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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第35章 人形墓標
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第5話 境界線前の襲撃-前-

 早朝にアリスターを出発して走ること数時間。

 野営しているテントが目に付くようになった。いくつものテントが固まって野営をしている。集められた人たちが指示に従って規律正しく生活している証拠とも言える。


 走る速度を落として近付いて行く。


「お、来たな」


 次元の亀裂の向こう側を警戒していた冒険者たち。

 ただし、向こう側だけを警戒していればいい、という訳ではない。周囲から魔物が襲い掛かってくる可能性もあるため警戒する必要がある。

 そんな状態ならば近付く俺たちにも気付ける。


「久し振りですね」

「おう」


 最前列で待っていたのはアリスターを拠点に活躍するブレイズさん。

 近隣の村を襲う魔物の討伐を専門にしているため若手から尊敬されている。

 以前の遺跡調査でも冒険者ギルドから斡旋されていたため実力を考えると申し分ない。ただ、儲けられる依頼を紹介してもらうほど困窮しているかと考えれば頭を傾げずにはいられない。


「ちょっと金が要りようだったから遺跡調査を紹介してくれたのは助かったんだけど、こんなことになるとは思わなかった。だから、お前らが来てくれたのは本当に助かったよ」

「何かあったんですか?」


 尋ねた俺から視線を逸らすブレイズさん。

 何か事情でもあったのかと思い彼の仲間へと視線を向ける。


「あれ?」


 パーティメンバーであるリシュアさんとマリアンヌさんの姿が見当たらず、男性陣3人の姿しかない。

 どこか別の場所にでもいるのか、と思っていたら近寄ってきたグレイさんがこっそり教えてくれる。


「二人は冒険者を引退することにしたんじゃ」

「もしかして怪我でも……」

「そういう訳じゃない。二人とも喜ばしい理由じゃ」


 リシュアさんはアリスターにいる細工師と結婚することになったので引退することになった。昔から錬金術師として相談しているうちに親しくなり、少し前に結婚することとなって引退を決めた。


 マリアンヌさんがいないのは妊娠が理由だった。


「本当に喜ばしい話じゃないですか」


 マリアンヌさんと親しくしていたシルビアが喜んでいた。

 個人的にも会っていたシルビアだったが、最近はメンフィス王国を訪れていたり帰って来てもアルフとソフィアの世話で忙しかったりと時間に余裕がなかった。そのため近況を知ることができていなかった。


「できれば時間があるならマリアンヌの様子を見てやってくれないか? どうにも最近の奴は情緒不安定で仕方ない」

「任せてください」


 同じ立場を経験しているシルビアなら相談にも乗れるだろう。


「で、どうしてブレイズさんは俺たちから視線を逸らしているんですか?」


 グレイさんと話している俺たちの方を極力見ないようにしている。


「気まずいんじゃろう」

「気まずい」

「身籠っている子供の父親はブレイズじゃ」

「別に付き合っていたなら……」

「幼馴染で同じパーティだったからと言って付き合うとは限らんぞ。それなりに仲は良好じゃったがな」


 遠くまで出掛けることも冒険者にとっては珍しくない。特に高ランクともなれば拠点にしている都市以外からも呼ばれることがあるため長い時間を掛けて移動することになる。

 そういった時には様々な問題が生じる。

 特に今回は生活方面で問題が現れてしまった。


「ちょくちょく二人で解消していたらしいが、今回は避妊に失敗してしまったらしい」

「あ~」


 グレイさんの言いたいことが分かってしまった。

 二人とも本気ではなかったのだが、軽い気持ちで過ごしている内にマリアンヌさんが妊娠してしまった。二人とも適齢期は終わろうとしていたし、覚悟を決めるにはちょうどいい時期だった。

 ただ、唐突な出来事だったため覚悟が完全に決まり切っていない。


「どんまい、です」


 気まずそうなブレイズさんの肩に手を置きながら慰める。


「何か困ったことがあったら相談に乗りますよ」

「たすかる……」


 本気で困っているのか縋ってきた。

 とても俺が冒険者になった頃に爽やかな笑みを浮かべていた人とは思えない。


「まさか、こんなことになるなんて思っていなかったから子供を育てる為の金とか考えると不安になってな。だから遺跡の話は渡りに船だったんだ」


 ところが、想定以上の難易度に苦戦させられてしまい困っていた。

 幸いにして次元の裂け目の前で警戒しているだけでも報酬が出るため全く利益がない訳ではない。


「そろそろいいだろうか?」


 ブレイズさんたちと話をしていると二人の男性が話し掛けてきた。


 一人は、両腕に銀色のグローブを装着した長身の男。紫色の髪が刺々しく広がっていて目がつり上がっている。鍛えられているが、無駄に筋肉がついている訳ではなくシュッと引き締まった肉体をしている。

 もう一人は、緑髪で眼鏡を掛けた男性。先端に宝石のついた杖を持ち、紺色のローブを着ていることから魔法使いだと予想できる。


 近接戦闘と魔法戦闘を得意としている二人。

 ブレイズさんたち以上に戦える雰囲気を纏っており、強いことが窺える。


「Sランク冒険者のラチェットだ」

「同じくブライアンだ」


 二人は王都から派遣されてきたSランク冒険者だった。


 【爆闘士】ラチェット。爆発系の魔法と肉弾戦を併用させた戦い方を得意としており、ゴーレムのような硬い魔物が相手だったとしても破壊させられる。むしろ硬い相手の方が素材を残せて助かる、というのが彼の心情だ。


 【光燐】ブライアン。光属性の魔法を得意としたラチェットと違って典型的な魔法使い。しかし、彼の繰り出す魔法はSランク冒険者になれるほどの威力があるため弱い訳ではない。


 王都はゴーレムが出現したことから、ゴーレムと戦える人物を派遣してくれていた。


「初めまして。Aランク冒険者のマルスです」

「畏まる必要はない。こちらから要請して来てもらったんだ。ランクはこちらの方が高いとはいえ、立場としてはそっちの方が上だ。対等に行こう」

「いえ、力は強いかもしれませんが、冒険者の経歴はそちらが先輩です」


 単純に年上は敬いたい、という想いがある。

 まあ、年上であることだけを理由に威張り散らすような人物を敬う理由はない。


「そうか。なら、こんなことに時間を掛けずに要点を説明する」

「私たちは遺跡の調査にも何度か参加している。だが、今までに見たことがないぐらいにこの遺跡に現れるゴーレムは強力だ。昨日、戦闘したゴーレムも先兵であることを考えると強力すぎる」

「え、昨日も現れたんですか」

「そうだ」


 ラチェットさんの話によれば、王都から派遣された二人がこの場へ到着し、向こう側がどうなっているのか調べようと準備を整えている時に向こう側からの襲撃があった。

 最初の襲撃以降は全く反応がなかったため警戒していた冒険者たちも多少なりとも慌てふためくことなった。

 突然の襲撃だったが、二人のSランク冒険者がいてくれたおかげで被害もなく撃退することに成功した。


「だが、俺たちは自分たちの実力だけで撃退したとは思っていない」

「おそらく威力偵察が目的の襲撃だったのでしょう」


 何を確認したかったのか?

 襲撃が発生したタイミングを考えれば自然と分かる。


「到着したばかりの二人の脅威を計る為の襲撃だった」

「そう考えている」

「威力偵察に10体ものゴーレムが使われたことには疑問を呈するけど、出てきた10体が倒されたところで増援がなかったことも気になる」


 その時は本気で襲撃するつもりがなかった。


「これは非常に厄介なことである」

「ですね」


 厄介な理由の一つ目は、向こうに敵の脅威を推し量ろうとする知能があること。しかも、情報を得るだけで撤退したのなら後に有効活用するつもりでいる可能性が高い。


 さらに、敵は向こう側にいながら到着したことを察知することができる能力を保有している。

 境界を挟んであらゆる通信は遮断されてしまう。それが遺跡の常識だったが、向こう側にいる敵には情報のやり取りを行う術がある。


「とにかく十分に警戒を--」

「敵襲!」


 警告を発しようとしたラチェットさんの言葉を次元の裂け目を警戒していた冒険者の叫びが遮る。

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