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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第34章 鬼人慟哭
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第44話 穢れた都市

『うわぁ』


 全員の口からそんな言葉が漏れた。

 王都に誰もいない現状を聞き、近くまで訪れたところで異様なことがすぐに察知できた。


 とにかく臭い。嗅覚を刺激する異臭が発生している訳ではない。空気中に漂っている魔力が穢されてしまっているため淀んでいるように感じてしまう。

 こんな状況では病気になってしまうのも頷ける。


「どうするの?」

「できることぐらいはしてあげよう」


 虚ろ喰を【召喚】する。

 大量に喚び出された魔物が次々と“穢れ”を喰らって行くが次々と溢れてくる。喰らう量の方が多いため減っているのは間違いない。しかし、虚ろ喰でも喰らえる量には限界がある。

 ゲップをした虚ろ喰が俺たちの傍へ寄ってくる。もう喰べられないらしい。

 イリスに頼んで彼らを迷宮へ戻してもらう。


「チッ、そこまで減った訳じゃないか」


 王都を覆っていた穢れた魔力。

 全体の2割程度は減らすことに成功したが、それほど遠くない内に元通りとなってしまうのは間違いない。

 それほどまでに“穢れ”は強い。


「女神ティシュアを倒したら“穢れ”は消えたはずなんじゃないか?」


 たしかに浄化されていく光景を見ていた。

 だからこそ安心していた、というのもあって問題にしていなかった。


「たぶん浄化されたのは“穢れ”そのものだけだったんだと思う」


 ノエルには王都を覆う“穢れ”と『鬼』を生み出した“穢れ”が別物だとなんとなく理解できているようだった。


 王都を覆っているのは神を恨んで生まれた怨嗟ではなく、人が人を憎んで生まれた妄執にも似た怨念。その対象は自分たちを守ることができず、辛い日々を送らせるようとする王族や貴族。

 そうして無理矢理連れて来られた王都に彼らの怨念は残留することとなった。

 生前に連れて来られたため死した後も離れることができなくなった。


「どうにか浄化することはできないか?」


 不死者(アンデッド)は【光属性魔法】で浄化させることで昇天させられる。


「……どうやら、ここにいるのは普通の不死者(アンデッド)ではないようです」


 メリッサが魔法で即座に浄化させようとする。

 しかし、吹き飛ばせただけで根本的な解決には至っていない。


「神の力が影響しているせいだと思う」

「普通に浄化するのは無理、っていうことか」


 喰らうことはできる。

 しかし、浄化するのは無理。


「……ん?」


 王都の外から対策を考えていると王都から出てくる人影に気付いた。

 だが、それは人間ではなかった。額に角を生やした筋骨隆々な大男。どこで調達したのか分からない布を腰に巻いただけの裸で、建物の残骸と思われる瓦礫を手にしている。


 (オーガ)

 鬼人でないことは“穢れ”を身にしていないことから分かる。

 他の場所でも遭遇することのある普通の魔物だ。


「もしかして王都はオーガの巣窟になっているのか?」


 ゾロゾロと出てくるオーガ。

 その数は10体以上に及び、群れているのが分かる。単体で強い力を保有しているため数体で協力することはあっても群れることが少ない魔物。数十体が共に行動をしている、となると上位個体が奥にいる可能性がある。

 オーガたちも獲物に見える俺たちに気付いたらしく敵意を剥き出しにして襲い掛かってくる。


「ちょっと調べに行ってみるか」


 正面から迫るオーガの大群。

 オーガは強力なため討伐するにはBランクの冒険者パーティが必要だと言われている。

 そんな強い力を持つはずのオーガが俺たちまで辿り着く前に倒れた。

 斬撃や風魔法など遠距離から斬る手段などいくらでもある。


「なるべく体が残るように倒せよ。せっかくだから全部回収して帰ろう」


 次々に葬られ王都から出てきた全てのオーガが倒された。


 だが、王都から出てこなかったオーガもいる。門の前では他のオーガよりも大きなオーガが腕を組んで唸りながら俺たちの到着を待っていた。

 普通のオーガとの違いは大きさだけではない。額から生えた角は太く鋭い。おまけに肌が赤ではなく青い。


「前に行った遺跡で見たことがある。アレはオーガの上位個体。体が硬くて当時の私だと倒すことができなかった」


 冒険者としての経歴が俺たちよりも長いイリスには遭遇経験があった。

 既にBランク冒険者となっており、普通のオーガなら単独で討伐できるだけの実力があった。だからこそ青いオーガの存在を悔しく思い、恐怖してしまった。


 イリスが単独で駆け青いオーガの懐へ飛び込む。

 素早く普通のオーガだったなら目で追うことすらできていない。そんな速さで動いていても付いて行くことのできる青オーガ。

 青オーガが拳を突き出すが、体を反らして拳を回避すると剣を持っていない左手で受け流され地面に大きな穴を開ける。


 攻撃を回避したイリスの目的は青オーガを斬りやすい状態にすること。

 地面に突き刺さった腕に対して立つと上から剣を振り下ろす。


 スパッと切断されて宙を舞うオーガの腕。以前は傷付けることすら難しかった体だったが、今は簡単に切断することができる。

 痛みに怯えるオーガが体を反らして雄叫びを上げる。


「うるさいよ」


 額から突き出た角を根元から掴む。

 少し力を込めるとバキィ! と圧し折れる。

 オーガにとって頭部の角は何よりも大事な物。それが圧し折られたことによる苦痛に耐えられなくなったオーガが崩れ落ちる。


 上位個体と思われる相手を倒すことができた。

 問題なのは……


「まだ、いるな」


 王都の入口に立つ俺たちを見る無数の目。

 感じ取ることのできる魔力の反応に間違いがないのなら全てオーガだ。しかも、その中には今倒したばかりの上位個体も含まれている。どうやら、上位個体であることは間違いないが、最上位個体という訳ではないようだ。


 それに最上位個体を倒せば全てが解決、ということにはならない。


 今度は百体以上のオーガが一斉に襲い掛かってくる。


「どうやら地獄と化したことで王都は魔物を生み出す巣窟となってしまったようです」


 シルビアには魔物の数が俺たち以上に分かる。

 だからこそ首を横に振る。


「多勢に無勢。わたしたちなら全てのオーガを倒すことも可能でしょうけど、それなら王都ごと吹き飛ばしてしまうのが手っ取り早い数です」


 メリッサと俺が協力すれば吹き飛ばすのも難しくはない。


「とりあえず外へ出よう」


 動ける範囲の限られる都市内で戦うのは厳しい。

 先ほどと同じように外で戦おうと平原へ出る。


「出てこないわね」


 アイラが言うようにオーガたちは王都から一定距離まで出てくるものの遠く離れた俺たちを追撃しようとはしない。


「王都で生まれた特殊なオーガ。数も無限と思えるほどいますが、自由に活動することができる範囲は限られているようです」


 試しに西へ移動してみると追ってくるが、届くことはない。

 その範囲は円形状になっており、大凡1キロといったところ。王都へ近付かなければ見られることはあっても襲われるようなことにはならない。


 この状況ではどうするべきか……?


「あの場所は怨念によって瘴気を集めて魔物を生み出す巣窟となりました。時間と共に怨念が浄化されて生み出される魔物も少なくなるかもしれませんが、今の段階で根本的な解決をするなら無理矢理にでも瘴気が新しく生まれないようにする必要があります」


 メリッサの提示した解決策。

 残念ながら瘴気が集まるようになった場所をどうにかする手段は持ち合わせていない。


 ただ、方法自体はある。


「迷宮か世界樹でも新しく用意することができれば解決するのですけどね」


 周囲の魔力を吸い取って『迷宮』という亜空間を生み出す迷宮。潤沢に瘴気があるため維持に問題がないどころか瘴気を打ち消すことができるため一石二鳥。

 淀んだ魔力を浄化することができる世界樹があれば、時間は掛かるかもしれないが何もしないよりも断然早く浄化を終えることができる。


 ただし、どちらも今の技術では新しく用意することが不可能。

 結局は自然の成り行きに任せるしかない。


「それでいいな、ノエル」


 ここはノエルの故郷とも言える場所。

 どうするかは彼女の意思を尊重したい。


「できることなら誰も入ることがないようにしてほしい」


 これからの犠牲者ぐらいは減らしたい。

 ノエルの要望を受けて王都を覆うように深い堀を用意する。道具を用いらなければ王都へ立ち入ることができず、内部にいるオーガたちも何かしらの変異があって外へ出られるようになったとしても簡単には外へ出ることができないようになった。


 王都に向かって立つと手を胸に当てて目を瞑る。

 ここには無念の死を遂げた多くの妄念が取り残されている。彼らの妄念が浄化されるのは何年……何十年……何百年と先のことになるだろうが、その時には彼らの妄念が少しでも軽くなっていることを祈るしかない。


「帰ろうか」


 誰もいなくなった王都を後にして屋敷へと帰る。

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