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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第34章 鬼人慟哭
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第37話 女神と巫女-穢獣-

 いつの間にか女神ティシュアの背後へ忍び寄っていたシルビア。

 完全に気配を絶っていたおかげで難なく首を斬り落とすことに成功した。


 けれども、宙を舞う頭部と倒れる胴――その、どちらもが同時に粒子となって消えちゃった。


「え、どこ……?」


 最も近くにいた、そしてパーティ内で最も強い探知能力を持っているはずのシルビアでさえ見逃してしまうほどの事態。

 わたしも事態が突然すぎて対応できない。


 シルビアから念話で死角から攻撃することは伝えられていたから首を斬られた瞬間にはちょっと驚いちゃったけど、すぐに受け入れることができた。

 けど、こうして跡形もなく消えてしまうのは……


「躊躇なく首を斬り落としますか」


 最初の言葉が聞こえた瞬間にはシルビアは声の方へ振り向いていた。

 近くにあった家の屋上の縁に女神ティシュアが腰掛けながら手を振っていた。斬られたはずの頭部も元通り。切断された様子なんて、どこにもない。


「みんな、気をつけて。アレは正真正銘の神」


 シルビアとイリスに言う。


「でも、神なら今までにも何度か相手にしたことがあるけど……」

「あんな半端者と一緒にしない方がいいよ」

「半端者?」


 わたしの言葉にシルビアが首を傾げている。

 今までに戦ったことのある狩猟神や氷神。彼らは下界に対して影響を及ぼす為に神としての力を下界にある依り代に憑依させて行動していた。


「つまり、肉体は下界にある物……わたしたちの常識が通用する相手」


 だけど、女神ティシュアだけは違う。


「彼女は、王都フィレントに溢れる膨大な“穢れ”を依り代に神性をそのまま顕現している」

「えっと……」


 概念に近しい存在となった。

 肉体に意味はなく、存在そのものが女神ティシュア。


「彼女の肉体をどれだけ傷付けたところで意味がない。何か特別な方法で倒さないと意味がない」


 首を斬っても、次の瞬間にはそこにいる。

 そんなデタラメな存在になっていることが首を斬ったことで知ることができた。


「そろそろ絶望することができたでしょうか」


 話し合う時間を待っていた女神ティシュア。

 彼女の指示に従って鬼人たちが集まってくる。


「……どうするの?」

「そちらは私が対処しましょう」


 近付く鬼人に向けて歩き出す人影があった。


「海蛇……」


 いつの間にかフィレントへ来ていた蒼い髪を持つグラマラスな女性。

 彼女が持っていた扇を動かすと空中に生成された水が蛇のように蠢いて鬼人の体に絡み付く。


「凍結」


 そして、あっという間に絡み付いていた水が凍り付く。

 彼女の正体は嵐を操ることができる海蛇。人化したことでグラマラスな女性へと姿を変えている。


「周囲の鬼人は私が動きを止めています。その間に彼女を」

「はい!」


 雷獣の背に跨ったまま突撃する。

 シルビアはいつの間にかまた消えていなくなっていたし、イリスは自分の足で走り回りながらの方が攻撃しやすい。

 たしかにダメージを与えることはできない。

 それでも、全ての攻撃が無駄っていう訳じゃない。わたしたちが攻撃することで女神ティシュアの注意をわたしたちに惹き付けることができる。


「では、こういう趣向はいかがでしょうか」


 女神ティシュアが指を鳴らす。

 すると、炎鎧と戦っていた“穢れの炎鎧”と地面から飛び出して攻撃していた“穢れの海蛇”の尾が靄となって消え、女神ティシュアの前へ集まる。


「ストップ!」

『いきなり言われても方向転換なんて早々でき……ええい!』


 駆けながら無理矢理体を丸めると跳び上がる。


「ちょ、ちょ……」


 急激な浮遊感に思わず雷獣の毛を掴んじゃう。


『け、毛を掴むでない!』

「無茶言わないで」


 女神ティシュアすらも跳び越えて着地した雷獣とわたしが目にしたのは予想外な姿だった。

 獅子の胴体から上半身だけを生やした牛人(ミノタウロス)。ミノタウロスの体には蛇が巻き付くようになっている。


 三獣一身。

 そんな言葉が、わたしの頭に浮かんできた。


「見掛け倒し、なんていう可能性は?」

『神が作り出したものじゃ。楽観視するのは危険じゃ……むぅ!』

「え……」


 雷獣の背に跨りながら敵を観察していると、いきなり雷獣が体を揺すって上にいたわたしを投げ飛ばした。


 何をするのか。

 すぐに抗議しようかと思ったけど、目の前の光景はそれどころじゃなかった。

 雷獣が体から電撃を放ちながら迫る黒い斬馬刀を回避している。周囲へと拡散される電撃。敵の攻撃は斬馬刀だけではない。敵の周囲に生み出された水の弾丸が常に雷獣へと襲い掛かっている。広範囲をまとめて吹き飛ばすような攻撃をしていなければ体が穴だらけになっている。

 さながら嵐の中で巨大な剣を振るわれているようなもの。


『悪いが、ワシの手助けはここまでじゃ』

「雷獣!」


 海蛇が助けに入った。

 彼女の手から放たれた水の弾丸が相殺する。

 その時、ミノタウロスの右肩の上にあった蛇の目が妖しく光る。


『む?』


 ”穢れの神獣”が姿を消す。

 次に現れたのは海蛇の右横。ミノタウロスが斬馬刀を振り落とす瞬間。


『うおおおぉぉぉぉぉ!』


 炎鎧の斬馬刀が振るわれて”穢れの神獣”の斬馬刀を弾く。


『オレを忘れているんじゃねぇ!』


 高速で何度も打ち付け合わされる両者の斬馬刀。

 二本の斬馬刀が衝突する度に火の粉が舞い散って周囲の建物へ燃え移っていく。


「もっと周囲のことを気にしてあげて!」

『悪いが、そんなことを言っていられる余裕はねぇ!』


 炎鎧が鋭く斬馬刀を振り下ろす。

 直後、消えたように思えるほどの速度で横へと移動し、炎鎧を斬れるようにする。

 斬馬刀を振り下ろしたばかりの炎鎧には目でギリギリ追うことはできても、敵の攻撃を防御や回避する余裕はない。


 無理矢理にでも迎撃しようと腕に力を込め……


『何を呆けておる!』


 ”穢れの神獣”の後ろから突っ込んできた雷獣によって吹き飛ばされる。

 さらに、雷獣がそのまま奥へと押し込んで街の外へ向かっている。途中にある建物なんて全て無視しているせいでグシャグシャになっちゃっている……ああ、せっかくの王都が。


「大丈夫ですか?」

『ああ、問題ねぇ』


 炎鎧を心配した海蛇が声を掛けるものの炎鎧の反応は素っ気ない。


「もう。心配してくれているんだから、もっとそれなりの反応があるんじゃない」

『うるせぇ。奴を倒す方法を考えていたんだよ』


 戦闘は好きでも難しいことを考えるのが苦手な炎鎧。

 状況を整理する為に海蛇が敵戦力を分析する。


「どうやら敵は雷獣の機動力、炎鎧の攻撃力、私の殲滅力の全てを同時に行使することができるようです」


 上にミノタウロスのように重たい魔物を乗せていればスピードは必ず落ちるはずなのだが、雷獣が全力で駆け回った時と同等の速さを見せることができている。

 3体の長所を併せ持った魔物――それが”穢れの神獣”。


「勝てるの?」

「……時間稼ぎに徹すれば負けることはありません」


 負けることはない。

 今のところ勝つ方法は思い付いていなかった。


「アレは私たち3人で対処します」

「テメェに言われるまでもない。アレはオレの獲物だ」


 炎鎧が雷獣を追って駆け出す。

 あれも相当な戦闘好きみたい。


「では、私もアレを追います。ただ、一つだけ教えてあげます」

「なぁに?」

「勝つ方法はないと言いましたが、倒す方法がない訳ではありません」

「ほんとう?」

「はい。彼女を倒せばいいのです」


 そう言って建物の屋上からのんびりと観戦している女神ティシュアへと目を向ける。


 女神ティシュアが見られていることに気付いて手を振っている。

 ああやって笑顔を振り撒いている姿は本当にティシュア様と瓜二つだから彼女の姿を見ているだけでイライラする。


「あの”穢れの神獣”は彼女が制御しているからこそ力を発揮することができ、無限に供給されるからこそ使い続けることができます」


 海蛇に言わせると暴発寸前の風船みたいな状態らしい。

 つまり、制御している女神ティシュアを倒せば勝手に暴発する。


 暴発されるのは非常に困る。


「あんまり街を壊さないでね」


 今も雷獣と炎鎧が暴れているせいで、あちこちから火が上がっている。


「私は彼らの支援と消火活動に当たります。彼らも勝てない相手だと本能で理解しているはずですので、無理はしないはずです」


 問題は、わたしの方かな。


「大丈夫。相手が女神ティシュアで、わたしにティシュア様がいてくれて本当によかったよ」


 【ティシュア神の加護】を発動させて神気を纏う。

 対処法ならティシュア様が教えてくれた。


 だけど、リスクが必要で……


「『構いません。アレは私の残した罪です』」


 わたしの口からティシュアの声で、言葉が紡がれた。

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