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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第35章 人形墓標
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第6話 境界線前の襲撃-後-

 冒険者の叫びにこの場にいる全員の視線が次元の裂け目へと向けられる。

 境界線を通り抜けて現れる樽のような胴体に手と足が生え、上に頭部が乗せられた体長2メートルを超える人形が姿を現す。

 しかも1体ではない。続々と現れ、20体に及んでいた。


「攻撃!」


 冒険者たちを取り纏めていた男の声が響く。

 彼は、近くの町にある冒険者ギルドでギルドマスターをしており、現場に着いてからは彼の指示に従うよう言われていた。


 指示に従って魔法が一斉に放たれる。ゴーレムが姿を現した時点で準備をしていたため威力が高められた攻撃。ゴーレムに炎弾が当たり爆発を起こし、氷弾が凍て付かせる冷気を発生させる。

 次元の裂け目がある場所が煙に包まれる。


「ふん、どうだ」


 攻撃が当たる光景を見て自信満々に胸を張る。


「分かっていないな」


 ギルドマスターの態度に呆れたラチェットさんが拳を構える。


「な、なにっ!?」


 煙を押し退けてゴーレムが歩み続ける。

 想定外だったらしくギルドマスターが驚いている。


「たしかにゴーレムは魔力反応が感じ取り難い。けど、力のある奴ならゴーレムが無事なことぐらい見破れないとならないぜ」

「う、うるさいっ!」


 怒鳴るギルドマスターを無視してラチェットさんが駆け、最初に次元の裂け目を出てきたゴーレムの腹部へ拳を叩き込む。


 ――ギィン!


 重たい音が響くもののゴーレムは歩み止めるだけで倒れるようなことはない。

 むしろ、拳を叩き込んだラチェットさんを捕らえようと両手を伸ばしていた。


「悪いが、俺よりも強いのに俺みたいな奴を先輩だって慕ってくれている奴が見ているんだ。かっこ悪いところは見せられないんだ」


 手を僅かにだけ引いて再び叩き込む。

 最初に駆けながら叩き込んだ勢いのある拳とは違って静かな攻撃。

 だが、再度拳を叩き込まれたゴーレムの体が内側で発生した爆発によって粉々に砕け散る。


「ひぃ!」


 ギルドマスターの傍にゴーレムの頭部が転がる。


 彼は最近になって事務能力を買われてギルドマスターに就任した男。王都がボロボロに崩壊したため左遷させられることには喜んでいた。しかし、以前までいた王都に比べて田舎と言える都市での生活は彼にとって退屈で、早々にどうにかしたいと思っていた。

 そんな時に発生した遺跡調査。ここで大きな功績を残せば、もっと発展した都市へと移動することができるかもしれない、と考えた。復興作業中の王都へ行くのは嫌だが、他にも退屈を紛らわせる程度に繁栄している都市ならいくらでもある。

 本来ならベテランの職員が行う現場指揮の仕事を自ら買って出た。やはり、安全な後方で指示を出しているよりも現場で指示を出していた方が功績は評価され易い。


 そんな思惑は攻略の失敗によって脆くも崩れ去った。

 今は少しでも失態を軽くする為に指揮を執っていた。すぐにでも逃げ帰りたいところだったが、奪い取るように得た現場指揮官の地位。逃げた瞬間に彼の人生は終わってしまう。


「怖いなら下がっていろ」

「だ、誰が……!」


 だからラチェットさんの忠告にも威張り散らすことでしか返すことができない。

 現場の情報は出発前にルーティさんから得ていた通りだ。指揮官である彼の指示に従うように言われていたが、その指示があまりに的外れだったり、間違っていたりしているようなら好きに動いていいと言葉をもらっている。

 現にSランク冒険者の二人は指示に従っていない。


「伏せろ!」


 ブライアンさんの声が聞こえるとゴーレムの頭部を殴った時の爆発で吹き飛ばしたラチェットさんが地面に伏せる。


 直後、杖を持ったブライアンさんの腕が振るわれる。

 横薙ぎにされた杖から放たれた光の斬撃がゴーレムの体を両断していく。


 上下に分かれて地面に落ちるゴーレム。倒れたゴーレムは上半身を暴れさせている者、下半身を暴れさせている者、全く動けない者の三種類に分かれている。

 ゴーレムを動かしているのは体内にある動力源の魔石。

 全く動けていないゴーレムは両断させられた時に偶然にも魔石までも両断させられてしまった。

 そして、上下に分かれて暴れているゴーレムは両断された時に魔石は無事だったものの体が両断されてしまっているせいで、どちらか一方しか動かすことができずにいた。


「凄い魔法だね」

「はい。威力もさることながら、構築速度が異様に速かったです」


 ゴーレムが姿を現してから数分程度しか経過していない。

 すぐさま魔法に必要な魔力を練り込んでいたとしても、今の威力を出そうと思えば一般的な魔法使いよりも速過ぎる発動だ。魔法発動までの時間をそれだけ短縮させられる技能を備えている。


 その技能にメリッサが純粋に感心していた。

 さすがにメリッサには敵わないものの彼女の魔法発動短縮能力は【加護】に頼っているところがある。それだけ強い【加護】を保有していることも十分にメリッサの能力と言えるのだが、もしも【加護】みたいなスキルなしに短縮させているとしたらSランク冒険者となれたのも頷ける。


 倒れたゴーレムへ近付く。

 手を伸ばす程度でしか抵抗することができないゴーレムではどうにもできない。


「魔石を破壊してしまってください」

「ああ、分かっている」


 ブライアンの杖から光の線が放たれる。

 ジュ、という音と共にゴーレムの胸に穴が開く。それで上半身を暴れさせていたゴーレムが動きを止める。

 ラチェットさんも暴れるゴーレムの攻撃を回避して拳を叩き込むと魔石を確実に破壊していく。


「俺たちも手伝うか」

「そうですね」


 倒れたゴーレムへと近付いて意識を集中させる。

 ゴーレムの体内では分かりやすく魔力を発生させている場所がある。全身へ魔力は行き渡っているが、そこだけは他の場所よりも強い。間違いなく魔力を発生させている魔石がある場所だ。


 俺が近付いたゴーレムは下半身を暴れさせている。

 暴れられても問題がないようゴーレムの足を付け根で切断する。

 すると、腰が微かに揺れる程度になる。

 魔石の位置は人間で言えば腰の位置にある。そこまで特定すれば詳しい位置まで特定するのは難しくない。


 神剣でゴーレムの体の表面を削って魔石を表出させる。


「けど、この位置は……」


 両足の付け根の間――人間で言えば股間に当たる位置に魔石があった。

 あまり触れたくない場所にあったが、ゴーレムは生物でないと思い込みながら手を突っ込んで魔石を引き抜く。


「……なんだか穢された気分」

「なに変なことを言っているのよ」


 同じように股間へ埋め込まれていた魔石を取り出す為に股間部分を剣で切り取るアイラがこちらを見ていた。さすがに女性の掌に乗る程度の大きさにまで削られてしまえば暴れることも叶わない。


 全ての魔石を回収し終えると動くゴーレムがいなくなる。


「やっぱり増援はなし、か」


 今回も威力偵察が目的だった。

 タイミングを考えると俺たちの脅威度を判定するのが目的だろう。

 問題は俺たちが全く戦えていないことにある。今の戦闘では全く実力を推し測れていないため増援があってもおかしくない。


「理由は二つ」


 前日の戦闘でラチェットさんとブライアンさんの戦力は推し測ることができたはず。

 そのうえで、今日の戦闘でも二人に敗北してしまった。俺たちの実力が推し測れていない状態だったとしても二人がいる状況では意味がないと判断した。


「もう一つは、昨日も今日もゴーレムは10体しか現れなかった。一体一体はBランク冒険者でも苦戦させられるけど、Sランク冒険者の敵ではない。安易に判断するのは危険だけど、もしかしたら敵が自由に使える戦力は少ないのかもしれない」


 戦力を出し惜しんだ。

 そして、貴重な戦力を自分たちにとって有利な場所で活用しようと考えている。


「誘われているな」

「ですね」


 遺跡内へ侵入してくるのを待っている。


「聞け!」


 Sランク冒険者たちの戦闘を見守っていた冒険者たちの方を向いて声を張り上げる。


「俺たち二人と増援に来たパーティで今から遺跡へ侵入する。その後で、敵の侵入が全くないとは言えない。こっち側を守るのは、お前たちの仕事だ。稼ぐ気があるなら全力で気張れ!」

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