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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第34章 鬼人慟哭
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第33話 神の代弁者-条件-

 神剣を鞘から抜き、同時に神気を纏わせる。

 鬼人であるセンドルフを斬るなら、今の神剣以上に効果のある剣はない。斬ればあらゆる物を両断し、掠るだけでも溶かされたような激痛を与えることになる。


 センドルフにも神気が脅威であることは理解できた。


「私が教えるとでも?」


 恐怖しながら俺との会話に応じる。

 今のセンドルフは頭を必死に働かせている。俺との会話はあくまでも時間稼ぎにすぎない。


「教えるさ。教えてくれるなら楽に死なせてやる」


 フッと神剣から神気が消える。

 わずかにセンドルフが安堵している。


「どうして、そこまでして知りたいのですか?」


 神気がある状態で戦った方が有利なのは間違いない。

 有利を棄てるほどのメリットをセンドルフには見出すことができなかった。


「目的は二つ。今後も同じような敵が現れないとも限らない。だから、今の内に知っておきたいと思った」


 氷神はピクシーを依り代にしていた。

 狩神も自らを象った神像を依り代に動き回っていた。

 神が地上で動く為には依り代が必要になる。最近は神と対峙する頻度も高くなってきた。女神ティシュアとセンドルフの関係は依り代とは違うが、今後も同じようなことをする神が現れないとも限らない。


 原因が分からなければ対策のしようもない。


「教える訳がないでしょう!」


 センドルフが手を掲げる。

 すると、掲げられた手に黒い靄が集まる。

 黒い靄は大量の“穢れ”。以前よりも自在に操れるようになったセンドルフは自分のイメージした通りに形を変えて圧縮させることができるようになった。


 造られたのはハンマー。

 大柄な鬼人の体に相応しいサイズで俺の体よりも大きい。

 そんな大きさのハンマーを叩き付けられただけで人間は潰されてしまうだろう。


「行きますよ」


 ハンマーを頭上で振り回しながら近付いて来る。

 得体の知れないハンマー。迂闊な攻撃が躊躇われたため接近して振り下ろされたところで横へ跳んで回避する。


 ハンマーはそのまま地面を叩く。

 地面が砕かれ穴が開けられるのは想定の範囲内。

 が、地面を穿った直後に黒い風の衝撃が駆け抜ける。

 ハンマーから放たれた衝撃は強く、腹を殴られたようなことになり吹き飛ばされる。


「なるほど。今ので理解した」


 先日の戦いよりも“穢れ”の操作性が上昇している。

 しかし、それ以上に保有していられる“穢れ”の量が増大している。今の攻撃は大量の“穢れ”を叩き付けただけのもの。そして、ギリギリのところで保たれていた“穢れ”に衝撃が加えられたことによって拡散した。


「厄介なのは“穢れ”が魔力で作られた障壁を貫通していることだな」


 人に影響を及ぼした“穢れ”には問題がない。

 ただし、“穢れ”そのものは魔力による防御を無視することができるらしく、魔力を纏っての防御に意味を成さない。衝撃に耐えられるよう魔力を纏って防御していたというのに全く効果がなかった。

 もしも、魔力だけで防御していた場合には被害は甚大になっていた可能性がある。


「もう……早く倒れてくださいよ」


 ハンマーを杖のように振るうと空中に“穢れ”の矢が生み出される。

 飛んでくる矢を全て飛んで回避すると矢が地面に突き刺さる。


「げっ」


 一発も直撃しない。

 しかし、矢が直撃した地面がドロドロに溶けて毒々しい真っ黒な地面に変化していた。


 前言撤回。

 直撃を受けたなら確実に無事では済まない。

 それでも先ほどの攻撃を耐えることができたのは魔力と一緒に神気も防御に回していたからだ。


「ク、クソッ……当たりさえすれば……!」

「悪いけど、お前の攻撃が当たることはない」


 魔法で地面から土壁を出現させて姿を隠す。

 戦い慣れていないどころか“穢れ”を扱い切れていないセンドルフには真正面から槍で攻撃するしかない。


 直撃を受けた土壁がドロドロに溶けていく。

 上の方から溶けた土壁が消えて俺の姿が見える。


「おま、え……」

「一刀両断」


 そうしてセンドルフが見た俺の姿は、腰の位置に構えた剣を振り抜くところ。

 振り抜かれた神剣から全てを両断する斬撃が迸り、センドルフの体を上下に両断する。まあ、後ろにあった王城にまで斬撃が迸ってしまったのは失敗だ。


「分かっていない」


 苦痛に顔を歪めながら力を発動させ、すぐに“穢れ”が集まる。

 綺麗に両断しているため分かれた上半身と下半身を繋げ直そうとしていた。


「そうはさせない」


 神剣を手にしたまま駆けると空いている左手でセンドルフの顔を掴む。

 鬼人になっているせいで覆うことはできないが、角や鼻なんかを掴めばボールのように軽々と持つのは難しくない。


「どこへ行く!?」


 上半身を手にするとその場から離れる。

 二つに分かれた体を繋げようとしていた作業は中断される。代わりに上半身の切断面から肉が盛り上がって再生を始めようとする。


「鬼人を生み出していた方法を教えてもらおうか」

「まだ聞いてきますか!」


 どうやら自分の再生能力に絶対に自信があるのか体が両断されても平然としていた。

 もっとも、何も感じていない訳ではない。体が両断された際には顔を歪めていたし、先日の戦いでは腕を切断されたことで叫び声を上げていた。

 痛覚は確実にある。


「喋らないって言うならそれでも構わないさ」


 神気をセンドルフの体へ叩き付ける。ただ、叩き付けているだけでなく魔力で行っていた【魔導衝波】を用いている。


 ――グチュ、ブチッ、バチャア!


「があああぁぁぁぁ!」

「おお、想像以上に効果があるな」


 センドルフの体の至る所が弾けて肉が撒き散らされる。

 苦痛から暴れ回りたいところだが、暴れ回る為に必要な体が未だに再構築されていない。


「これなら狂気に呑まれていた方が良かったかもしれないな」


 あの時は、ノエル以外の全てを認識していなかった。

 おそらくダメージを受けたとしても痛みを感じることなく襲い掛かり続けることができただろう。

 ただ、それこそ『鬼』のあるべき姿なのかもしれない。


「もう一度聞く――鬼人への変化条件を教えろ」

「言う、わけがないでしょう……」

「そうか」


 今度は威力を強めて上半身の全てを破裂させる。

 体に掛かる返り血を回避する為に離れる。それでも弾けた血が襲ってくるようになっているので神剣で斬って弾き落とす。


「下半身が再生することはない、か」


 やはり核みたいなものがあるのか再生は必ず上半身から行われる。

 それを破壊すればセンドルフの再生を止めることができるのかもしれないが、どこにあるのか位置を特定することができていない。

 何よりも聞き出せていない状況で倒してしまうつもりもない。


「おい、さっさと再生させて起き上が……なんだ?」


 右頬の辺りがムズムズする。

 擦ってみると先ほど浴びた返り血が拭われた。


『おじゃまします』


 手についていた血が飛び上がって襲い掛かってくる。

 咄嗟に左手で叩いて地面へ落とす。


「チッ、油断した」

『そうですよ。「鬼」の血を浴びすぎです』


 顔の左側に付着していた一滴の血。

 ただの返り血だと思っていたせいで反応が遅れてしまい、口の中への侵入を許してしまう。


『ハハッ、どうですか。これで貴方も「鬼」の仲間入りです』

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