第11話 多腕人形
「おい、私を置いていけ」
「そういう訳にもいかないでしょう!」
抱えられているブライアンさんが叫んでいる。
今の状況は足手纏いにしかなっていない。責任を感じてしまうのは上の立場にいるべきなら仕方ない。
「悪いですけど、俺たちはあなたたちのフォロー役として派遣されたんです。それなのにあなたたちが帰らないような事態になれば責任を問われることになるんですよ。今は全力で生きて帰ることだけを考えてください」
「……」
ここでブライアンさんを放るような真似をすれば落ちてくる壁に潰されることとなる。
知り合いが床の染みになるような事態にはしたくない。
「……そんなことを言っている場合でもないぞ」
鋼の猟犬が壁を跳ねて襲い掛かってくる。
ゴーレムで生理現象とは無縁なはずなのに口からは正体の分からない液体が撒き散らされている。見ているだけで嫌悪感が沸き上がってくる。普通は凶暴な顔を前にして恐怖するところなので演出なのかもしれない。
イリスが空中に生成した氷柱を飛ばして鋼の猟犬を射貫いていく。ただし、体が鋼で造られているせいか体内へ入れる口や関節のように脆い場所に当たらなければ仕留めることができない。もっとも、仕留めきれなかった鋼の猟犬は全てイリスとシルビアが斬り捨てている。
「強いな、お前たちは……」
「これでも数年の間に修羅場は潜ってきたつもりですよ」
「私は自分の才能に己惚れて危地へ飛び込むような真似はしなかった。強い魔法を使えることに慢心していた」
「だったら、その強い魔法を使ってもらいましょうか」
どうして鋼の猟犬が壁を跳ねたり、壁の傍を走っていたりしていたのか気になっていた。広い通路なのだから中央を走った方が効率いい。
原因は中央を塞がれていたからだ。
体長2メートルを超えるゴーレムが立ち塞がっていた。
最も特徴的なのは外で門番のように立っていたゴーレムと同様に6本の腕を備えていること。ただし、門番のゴーレムと同じように腕を飛ばすはずがない。ここは一直線の通路。飛ばしても直線的な動きしかできない。
そのゴーレムは通路の中央で立ち塞がったまま動こうとしない。
その姿勢が逆に不気味だ。
「どうする?」
「破壊しよう」
イリスの問いに簡潔に答える。
すると答えを予想していたイリスが人型のゴーレムへ向かって氷柱を飛ばす。関節を狙って適確に飛ばされた氷柱がゴーレムの体に刺さる……はずだった。
「なっ!?」
ゴーレムが6本の腕を高速に動かして全ての氷柱を叩き落としてしまう。
そうして、攻撃してしまったことが起動条件になったのか人間のように前傾姿勢になって真っ直ぐに走ってくる。
衝突まで数秒――迷っている暇はない。
「パス」
抱えていたブライアンさんをイリスの方へ投げ飛ばすと神剣を抜く。
向かってくるゴーレムを斬る為に神剣を右へ向けて構えるとゴーレムの左手が神剣の方へと向けられる。
どうやら受け止めるつもりでいるみたいだ。
掲げられた手ごとゴーレムの体を切断するつもりで衝突する瞬間を狙って剣を振るう。
ゴーレムの手も神剣へ伸ばされる。
キ―――――ン!
神剣は伸ばされたゴーレムの左腕へと振られた。しかし、人間みたいな動きをするせいで忘れてしまったが、ゴーレムには左側だけでも3本の腕がある。上に取り付けられた腕が神剣を上から叩いていた。軌道が逸らされたことで斬ることができなくなった。
さらに下から神剣が抑え込まれる。
「こ、このっ……!」
挟まれた神剣を引き抜こうと力を込めるもののビクともしない。
そうこうしている内に右側の3本の手が握られたまま振り抜かれる。
「じゃあ、捨てよう」
パッと神剣の柄から手を放すと左手を握る。
「【爆発拳】」
一瞬の間に三度振り抜いてゴーレムの3本の手全てへ爆発を与える。
爆発を受けたゴーレムが後ろへ体を傾ける。それでも、3本の腕は全て無事だ。
「随分と硬い材質で造られているみたいだな」
後ろへ倒れかけたゴーレムの腹へ手を当てる。
そのまま握り潰すように手へ力を込めるとバキバキィ! と音を立てて凹む。
「悪いが、お前に時間を掛けている余裕はないんだ」
ゴーレムの体を掴んで加速する。
後ろからは落ちる壁が迫っている。足止めされている内に落ちてきた壁のせいでペシャンコになるなんてゴメンだ。
ゴーレムが6本の腕で俺の体を叩いて放させようとする。
けれども、その程度で放すつもりはない。
「今の俺は【鋼体】で上半身を硬質化させている。お前も硬く造られているみたいだけど、攻撃の為の体じゃない」
俺たちを襲おうとしていた鋼の猟犬すらも置き去りにして真っ直ぐに突き進む。
直進を続けていれば最終的には行き止まりへと行き着く。
ドォ―――――ン!
「やっぱりな。さすがに遺跡の壁の方が硬く造られていたみたいだな」
加速した状態で壁へ叩き付けられたゴーレムの体が衝撃によって粉々に砕け散る。それぞれに意思があるかのように動いていた6本の腕は胴体から離れたことで動かなくなる。
頭部を探ってみると輝く藍色の魔石が見つかった。
「よし」
頭部を踏み潰して再利用ができないようにする。
「しかし、シルビアたちも置いてきてしまったな」
地図を確認する。
落ちてきた壁の向こう側にいたメリッサたちは広間に居続けているようで動いていない。シルビアたちも合流までには1分近く時間が掛かる。
「そっちはどうだ?」
『まだ調べ始めたばかりですが、ここには上へ行けるような物はないように見えます』
「離れ離れになってしまった以上ここから先は別行動で進むしかないな」
俺が今いるのは遺跡の右端。
ここの近くにも警報が鳴った時に冒険者がいた場所がある。
そこを目指して移動すればいいだろう。
「とりあえず魔石が回収できただけでもいいか」
「道具箱が満足に使えたらもっと持ち帰ることができたんですけどね」
シルビアが先行し、後ろにいたイリスとブライアンさんも合流する。
「先ほどのゴーレムは倒せたんですね」
「ああ。硬いし、腕が多いこともあって厄介な動きをしてくるけど、どうにか倒すことができたよ」
道具箱を呼び出して魔石を収納する。
無限にも思える収納力を持つ道具箱だけど、迷宮と繋がっているからこそ広大な収納空間を持つことができる。遺跡のように世界が隔たってしまうと道具箱を介した繋がりも失われてしまう。
そのため今の道具箱は大きな倉庫程度の収納力しかない。
こんな状態で外にいた巨大なゴーレムや大量にいる鋼の猟犬を全て収納するような真似をすれば一般的な収納系の魔法道具に比べれば破格とも言える収納力を持つ今の道具箱でもパンクする可能性がある。
それに今回は攻略を優先させる必要がある。
持ち帰るのは最低限の物だけに留める必要がある。
「とりあえず近くの場所へ行くことにしましょう」
近くにあるのは地図の上の方へ進んだ先。
再び通路を進む必要がある。
「……ん?」
振動音が聞こえてくる。
進もうとした足を止めて様子を窺っていると通路の床が開いて下から新たなゴーレムが上がってくる。
倒したばかりの6本腕ゴーレムよりも一回り大きなゴーレム。
新たに現れたゴーレムは、箱のような胴体の下部にタイヤがいくつも取り付けられており、同じく6本の腕を肩のような場所から生やしていた。ただし、腕の先からは鋭い刃が並んだ長い棒のような物が生えている。しかも動力が流されたことでけたたましい音を立てて回転を始める。
触れれば人をズタズタにしてしまうような武器。
そんな物を手にしたゴーレムが反対側の通路にも現れる。
「ここは敵の腹の中。どこにでも好きな敵を出現させられるっていう訳か」




