理が分かればそれほど難しいものじゃなかった」


 元々【魔導衝波】を使うことができた俺にとっては少し手を加えるだけで爆発を起こせるようになれた。

 爆破できるようになって思い知らされたのは、【魔導衝波】の殺傷力。

 加減していなければラチェットさんの腕は内側から吹き飛ばされていた。


「こういうのはどうかな?」


 周囲に火球を浮かべる。


『なんだ、その数は……?』


 人間の頭ほどのサイズがある火球が100個。

 それらが俺の合図で一斉にラチェットさんへと襲い掛かる。


『オラァ!』


 拳が火球へ叩き付けられる。

 直後、内側で発生した爆発によって火球が吹き飛ばされる。


『やればできるじゃないか』


 一つの火球を吹き飛ばせたことに一瞬だけ喜ぶと次の火球へ拳を叩き付けて吹き飛ばす。


『この男のポテンシャルは把握した』


 遺跡の主が言うように火球が次々と消されて行く。

 ラチェットさん自身も自分の能力を信頼していれば、このぐらいのことはできたんだと思う。けど、魔法使いとして大成しなかったことから自分の限界を定めるようになってしまった。

 結果、遺跡の主の知識からできるはずだ、と判断されたこともできなくなっていた。それは得意なはずの【魔導衝波】でも同じだ。


『はぁ……はぁ……どうだ』


 全ての火球を消し終えた遺跡の主は、ラチェットさんの体で息を荒くしていた。


「【虚空の手】」

『ぐぅ……!』


 シルビアから【虚空の手】を借りてラチェットさんの体を押し出す。

 俺の熟練度でできるのは僅かばかり後ろへ押し出す程度だ。


「そろそろいいか」


 軽く押した程度。

 それなのに尻餅をついてしまった体では抵抗力は少なくなっている。


「【深淵魔法:魂壊】」


 【跳躍(ジャンプ)】でラチェットさんの隣まで移動したメリッサが杖で後頭部に張り付いている金属の手を杖で叩く。

 杖を介して【深淵魔法】が叩き込まれる。


『がぁ……! こり、はぁ!?』

「下手にゴーレムの身で人の意識を強く残したのが失敗です。ゴーレムの身に宿っている魔力は、ただのエネルギーでしかありません。魂から生成された訳でもない魔力では魂を守れるほどの力はありません」


 【深淵魔法】ならピンポイントでラチェットさんの身を傷付けることなく、遺跡の主の魂――魔石だけを破壊することができる。

 ただし、手加減だけはしている。


『あ、ぁぁ、あああ……!』


 鋼の手がラチェットさんの後頭部から剥がれる。

 指の一部をラチェットさんの脳内に残したまま離脱する非常に危険な状態。それでも引き剥がすことには成功した。


 這うようにして逃れる遺跡の主。

 向かう先にあるのは、元のゴーレムの体。魔石を破壊される苦痛から逃れる方法は一つしかない。


『はやく……他の魔石、へ……』


 破壊されようとしているのは左手に宿った魔石。

 他の万全な状態の魔石へと移し替えれば回復するかもしれない。もしかしたら、移し替えたとしても激痛が残ったままかもしれない。それでも、今の遺跡の主が頼れるのは、この方法しかなかった。

 もっとも、そんな希望も目の前であっけなく潰える。


「【圧壊】」


 闇魔法によって重量を増されたことで軋みながらゴーレムの体が潰される。

 これで頼れる魔石も一緒に潰れた。


『あ、あぁ……』

「もう終わりだ」

『いやだ、死にたくない!』


 遺跡の主の必死の叫び。

 だが、魂を震わせたことで魔石に大きな亀裂が走って寿命を大きく縮めることとなる。


『私は……私のような天才は、このようなところで、死んでいいはずが……』

「ところで、今のお前は生きていると言えるのか?」

『な、に……?』

「手だけになった体、他人の体を乗っ取らないと生けていけない体、金属で造られた人間の形をした体――どれも俺には『生きている』とは思えない」

『だから、私は研究を完成させようと――』

「終わりのない命。たしかに惹かれるものはあるかもしれない。けど、その身で何をして、何を遺すつもりなんだ?」

『……』


 答えられない遺跡の主。

 もしかしたら、遺跡の主にも生きてやりたい事があったのかもしれない。けれども、長く実験を続けている内に手段が目的となってしまった。今となってはやりたかった目標を叶えることすら不可能だ。


『私にもやりたいことがあった。けど、どんな事だったかなんて、もう忘れてしまった……この遺跡をどうするのかは好きにするといい』

「いいのか?」

『私なりに遺してみたくなっただけの話だ』

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