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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第35章 人形墓標
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第21話 鋼人

 壁に叩き付けられて座り込んだブライアン。

 その周囲にある壁や床の表面が剥がれてブライアンの体へと寄せ集められて行く。


『この施設にある「命の水」は、ゴーレムを生み出すことに特化しています。そして、建物に使われている金属はゴーレムの実験にも耐えられるよう頑丈な金属を使用しています』


 壁の傍で人が立ち上がる。

 ただし、それはブライアンではない。銀色の光沢をした金属で造られた人――背格好を見る限りはブライアンのように思える。


『ハハハッ、力が無限に沸き上がってくるみたいだ!』


 ブライアンが顔を上げると駆ける。

 普通の人が走るのと変わらない速度。振り抜かれた拳を手で受け止める。


「おも……」


 金属の拳を叩き付けられた手が痺れる。


『そんなことで安心していいのか?』


 腕に力を込めるブライアン。

 顔をこちらへ向けると口に当たる場所から光が溢れて線が発射される。


「クソッ……」


 光を吐き出すブライアンを上へ投げ飛ばす。

 同時に【迷宮結界】を展開させて防御する。


「マズいな」


 先ほど『命の水』を飲んだ直後も攻撃の威力が強化されていた。

 けど、その時以上に今の攻撃は強化されている。


『イイネ! これだけの力があればワタシを馬鹿にしていた連中も文句を言えないだろ』


 身を低く屈めるブライアン。

 足の後ろから光が溢れて床を滑るように移動する。速さは、さっきまでと比べ物にならない。


『ハァ!』


 滑りながら体を回転させたブライアンが拳を振りかぶってくる。

 回転と速度が加えられている分さっきのように受け止めるのは危険かもしれない。回転の動きを見切って後ろへ跳んで回避する。


『……それぐらいのことは読めているさ』


 さらに回転を加え、肘からも光を噴出させて真っ直ぐに拳を突き出す。


「……っ!」


 腹に叩き付ける衝撃。

 後ろへ押される衝撃を利用してブライアンから離れる。


「大丈夫ですか、ご主人様!?」


 ダメージを受けた俺を心配してシルビアが駆け寄る。

 アイラもブライアンから俺を守る為に剣を手にして立つ。


「大丈夫だ。拳が直撃する直前に【迷宮結界】を展開させた。破壊不可の壁を破壊できるほどの攻撃ではなかったけど、拳の先から放たれた光だけは結界をすり抜けて俺に届いた」


 拳そのものが届いていた時には危なかったが、光だけなら衝撃を受けてしまう程度に済ませることができる。


「いったい、あいつはどうしたの!?」

「俺を攻撃してくるのはさっきまでと同じだ。俺の強さが妬ましい、自分の強さを証明したい……そんな身勝手な理由だ。だけど、今の力はゴーレムへ近付いたことによって強化されているんだ」

「ゴーレムへ近付く? いいえ、全く違います」

「どういうことだ?」


 ブライアンを見つめたままのメリッサ。


「今の彼からは命を感じられません」

「……!?」

「本当。人間らしい体温が感じられない」


 冷気の操作が得意なイリス。

 熱の感知も得意なので間違いないだろう。


「まさか、金属を取り込んで鎧を造ったんじゃなくて……」

「金属の鎧そのものに魔石を宿してゴーレムになった」


 既に内側には人間の体がない。


「そういうことだ!」


 両手を俺たちの方へと向けるブライアン。

 手の中心に小さな穴が生まれ、光の弾丸がばら撒かれることとなる。


「散開!」

「え、うおっ!?」


 状況が飲み込めず呆然としているラチェットさんをシルビアが掴んで走り出す。しかし、その時間が足枷となって光弾が直撃する場所に留まることとなる。


「残念」


 だが、全ての光弾が直撃することなく後ろへ飛んで行く。

 ブライアンに直撃するはずだった光弾も同様だ。


「すまねぇ、助かった」


 二人が直撃を免れることができたのはシルビアの【壁抜け】によって全ての攻撃をすり抜けたからだ。

 絶対的な回避力を持つ【壁抜け】だが、二人分の回避ともなれば消耗も大きくなる。全ての攻撃を回避できるほどの余力が残されている訳ではない。


「俺も自分で動く」

「そうしてくれると助かります」


 ラチェットさんからシルビアが手を放す。

 すると、彼女の姿がスゥと消えていく。それでいい。シルビアの役目は奇襲。絶好の機会が訪れるまで身を隠しておいてくれた方がいい。


 その間にイリスとメリッサを除いた全員で一気に近付く。


「早くして! けっこうな広範囲で展開させているから、いつまでも維持できるような代物じゃない」

『ありがとうございます』


 イリスの役割は、第四階層にあった装置の防衛。

 他の階層への移動を装置が担っている可能性が高かったため守る必要があった。【迷宮結界】を維持していられる内なら問題ないだろう。


 光弾を回避しながら進む。

 あと三歩で到達するところまで近付いたアイラが剣を抜く。


『ウゼェ』


 光弾をばら撒いていたブライアンの左手が発射を止め、アイラへと掌が向けられる。


 掌から放たれる極太の光の線。

 目を閉じて掲げた剣を振り下ろすアイラ。

 剣から放たれた斬撃が極太の光の線を弾く。


「くぅ……」


 切り捨てた端から放たれる光。

 継続的な威力で勝る光の方が勝り、アイラが押され始める。


『この遺跡のゴーレムは攻撃に光を用いるのが多かった。それを魔法で再現したことで下に居たゴーレム連中よりも私の方が強くなったんだ。もはや、誰にもワタシを止めることはできない』

「では、こうすればどうでしょうか?」

『ナニィ!?』


 ブライアンの背後へと回ったシルビア。

 その手が背後から体の中心へと伸ばされる。今のブライアンは魔物であるからこそ魔石を抜き取ることで勝利することが可能になっている。


「っう!」


 しかし、シルビアの手が魔石に届くことはない。

 ブライアンの金属の体に触れた瞬間に弾かれてしまった。


『この体を構成しているのは壁に使われていた物と同じだ。スキルなんか弾いちまうさ……ん?』


 余裕といった態度のブライアンへ炎の矢が飛んで行く。

 メリッサによる【炎矢(フレイムアロー)】がブライアンへ直撃した瞬間に爆発を起こし、炎と熱を拡散させていく。


 熱と煙に包まれるブライアン。


『効かないな』


 それでも魔法の効果を減らしてしまう材質で造られた体には全くダメージを与えられない。


『その程度の攻撃じゃあ、ワタシを傷付けられないんだよ』

「それで構いませんよ」

『あん?』


 煙を突き抜けてブライアンの前に出る。

 既に剣を構えており、いつでも剣を振るえるようにしてある。


『分かってねぇな』


 自分の装甲に絶対の自信を持っているブライアンは防御すらしない。


「覚えていないのはお前の方だ」


 振り抜かれた神剣。


『な、にぃ!?』


 一切の抵抗なくブライアンの体を斬ることに成功し、腰の位置で両断することに成功する。


「俺の神剣なら遺跡の壁だって斬ることができる。徒労に終わる可能性が高かったからやらなかったんだ」


 全く動かない下半身。

 切断面を見ると人体らしい物は見当たらす、全てが金属で構成されていた。メリッサが言うように人の体を棄ててしまっている。


『ワタシを殺すのか』

「当然だ。依頼を成功させる為なら協力もする、攻撃する前なら『命の水』を使わないよう多少の説得ぐらいはしてやってもいい。けど、一度でも明確に敵対したなら容赦をするつもりはない」

『ハハッ、まるで道端に落ちている小石みたいな邪魔者に対するような扱いだ。そんな風に扱うお前には弱者の気持ちは分からないだろうな』

「いや、弱者の気持ちなら分かる。才能がなくて兄に比べられる。けど、俺には人であることを棄ててまで力を求めたいなんて馬鹿げた欲求はない。何よりも協力関係にある相手に襲い掛かる馬鹿な気持ちは持ち合わせていない」


 胸に向けて神剣を突き刺す。

 ゴーレムの体を刺し貫いてブライアンの魔石が完全に破壊される。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 世界を渡るだけではなく、時間軸をも飛び越えて接続しているらしい、との表現からの妄想。遺跡と迷宮の関係について。迷宮が出来る前の段階、初期形態が遺跡?人間の意識を魔石などの半永久的な物質…
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