第19話 ゴーレム遺跡の秘密
五体のゴーレムが倒れている。
どれも悲惨な状態で、とても再利用など考えられない。
五人とも強くなっていた。知らないスキルを使っている者までいたことに驚き、見覚えのあるスキルを使っていたことにも驚かされた。
「いつの間にカトレアさんの【光速】なんて使えるようになったんだ?」
ゴーレムの知覚能力よりも速く動けたシルビア。
それは、いつの間にか身に付けていたスキルに理由があった。
「何度か話をさせてもらった時にコツを教えてもらいました」
あっさりと告白するシルビア。
彼女が使用したスキルは、リオの眷属であるカトレアさんが最も得意としていたスキル。
スキルには二種類ある。ステータスに【スキル】が現れたから使えるようになった技、使えるようになったからステータスに現れた【スキル】。シルビアが普段から使う【壁抜け】なんかは気付けばステータスに現れていたから使用することができるようになった。
そして、今回は訓練を続けたことによって【光速】を身に付け、スキルとして発現させることに成功した。おかげで『使う』という意思を持つだけで光のような速さで動けることができるようになった。
「とにかく、これで敵は倒せた。次は上の階層へ移動する為の手段を探すだけだ」
『その必要はありませんよ』
『……!?』
上から聞こえてきた声に全員が天井を見上げる。
聞き覚えのある声。ただし、第一階層で聞いた時よりも流暢だ。
『この時代の言語は、貴方たちの会話を聞いて必要な量を収集しました』
「なるほど。で、お前がゴーレムを操っていた奴でいいんだな」
『はい』
短く肯定された言葉に仲間たちの警戒が強まる。
「お前の目的は?」
『こちらとしては不干渉を貫いていただければ何も望みません』
「そんなことでいいのか? そっちから侵略して来たんだろ」
『何を言っているのですか……いきなり、そちらから入ってきたかと思えば、無遠慮に施設を破壊しようとしたのはそちらですよ。壁や床だけなら問題ありませんでしたが、昇降装置に万が一の事があるのは困ります』
ようやく敵視している理由が分かった。
いきなり遺跡と繋がってしまったことで攻略しようと乗り込んだ冒険者たち。最奥へ到達するため上へ行く方法を模索している最中に俺たちも利用した昇降装置を傷付けるような真似をしそうになった。
それが遺跡の逆鱗に触れてしまった。
「つまり、お前は侵入者を追い払う為にゴーレムに襲わせた」
『接触を図ろうと侵入者たちが出て行った先へ尖兵を派遣させても攻撃される始末。新たな人物が現れ状況が好転したことに期待して新たに派遣しても破壊されてしまいました』
後半については、やったのは俺たちだな。
あっという間に破壊されたことに恐怖した遺跡は、言語が通用しない相手ということもあって迎撃することに決めた。
「だけど、俺たちは事態を鎮静化する為に遺跡を攻略しないといけないんだ。悪いけど、攻略させてもらうことにするよ」
『貴方たちの目的は大凡理解しているつもりです。最奥にいる相手を倒すのが目的だというのなら自由にしてくださって構いません』
「……いいのか?」
『勘違いしているかもしれないので訂正させてもらいますが、私は施設の管理を任されている者であって支配者ではありません』
迷宮主と迷宮核の関係に近いのかもしれない。
今、俺たちに接触してきているのは核の方で、主は遺跡の最奥で誰かが訪れるのを待っている。
『こちらが提示する条件を呑んでくれる、と言うのなら最奥まで案内しましょう』
「条件?」
『はい。現在貴方たちのいる階層と直上の階層にある物には手を触れないでいただきたいのです』
条件を提示したことで第三階層にある床の一部が浮かび上がる。
これまでの階層でも見た昇降装置だ。
「どうやら、アレを使って上がれっていうことらしい。どうします?」
「問題ない。無駄な探索を減らせるなら賛成だ。あいつが嘘を言っているようには思えなかった」
ラチェットさんが昇降装置に乗る。
俺たちも全員が乗ると昇降装置が上昇を始める。
「ここは……」
第四階層は、第三階層と同様に何もない広い空間だった。
ただし、五体のゴーレムが守っていた『命の水』の代わりに腰ぐらいまでの高さまである柱が三つ立っており、柱に刻まれた見覚えのない文字が明滅する。
『ここが当施設の中枢です』
「何をしている施設なんだ?」
『……今から三年ほど前の出来事です。突如として空より隕石が降り注ぎました。雨のように降り注ぐ小さな破片が都市を破壊し、直撃を免れても衝突した際に巻き上げられた土によって空は閉ざされ、地上は人が住めない世界となりました』
その話には聞き覚えがある。
だが、時期が一致しない。
『幸いにして当施設は頑丈に造られていたため外の影響を受けることはありませんでした。ですが、外は絶望的な状況です。施設には助けを求めた人が押し寄せましたが、全員を養えるだけの食糧がないため主は全員を押し返すことにしました』
ただし、補給がなければ一人でいつまでも引き籠れる訳がない。
数カ月もする頃には終わりが見えるようになってきた。
『そこで、主は研究の成果を利用して自らの意識を閉じ込めることにしました』
「まさか……」
『はい。「命の水」を使用して自らの命を魔石へ変え、ゴーレムの体へと埋め込む。実験は成功し、ゴーレムとして生きることができるようになりました』
食糧を必要としない体。
朽ちることがないと思われる体なら永遠に生きられると思った。ゴーレムの体も朽ちるもののメンテナンスさえ行い続ければ稼働し続けることができる。
ところが、その計画は完璧ではなかった。
『魔石も朽ちることが分かりました。いえ、正しくは魔石に人の意識を宿らせる力が朽ちてしまうのです。人としての意識を保ち続ける為には、新たに作り出した魔石にも意識を宿らせる方法を模索する必要があったのです』
目指したのは、朽ちることのない意識の宿った魔石。
魔石を生み出し続けて方法を模索した。
「――どうやらシステムが言っているのは間違いがないようです」
柱の一つへと近寄って操作するメリッサ。
柱に刻まれていたのは古代文字みたいで、文字を叩くことによって様々な指示を与えることができるようになっている。
そして、柱に見えた装置の役割は解析。
新たに生み出された魔石を解析し、ゴーレムへ埋め込むことによる損耗率などを計測することを目的としている。
「そして、遺跡の稼働時間も間違いないです」
「じゃあ……」
「はい。大災害が起きてから三年後です」
迷宮核の話では、既に大災害から二千年近い時間が経過している。
三年という数字はあり得ない。
「考えられる可能性は境界です」
次元の境界を越えた時に時間まで越え、過去と繋がってしまった。
単純に過去と繋がっただけではないだろう。もしも、時間を移動しているだけの場合なら元の場所に遺跡が残されていなければならない。
だが、そんな様子は全くなかった。
「時間の経過によって朽ちてしまった……そんな理由でないのだとしたら、過去の別の場所とまで繋がったのか」
『どうやら未来では普通に生活が可能になったようですね』
外の様子を知ることができる遺跡は、既に外が人の住める環境になったことを知った。
そして、遺跡という存在について何も知らないため絶望した。
『主は暴走しています。先ほど人形が造られ続けるところを見たでしょう。本来なら、そのように続けて造られることはありません。外へ戦争を仕掛けるつもりでいます』
大量のゴーレムによる襲撃。
たった一人の意思によって引き起こされたものだったとしても戦争となる。
『私は実験を続けたい。しかし、戦争を仕掛けたばかりに貴方たちのように危険な存在を招き入れるのだけは避けたい。上まではご案内しま……何をしているのですか!?』
システムとは思えないほど焦った声。
誰に向けられているのは分からず、全員を見渡すと胸を押さえて苦しそうに蹲っているブライアンさんの姿があった。
「ヒヒッ……これは気分がイイ!」