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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第34章 鬼人慟哭
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第35話 女神と巫女-邂逅-

 叫び声の上がる王都へと駆ける。

 後ろから『巫女』へ向かって怨嗟の声が上げられているけど、マルスが引き受けてくれているからわたしは真っ直ぐに都市へと向かう。


「うっ……」

「これは酷い」


 思わず口を押さえてしまうわたし。

 隣ではシルビアも顔を顰めていたからわたしの反応は間違っている訳じゃない。

 王都のあちこちでは鬼人が暴れたせいで潰された人たちがいた。そのせいで地面や建物の壁には真っ赤な血と肉片が飛び散っている。


「ひぃ、ぎゃあ!」


 今も近くで一人の男性が壁に叩き付けられて体を撒き散らした。

 最後まで自分の店である金細工を置いた屋台を守ろうとしていた。商人にとって店と商品は何よりも大切な物。人によっては自分の命よりも優先させることがあるってメリッサから聞いたことがある。あの男性も本当に自分の商品を大切にしていた。


「あ……」


 男性を潰した鬼人が新しい標的を見つけた。

 小さな女の子を連れた若い母親。


「まま……」


 母親に手を引かれた女の子が怯えながらギュッと手を握る。自分の不安を紛らわせる為であり、母親を必死に励まそうとしていた。

 自然と自分と娘の姿に重なった。

 あの人たちを見殺しにする訳にはいかない。


 けど、わたしが動くよりも早くシルビアが動いた。

 母娘へと伸ばされていた鬼人の両手を斬り落としていた。さすがに掴む手がなければ鬼人にもどうにもできない。


「早く逃げてください」

「で、でも……外にも魔物がいっぱいで、どうすれば……」


 正しくは都市のあちこちで人が『鬼』に変わっている。

 けど、『鬼』について正しく理解していない人たちには、いつの間にか『鬼』の魔物が王都へ入り込んだようにしか見えない。


「こっちへ!」


 王都に詳しくないわたしたちが迷っていると兵士の叫ぶ声が聞こえてくる。


「彼らについて行ってください」

「助けてくれてありがとうございます」


 母親がお礼を言いながら兵士のいる方へと駆ける。

 その様子を見ていた他の人たちも兵士の案内する場所が安全だと判断して雪崩れ込んでいく。


「ノエル!」


 シルビアの叫び声。

 咄嗟に反応して後ろへ跳ぶと横にあった建物の向こうから鬼人の腕が突き出てくる。


「こう騒がしいと……」


 王都は阿鼻叫喚といった様子。

 敵の気配を探ろうとしても混沌とした気配に掻き消されてしまう。

 今の攻撃はどうにか回避することができたけど、どこもかしこも敵だらけといった状況はすごく危険。


「う……」

「おかあさん!」


 振り向けばさっきの母親が頭から血を流して倒れていた。

 彼女の胸の下には女の子が抱かれるようにおり、近くには建物の瓦礫が落ちていた。


「もしかして……」


 わたしを攻撃する為に壊された建物の破片。

 それが偶然にも近くにいた母娘へと襲い掛かった。そして、母親は娘を守る為に身を挺して女の子を守った。


「この……!」


 錫杖で飛び出してきた鬼人の頭を叩く。

 叩き割るような攻撃じゃない。そもそも、頭を叩き割ったところで死ぬ訳じゃない鬼人を相手に強力なだけの攻撃は意味を成さない。

 わたしは錫杖を叩き付けると同時にティシュア様のイメージを流し込む。

 正しい方向へと流された信仰の力が“穢れ”を浄化していく。


「ふぅ」


 一人を戻したところで息を吐く。


「この人もお願いします」

「え、はい……!」


 元の人間の戻った人をシルビアが兵士の傍まで投げて渡す。地面に落ちると少しばかり体に傷を負ったみたいだけど……気にしないことにしよう。

 今のわたしたちに彼らを気遣っているほどの余裕はない。そもそも、間違った信仰を抱いてしまった彼らにも原因があるのだから少しぐらいの負傷は我慢してほしいところだ。


「もっと大勢を一気に戻すことはできないの?」


 シルビアがわたしの背中を守りながら尋ねてくる。

 わたしもシルビアと背中を合わせて周囲を警戒する。お互いに正面と横を警戒することで死角を潰す。


「やりたいところだけど……」


 シルビアが言っているのはアヴェスタでやったような南門の前にいた人たちを一気に戻した方法。

 けど、二つの理由から今はできない。


「混乱しすぎ、被害が拡大している」


 広範囲に幻覚を見せる時は錫杖の音を聞かせる必要がある。あの時は、少しずつ大きくしていった音を何度か聞かせることで幻覚を見せると同時に錫杖の音を聞き入るようにした。

 今も何度か聞かせられるほどの余裕があればいい。けど、あちこちで鬼人の襲撃が起こっている王都でそこまでの余裕があるとは思えない。


 何よりも問題なのが二つ目の理由。幻覚を見せて元に戻した所を、わたしの力が及んでいない場所から来た別の鬼人に襲われれば目も当てられない被害になる可能性がある。

 現状では、少しずつ被害を減らしていくしかない。


「けど、その方法でも被害は大きくなっているみたいよ」

「……」


 わたしは、シルビアの言う光景から目を逸らさずにはいられなかった。


「おかぁさん……おかあさん!」

「お嬢ちゃん。残念だけど、もうお母さんは……」

「うわぁぁぁぁぁん!」


 女の子の叫び声が響き渡る。

 母親は頭に受けた瓦礫が原因で亡くなってしまった。

 守られた娘の方は、母親の死を受け入れられずに起こそうと母親の体を必死に揺すっていた。


「とにかく、わたしたちはわたしたちにできることをしないといけない」

「うん……」


 少し離れた場所に別の鬼人を2体見つけることができた。

 まずは、彼らを元に戻す……


「もう、嫌ぁ! かみさまのばかぁ!」

「あ、ちょっと……」


 女の子の叫びに気付いた時には遅かった。

 どこからともなく現れた“穢れ”が女の子へと吸い込まれて凶暴な鬼人へと変貌する。鬼人へ変わってしまえば元がどれだけ温厚な性格をしている子供でも変わらない。


「グルゥア!」

「へ……」


 低い声を出しながら振るわれた鬼人の腕が女の子を慰めていた兵士の体を斬り裂く。

 斬り裂かれた兵士は辛うじて即死を免れていたものの大量の血を流し、繋がっているのが奇跡と思えるほどの体をしていたため、そう遠くないうちに絶命してしまうのは間違いない。


「……ごめん」


 先ほどと同じように鬼人の頭を後ろから叩く。


「なに、これ……」


 今まで全く違う手応えに戸惑っていた。

 なかなか元の人の姿に戻らない。


「素晴らしい力ですね」


 その時、地獄と化した王都を悠然と歩く一人の女性が微笑みながらわたしたちに近付いてきた。周囲の様子なんて気にした様子がない。


「あなた、は……!?」

「ありえない」


 すごく見慣れた姿。

 けど、今までに見たことがないほどに冷たい表情をしていた。

 そして、ここにいてはならない人物。


「はじめまして、と言わせてもらいましょうか。女神ティシュアです」


 現れたのはティシュア様と瓜二つの姿をした人物。

 ううん、そっくりでも問題ない。彼女はティシュア様と分かれた、もう一人のティシュア様とでも言うべき人物なのだから。


「そういうこと」


 女神ティシュアが近付くにつれて女の子の抵抗する力が強くなった。

 “穢れ”は誤った方向に信仰することで生まれた神の力。その象徴とも言えるのが女神ティシュア。彼女の姿を強く認識するのは、“穢れ”を強くしてしまうことと同じだ。


『ノエル!』

「お願い、です……」


 頭の中にティシュア様のわたしを制止する声が響く。

 けど、わたしには女の子を見捨てることなんて……


「グワァ!」


 けど、わたしの頑張りは無駄だったみたいで女の子の体が破裂して息絶えてしまう。再生される様子もない。


「……やはり、特別製の『鬼』と違って量産された『鬼』では強過ぎる“穢れ”に耐えることができませんでしたか」


 女の子が亡くなったことなんて全く気にしていない様子の女神ティシュア。

 やっぱり、姿が同じなだけで本質はティシュア様とは全く違う。


「女神ティシュア!」

「怖いですね。『巫女』がしていいような表情ではないですよ」

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[一言] 祟り神様になってしまわれた(汗)
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