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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第34章 鬼人慟哭
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第38話 女神と巫女-鬼手-

 わたし自身にティシュア様の幻影を重なることで憑依させる。

 このままだと姿を真似ただけの幻影。そこに【ティシュア神の加護】を発動させることでティシュア様の力を完全に再現する。

 女神ティシュアを倒すにはティシュア様の力が必要不可欠。


「本当にやるんですか?」

「『はい。私にやらせてください』」


 わたしの疑問に対してティシュア様がわたしの体を使って答える。


 ティシュア様が一歩近付く。

 その姿に恐れを抱いた建物の屋上から下りてくる。


「その瞳、その表情……気に入らない」


 憎悪に満ちた表情で女神ティシュアが睨み付けてくる。


「『最初は無視しようとしていた私に言えたセリフではありませんが、こんなことは止めましょう』」

「止める……? 貴女には私の想いは分からないでしょうね」


 ティシュア様へは少なくなった信者たちの祈りが捧げられていた。

 対して女神ティシュアへは憎しみや不満だけが捧げられていた。

 本来、人々の純粋な想いを受けて恩恵を与えるはずの女神にとっては耐え難い苦痛だったのは想像に難しくない。


「どれだけ止めるよう言ったところで私の声は決して届かない。『巫女』を失ったというのもありますが、それ以上に不純な信仰しか持たない者にとって神の言葉などどうでもいいのです」


 自分たちに利益があるから信仰する。

 それが、女神ティシュアにとっては気に入らなかった。


「もう、こんな世界は壊してしまうに限ります」


 女神ティシュアの想いに応えるように地面が揺れる。

 地震なんかじゃない。


「来る--」


 それの近くにいたシルビアが跳ぶと地面から鞭みたいな物が何百本と飛び出してくる。

 全長はそれぞれ違う。けど、短い物でも5メートル、長い物なら30メートル以上はあって、ピンク色をしていて先端部分は手のように広がっている。

 鞭というよりは触手に近い。


「気付かれた以上は近寄らせる訳にはいきませんね」


 何百本という触手が縦横無尽に動き回る。

 大通りの左右にあったいくつもの建物はあっという間に両断されていた。


「うそ……」

「『これ全部が鬼人ですか』」


 触手の正体が分かった。

 鬼人の鋭い爪が生えた手だ。


「どうやって、これだけの鬼人を……」


 鬼人は“穢れた血”を得た人間が“穢れ”を集めることによって変化する。

 元になった人物が必要になる。


「簡単ですよ。素材になる人間ならそこら中にいるではないですか」


 大通りには死体が散乱していた。


「死んだばかりの人間は自分が死んだことをなかなか受け入れることができていません。彼らの想いにちょっと干渉してあげれば『鬼』を生み出すなど簡単なこと」


 センドルフが鬼人を操っていたように女神ティシュアも自らの支配下に置くことができる。

 彼の持っていた能力が女神ティシュアの能力の劣化版だと考えれば当然のこと。


「さあ、踊り狂いなさい」


 鬼人の腕が縦横無尽に暴れ回る。

 隙間を掻い潜るように回避して、錫杖で叩いて迎撃する。


「……っ!」


 1本の腕が肩を通り過ぎて行く。

 掠っただけの攻撃。それでもシルビアが特別に用意してくれた服を斬り裂いていた。服の下では肌も斬られたせいで血が滲んでいる。


「『申し訳ありません』」

「気にしないでください。攻撃を受けたのはわたしが弱いからです」


 まだまだパーティ内だとわたしが一番弱い。

 やっぱり経験の差は簡単に埋められない。


「それに、わたしたちよりも二人の方が大変です」


 イリスは剣でわたし以上の腕を捌きながら女神ティシュアへ近付いて行っている。

 シルビアも姿を晒すことで攻撃させてわたしへの攻撃を少しでも減らそうとしていた。

 二人とも、わたしの為に戦ってくれている。


「『なら、わたしも覚悟を決める必要がありますね』」


 必殺の一撃を持っているティシュア様。

 けど、その攻撃をする為には手が届く距離にまで近付く必要がある。


「この中を?」


 腕が暴れ回っている中を進むのはなかなかに危険。


「だったら、目的地までの道はあたしが切り開いてあげる」


 わたしに迫っていた5本の腕。

 それらが剣の一振りによって掻き消された。


「アイラ、もう向こうは大丈夫なの?」

「……うん、もうできることはない」


 歯切れの悪いアイラ。

 思わず最悪の事態を想像せずにはいられなかった。


「まさか……何かあったの?」

「大丈夫。今のあたしたちにできることがなくなった、っていうだけの話だから」


 アイラが見せてくれたのは空っぽになった容器。

 本来なら鬼人の治療薬が入っているはずの容器だった。


「もう100人分は使い果たしたの」

「そっか……」


 鬼人になった人たちを元に戻すことができた。


「問題は残りの人なのよね」

「え、100人分では足りなかったの?」

「王都全体で言えば、まだ数百人が暴れているの」

「……」


 その数を聞いてわたしは呆然とした。


「危ない!」


 アイラがわたしに迫っていた腕を斬ってくれる。


「まだ抵抗しますか」


 腕の数が一気に増えてわたしに襲い掛かってくる。


「この……!」


 剣を高速で振って全ての腕を斬り落としてわたしを守ってくれている。

 けど、相手が鬼人なら再生能力があるからあまり意味はない。


「助けられなかったことを悔やんでいる場合? 今、何をしなければならないのか分からないの!?」


 そうだ。わたしが彼らを助けないといけない。


「ありがとう」


 アイラに一喝されたことで奮い立たせる。

 【加護】を強めると全員で神気を共有する。とはいえ、わたし以外は適性が低いから少量しか扱うことができない。


「二人とも巻き込まれないでね」


 わたしの前で剣を振っていたアイラが上に掲げる。

 鬼人の腕が何十本と迫っている状況でも目を瞑って意識を集中させている。


「アイラ!」


 鬼人の手が眼前に到達した瞬間、我慢できずに名前を呼んでしまった。


「一刀両断」


 それはスキルの名前なんかじゃない。彼女なりの意識を統一させる言葉。ただ、目の前の相手を斬ることに一撃で集中する。


 振り下ろされる聖剣。

 同時に全てを吹き飛ばすような斬撃が女神ティシュアへ向かって放たれる。

 しかも、この斬撃には神気が含まれている。焼き尽くされたように“穢れ”が崩れ落ちていく。


「この……!」


 鬼人や“穢れ”にとって天敵となるのはティシュア様の神気。

 相反する存在だからこそティシュア様の神気の前では脆くなってしまう。


 女神ティシュアがわたしやアイラを倒す為に鬼人の手を殺到させる。アイラの一撃で半分以上を倒すことができたけど、もう新しい鬼人の腕を用意して殺到させていた。


「させない」


 神気を剣に纏わせたイリスが躍り出て次々と腕を斬り落としていく。

 しかも、斬った場所から冷気が伝わっていって根元まで凍らせようとする。おかげで再生を阻害されて再利用を抑えている。


 だが、多勢に無勢。

 たった二人だけで数百本の腕から繰り出される攻撃を捌き切れるはずもなく一本の腕がイリスの剣戟を掻い潜って体を掴んでいた。


「ぐぅ……」

「イリス!」


 伸びる腕はそのままイリスを押し込んでいく。

 アイラが心配で声を掛けるものの攻撃を捌く手は止めない。


「……ん? 『巫女』ともう一人はどこへ行きました?」

「今さら気付いても遅い」


 体を掴んでいる鬼人の手に触れると魔法を発動させて凍結させる。

 イリスの背後にいるはずのわたしの姿がないことに気付いて慌てて探している。


「そこかぁ!」


 地面から飛び出してきた5本の腕がシルビアに襲い掛かる。

 突然の奇襲にも関わらず右手に持った短剣だけで裁くと左手に持っていたものごと大きく振り回す。


「なっ……!?」


 直前まで女神ティシュアはわたしの存在に気付くことができなかった。

 手を繋いでわたしも【壁抜け】の影響下にいさせてもらうことにした。この状態なら誰も姿を見ることができないし、気配を捉えることができない。シルビアの存在が直前に感知されたのは、わたしの存在を感知される訳にはいかなかったからこそ敢えて自分を晒して注意を惹いた。


 ブスリ、と腹に突き刺さる錫杖。神である以上この程度の攻撃によるダメージなんて意味はない、はずなんだけど……


「『自分殺し――それは最も罪深いことです』」


 わたしを通してティシュア様が神気を女神ティシュアへ送り込む。


「『――少し話をしましょう』」

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