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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第6章 没落貴族
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第15話 呪い

兵士&ペッシュ王子視点です。

「では、いきなり戻ってきた話を聞こうじゃないか」

「信じられないような話ですが、私が預かっていた隊は私を含めてここへ戻ってきた兵士を除いて全滅しました」

「なにっ!?」


 私よりも上に位置する騎士が驚いている。

 それはそうだ。


 私が預かっていた兵士の数は100人。戻ってきた兵士は5人。

 それだけの被害を出すなど普通なら考えられない。


「これは、責任問題は免れないぞ」

「重々承知しております」


 責任を追及されるのは仕方ない。

 亡くなった兵士の中には家族がいる者もいる。

 その家族は普通の兵士として仕事をしていると考えている。それなのに訪れた最期が、盗賊として殺され、アンデッドとして迷宮を彷徨い続けることになった者もいる。


 敵の危険性をなんとしてでも伝えなければならない。


「さすがにそれだけの被害を出したのでは私では判断を下すことができない」

「それは……」


 目の前にいる人物は砦の責任者でもある。

 砦の責任者よりも上の地位にいる人物など1人しかいない。


「話を聞かせてもらおうじゃないか」

「これは、ペッシュ様……」


 ラフな服装の上に胸当てだけをした金髪の男性が入ってくる。


 彼こそメティス王国第3王子のペッシュ・メティカリア様だ。

 普段から白銀の鎧を着ているペッシュ様だが、ここは盗賊団のアジトであり、そんな場所へペッシュ様だと分かるような姿で出入りするわけにはいかなかった。なので、盗賊だと思われるような格好をしていた。ただし、ボロ布を着るのは本人のプライドが許さなかったため胸当てで誤魔化している。


「なぜ、ペッシュ様がこちらに?」

「ある報告を聞いたからだ。その報告によればカリュケからは離れた場所にある山の麓で盗賊のアジト……その残骸らしき物を見つけたという話じゃないか」


 その報告に思わず動揺してしまう。

 そのアジトの残骸は、既に私たちも目にしている。


「そこから部隊が壊滅状態にあることは予想できた。もしも、生き残りがいるのだとしたらここへ帰って来るはずだと思い、昨日から詰めていただけだ」

「そう、でしたか……」

「ああ、明日の朝には帰らなければならないから報告は手短に頼むよ」


 これから行う報告を聞いてどう判断されるのか?

 できることなら私にトムたちの仇を討つチャンスを与えてほしい。


「私の部隊の1つが街道を利用していた商人を襲いました」

「うん。その時に商人の護衛に何人かが捕まってしまったんだよね」

「それについてはお手を煩わせてしまい、申し訳ございません」


 あの時は、とにかく焦った。

 部下たちには常々捕まるような真似だけは絶対にしないようきつく言い聞かせていた。私たちが捕まってしまえばペッシュ様の立場が悪い方へと傾いてしまう。


 だから1も2もなくペッシュ様に頼り、王族としての権限を使って『彼らが盗賊だというのは誤解だ』ということにしてもらった。


「そのことについてはいい。それで何があった?」

「その後、報復の為に人数を増やして襲い掛かりましたが、ご――」


 そこから先は言えなかった。



 ☆ ☆ ☆



「なっ……!」


 目の前で起こった光景が信じられなかった。

 兵士の1人が報告をしている最中にいきなり死んだ。

 前触れなどなく、いきなり頭が破裂した。

 私の体には報告をしていた兵士の体から飛び散る真っ赤な血が大量に浴びせられていた。


「どういうことだ!?」


 突然の事態に戸惑っているのは同じように報告を聞いていた騎士も同じだ。


「落ち着け」

「ですが……」

「兵士は報告をしている最中に頭が破裂して死んだ。おそらく部隊を全滅させた者が正体を悟らせない為に自分の正体を言おうとすると破裂するように何かを仕込んでいたのだろう」

「なるほど」


 そうは言うものの半信半疑だった。

 闇属性魔法にそういうことが可能なことは王族として知らされていたが、それでもここまで鮮やかに破裂させる為には相当な技量が必要になる。


 本当にそんなことができる相手なのか知る必要がある。


「行くぞ」

「どちらへ?」

「戻ってきた兵士は他にもいるのだろう」

「はっ、別室で待機させております」


 騎士に先導させて別室へと移動させる。

 その部屋は兵士たちが休憩時に使う部屋で様々な娯楽品が置かれており、酒はないが飲み物も飲めるようになっていた。

 長い道のりを走って砦に戻ってきた兵士たちは寛いでいたが、部屋に入って来た私の姿を見た瞬間、姿勢を正す。


「いい。報告を直接聞きたいだけだから楽にしていい」

「あの、ですが……」


 どうにも歯切れの悪い兵士がいた。

 その兵士は私の姿を見て言葉を失くしていた。

 これは、身分の高い者が突然現れたことにする態度ではない。ああ……。


「この血については気にする必要はない。私の血ではなく返り血によるものだ」

「はぁ……」


 隊長だった男の血を浴びてしまったせいで体が真っ赤に染まってしまっている。報告を聞いて最低限の指示を出したなら早く着替えたいところだ。


「報告は隊長から聞いているはずですが」

「彼からも聞いた。君たちからも聞くのも裏付けみたいなものだ」

「分かりました」


 この男は部隊で副官を務めておいた男だ。もしもの場合に残しておいた方がいいだろう。


「そこの君」

「はっ」


 奥の方にいた背の高い兵士を呼ぶ。


「誰に部隊を壊滅させられたのか教えてくれるかな?」

「はっ、商人のご――」


 隊長と同じようにそこから先は言えなかった。

 私に報告をした兵士は奥の方にいたため彼の体から飛び散った血は他の兵士3人が浴びることになった。


「なんだこれはぁぁぁ!」


 そう叫びたくなる気持ちも分かる。

 だが、ここは報告を続けてもらわなくては困る。


「それでは誰か私の質問に答えてくれる人はいるかな?」

「嫌だ。あいつについて喋ったら死ぬことになるんだろ」

「そうらしいね」

「1つ質問をよろしいでしょうか?」

「どうぞ」

「ペッシュ様は質問に答えた者があのようになることを知っていたようでした。ということは、隊長は……」

「ああ、彼も報告の最中で死んだ」


 だが、死んだ2人の兵士は手がかりを残してくれた。

 2人とも『商人のご――』まで言うことはできた。そこから連想できるのは『商人の護衛』だろう。

 貴重な兵力を無駄にされてしまった。その護衛だけでなく商人にも責任を取ってもらわなくてはならない。その為には相手を特定する為の情報が必要になる。


「どうやら相手について喋ってしまうと死んでしまうような魔法らしい。なら、簡単な話だ。喋らずに報告をすればいい」


 私の言葉に兵士が首を傾げている。

 休憩室には簡単な代物だが、羊皮紙とペンが備え付けられている。


「ここに概要だけでいいから書くといい」

「なるほど」


 兵士の1人がペンを持って手を動かした瞬間、パンと音を立てて兵士の頭部が破裂した。


「これもダメか」


 相手について『喋る』ではなく『伝える』だけで死が訪れてしまうらしい。

 口頭や筆跡による報告では伝えることになってしまうらしい。


 残った2人の内の1人を見る。


「お、わたしは……」

「私の質問には答えなくていい。私の問いが正しければ首を振って肯定してくれ」

「は、はい……」


 兵士たちも私の要求には逆らえない。

 報告を拒否すれば軍人に課せられている報告義務を怠ったことになり、兵士たちは罰せられることになる。彼らには死を回避することができるかもしれない報告に縋るしかなかった。


「部隊を全滅させたのは『商人の護衛』か?」


 兵士が何も言わずに首を縦に振る。

 その直後、頭部が破裂して血をまき散らす。


 3人の体から大量の血が噴出されたことによって休憩室は真っ赤に染まっていた。


「私は既に覚悟ができております」


 最後に残った副官の男がそのように言ってくるが、


「いや、もうどんな方法を試せばいいのか分からない。それでも4人の犠牲を出したことによって商人の護衛に全滅させられたことだけは分かった。あの日、あの時間に街道を利用していた商人を探し出して血祭りに――」

「それだけはお止め下さい!」


 副官だった男が私の腕を掴んで制止するよう言ってくる。

 それほどの相手ということか。


「申し訳ございません」

「分かった。そこまでの相手なら護衛には関わり合いにならないようにしよう。だが、商人については――」


 その時、地響きと共に休憩室に差し込んでいた光が消え、休憩室の中がいきなり薄暗くなる。


「何があった?」


 外で何かがあったのは確実だ。

 窓へ駆け寄ってみると砦を覆うように巨大な壁が立ちはだかっていた。

 あんな物は今までなかった。


「あ、あ……」


 外に広がっている光景に戸惑っていたのは一緒に休憩室へやって来た騎士も同じだが、副官だった男は全く違う場所を見て視線を固定していた。


 その視線の先を追うと砦の外に1人の少年と3人の少女たちがいた。


「あいつが――」



 その言葉を言った瞬間、副官だった男も死んだ。

 さすがに4人も連続で頭部が破裂する姿を見させられれば、破裂する瞬間を見ていなくても音だけで死んだことが分かる。


 そして、彼が最期に告げた言葉。

 砦の外にいる冒険者らしい4人組が私の部隊を壊滅させた張本人だ。


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