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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第35章 人形墓標
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第18話 鋼と不可視

 シルビアの振り上げた短剣がゴーレムの剣を弾く。

 二本の短剣を同時に使うことでゴーレムの剣も弾くことができる。

 しかし、持てる武器を二つとも使用してしまったせいでがら空きとなった体へ別の剣が襲い掛かる。

 鞭のように腕が撓りながら襲い掛かってくる剣。上半身を反らすことで攻撃を回避するシルビア。だが、眼前を通り過ぎて行く腕の外側が開いて内部からナイフが飛び出してくる。


 回避できる状態ではない。

 だが、ゴーレムの体から放たれたナイフは床に落ちて弾かれる。

 ゴーレムの体が急旋回し、手にしていた剣が敵の武器と衝突する。


「仕留めた、と思ったんだけど」


 背後にいたのは、当然シルビアだった。

 胸にある魔石を狙って背後から手を伸ばしていたシルビア。相手は予想外な動きをするゴーレム。確実に仕留められると思った状況でも反撃に転じられる可能性を想定して短剣を所持していたため、すぐさま迎撃に移ることができた。


「その体の全部に【壁抜け】ができれば楽だったんだけど」


 シルビアがゴーレムの攻撃を素直に回避している理由――相対しているゴーレムの持つ武器には遺跡の壁や床と同様の金属が使用されていた。この金属には、魔法の力を弱めてしまうだけでなく、スキルの力を弱めてしまう力も備えていた。

 そのため剣に対して【壁抜け】を使用しようとしても弾かれてしまう。

 しかし、使用されているのは腕に装着された剣のみ。貴重な金属であるらしく、特別な個体とはいえ使い捨てのゴーレムの体には使われていなかった。


 ――ピピィ!


「……ん? わたしの速さが信じられない?」


 ゴーレムの頭部が縦に動く。

 シルビアの質問を肯定していた。


「予想を上回る速さが出ていたぐらいで狼狽えないの」


 ゴーレムが剣をシルビアへ向ける。


 ――ピピッ!?


 一瞬。

 ゴーレムの知覚能力は人間を上回る。一時たりともシルビアから目を離していなかった。


 だというのに次の瞬間には短剣が肩から胸の中心へと突き入れられていた。

 犯人は、背後へと回り込んでいたシルビアだ。


「もう一つ面倒な事があったわ。魔石のある場所の周囲も特殊な金属で覆われている。おかげで、覆われていない場所から角度をつけて攻撃しないと攻撃力の低いわたしだとゴーレムの装甲を貫いて破壊できない」


 魔石を完全に切断されたゴーレムが倒れる。

 頭部がゆっくりとシルビアへ向けられる。全身を駆動させ、トリッキーな動きをすることを目的として造られたゴーレムは大量の魔力が全身を駆け巡っていたおかげで供給が止まった今でも残された魔力を使って動くことができた。

 ただし、力尽きる寸前のゴーレムにできるのは不可解な想いを抱いた体を相手へ向けることのみ。


 残念ながらゴーレムの想いなど関係のないシルビアは早々に倒すと仲間のことを心配していた。



 ☆ ☆ ☆



 ゴーレムの手から放たれる炎と雷。

 メリッサの杖から放たれた水が炎を消火し、床から現れた土壁が電撃を防ぐ。

 防戦一方では終わらない。空中に現れた土の槍がゴーレムへと投擲される。回避しようとゴーレムが足を動かそうとするが、床ごと足がいつの間にか凍らされていたせいで移動することができない。


 攻撃を中止し、両手の先から気流を生み出して風の壁を作ることによって土の槍を吹き飛ばす。

 攻撃を防いだことで生まれた時間。その間に腕に充填された魔力が、手の先から解き放たれた瞬間に巨大な氷柱となってメリッサへ襲い掛かる。


「【空間魔法:天繋(てんけい)】」


 二つの異なる空間を繋げる空間魔法。

 自身が移動する空間魔法と違って、短い距離を繋げることしかできない。おまけに消耗する魔力も同程度とメリットが少ないように思える魔法。

 しかし、【天繋】には指定した空間に触れたあらゆる物を送り込んでしまう能力がある。魔法に対して強い耐性を持っているのなら話は別だが、遠距離から放たれたゴーレムの疑似魔法程度なら簡単に飲み込むことができる。


 放たれた氷柱が【天繋】の空間に触れ、繋がれた先であるゴーレムの周囲へと強制的に転移させられる。

 結果、ゴーレムの放った氷柱が自身に当たることとなる。


「……これでもダメですか」


 しかし、氷柱の直撃を受けてもゴーレムには傷一つついていなかった。


「随分と頑丈な装甲ですね」


 メリッサが放った攻撃魔法も全てゴーレムの装甲を傷付けることはできなかった。そうなると、攻撃魔法でメリッサがゴーレムの装甲を破る方法は純粋に魔法の規模を大きくし、威力を高める方法ぐらいしか残されていなかった。

 しかし、それだけはやりたくなかった。屋内ではあるものの壁や床の材質を思えば魔法によって遺跡が倒壊する可能性は低い。問題は、そんな威力の魔法を放てば多少は離れていると言っても近くにいる仲間を巻き込んでしまうこと。仲間は耐えられるだろうが、ラチェットとブライアンは確実に耐えられない。


 ゴーレムの手から魔力が放たれ、土弾がマシンガンのように放たれる。

 だが、土弾は床から飛び出してきた土壁によって止められる。


「不可解ですか?」


 床を使用しての魔法。

 遺跡の特性を考えれば不可能な事を実行しているメリッサのことがゴーレムには信じられなかった。過剰とも言える魔力を注げば可能だが、そんなことをする理由がゴーレムには分からない。


「単純な話です。床から出しているように見えて、床からは出していません」


 床の少し上。

 そこには半透明な板が浮かんでいた。メリッサの【空間魔法】によって生み出された空間の歪み。そこを起点に魔法を発動させていただけの話だった。土壁を宙に浮かべて盾とするよりも、【空間魔法】による土台の上に盾を生み出した方が魔力の消耗を抑えることができる。

 色々と試行錯誤を続けた結果、【空間魔法】も簡単に使用することができるようになった。


「貴方の特性は、体内に刻まれた魔法陣によって供給される魔力を魔法に変換して放つことができる、というものでしょう。5体のゴーレムにおける役割としては、固定砲台といったところですから速さが削がれることになっても問題ない」


 だから他のゴーレムよりも強固に造られた。

 おかげで、ゆっくりとしか移動できなくなってしまった。が、強力な攻撃を多彩に放つことができるのなら問題なかった。


「防御力は高いです。ですが、それ以上に適切な攻撃を判断し、多彩な魔法陣を使用できるだけの知能が与えられています」


 魔法使いを模したゴーレム。

 その身に宿った疑似魔法を使用する為に解析能力と判断能力が必要とされていた。


「だからこそ――この魔法が使えます」


 メリッサが杖を向ける。

 次の瞬間、ゴーレムは全ての機能を停止させて倒れた。


「ゴーレムが相手でも有効ですか」


 倒れた時についた傷以外に損傷はない。


「この魔法を習得したのはいいのですが、生物を相手にした時でなければ使用できない。けれども、生物を相手に使用するにはあまりに恐ろしすぎる効果なので私が使用したくない。おかげで練習にも苦労しましたよ」


 迷宮には古代文明を詳しく知る迷宮核がいる。

 今よりも魔法や科学と呼ばれる技術が発展していた時代。その時代になら、今よりも強力な魔法が眠っている。


 貯め込んだメリッサの稼いだ魔力を使用して手に入れた文献。

 強力すぎる魔法は、ゴーレムを一撃で沈めた。


「貴方は、多彩な魔法を使用することができます。ですが、所詮はゴーレム――魔法に対する抵抗力は装甲に備わった強さを考慮すれば、ないも同然でしたよ」


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