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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第34章 鬼人慟哭
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第32話 神の代弁者-襲撃-

「こんなところにいる場合ではない。お前たちは急いで住人を守りに行け」


 レオニード国王がてきぱきと指示を出す。

 兵士たちに襲われている住人を逃がさせる。王都フィレントには、神獣たちに襲われていた時に用意しておいた避難所がある。想定されている鬼人の攻撃にも耐えられるはず。そこへ避難させれば最悪の事態だけは免れることはできる。

 そうして同時進行で騎士たちが鬼人を元に戻す。事態を鎮静させなければ勝利は訪れない。


「俺が手に入れた薬がある。有効に使え」


 騒動は王都の至る所で起こっている。

 全てに対処する為には騎士全員で対処する必要がある。


「ですが、城の守りを疎かにする訳には……」

「王城は簡単に落ちることはない。俺のことは気にせず自分の役目を全うしろ」

『はっ!』


 騎士たちが城の外へと向かう。

 彼らが対処しなければならないのは戦場以上に厳しい場所だ。


「ノエル、お前はどうしたい?」

「どうって……」


 どうにもウズウズした様子のノエル。

 彼女がどうしたいかなど様子を見ていれば一目瞭然だ。


「裏切り者扱いされたっていうのに助けに行きたいんだな」

「……ダメかな?」

「いいや、行きたいなら止めない」

「うん!」

「ただし、一人で行くのは許可できない」


 護衛としてシルビアをつける。

 故郷の危機にどうにも危なっかしい様子のノエルを単独行動させる訳にはいかない。


 ノエルとシルビアの二人がテラスから跳び下りる。


「アイラとイリスも王都に出て騎士たちの援護だ。鬼人になった奴らの動きを止めてこい。必要なら薬も使っていい」


 残っていた薬を1本だけ残して全て二人の収納リングへと移す。


「メリッサはここから長距離射撃と国王の護衛だ。いくら王城が硬いと言っても国王の護衛に誰もついていないのは問題だろ」

「それは構いません。ですが、主はどうされるのですか?」

「俺の仕事はあっちだ」


 地上へと降り立ったノエルへと視線を移す。

 すると、走り出した二人へと頭上から迫る黒いガスのようなものが目に映る。

 一刻も早く街へ行こうとしているノエルに気付いた様子はない。しかし、隣にいるシルビアは気付いているのだが対処する様子がないのは俺が助けることをしっかりと分かっているからか。


『巫女ぉぉぉぉぉ!!』


 黒いガスから声が発せられる。

 ノエルへ近付くほどに形を得ていき、人の形へと近付いた姿は怒りの形相に塗り潰されているもののセンドルフそのものだ。


 殺気を叩きつけられたことで頭上から迫るセンドルフにノエルもようやく気付き錫杖を握る手に力を込める。

 その瞬間、迫っていたセンドルフの体が弾かれる。


『ガァ!』


 先ほどまでノエル以外は眼中にないといった様子だったのに今度は俺へ敵意の全てを向けていた。

 その理由は今の攻撃にある。


「【ティシュア神の加護】」


 ノエルから借りたスキルを使用する。

 纏っていた神気が増大する。


 【ティシュア神の加護】。元『巫女』だったノエルだったからこそ手に入れることができたスキルで、人間であっても神気の感知と使用が可能になる。魔力以上に強力な代わりに消耗の激しい力。

 さらには神の力にも干渉することができる。


 今のセンドルフは俺との戦闘から逃れる為に自らの体を棄てて、神気の亜種とも言える“穢れ”へと変化させていた。そのせいでガスにも“穢れ”で作られた体で行動せずにいられなかった。

 その体では動かすだけで“穢れ”を消費し、実体を持つ相手に干渉する為には大量に“穢れ”を消費する必要がある。ただし、同時に誰からも干渉されることがなくなった。

 はずだった……


『また、邪魔をするか巫女ぉぉぉぉぉ!』


 勘違いしたセンドルフが俺へ敵意を向ける。


「おお、勘違いしている」


 ノエルの方が近いのに彼女のことなど全く見えていない。

 肉体を棄てて“穢れ”そのものとなったセンドルフは神の力に対する感覚が鋭くなっている。おかげで、自分と似た力を持つノエルに強く反応しなければならなくなった。

 だが、【ティシュア神の加護】を使用したことで俺の方がノエルよりも気配が強くなってしまった。


「あの時はつけられなかった決着をつけようぜ」


 急スピードで飛び上がったセンドルフがテラスのある高さまで辿り着く。

 ガス状の手を握り締めると拳が作られて殴り掛かってくる。


「俺は、こいつの相手を引き受けることにしよう」


 センドルフの拳を受け止めて手前へ引き寄せると腕の関節を絞めて動けないようにする。


『ぐ、ぎぃ……』

「痛いだろうな。今のお前は俺が纏う神気のせいで“穢れ”に戻ることもできない。素人にどうこうできるほど簡単な拘束じゃないんだよ」


 腕を掴んだままテラスから外へと躍り出る。


「じゃ、3人とも後はよろしく」


 外へ飛び出せば何もない地面へと真っ逆さまに落ちていくだけ。

 上下の反転した世界に恐怖し、逃げ出そうと暴れる。だが、絡められた俺の足に腕と頭部を固定されたせいで逃げることができなくなる。


「このまま落ちろ」

『はな……』


 地面へ衝突するまでは一瞬の出来事。

 グチャ、という頭が潰れた音が王城の庭に響く。


 地面へ衝突した瞬間にセンドルフから離れて着地する。

 頭部を失った体が倒れるのを冷ややかな目で見る。


「さっさと起きろ。こっちはそれほど暇じゃないんだ」


 グチャグチャになった首から肉が盛り上がるようにして潰れた頭部が再生される。

 鬼人にとっては頭部を失うなど致命傷には成り得ない。


『よくもやった……』


 睨み付けながら喋る口に治療薬の入った瓶を叩き付ける。

 センドルフの口に当たった瞬間に瓶が割れ、治療薬が顔にかかることになる。


『イテェ!』


 砕けた瓶の破片がセンドルフの顔を切るものの驚異的な再生能力によって一瞬で治癒されている。


 俺の目的は治療薬を飲ませることにある。

 既に治療薬の存在を知っており、警戒しているセンドルフに飲ませるのは簡単ではない。まあ、治療薬にはそれほど期待していない。


『チッ、こんな物を飲ませやがってぇ!』

「やっぱり効果がないな」


 センドルフの体から蒸気が噴出し苦しみ悶えている。

 僅かながら効果はある。しかし、完全に“穢れ”を中和できるほどの効力は得られなかった。

 彼の保有する“穢れ”が強過ぎる。


『もう許さねぇ!』

「だったら、本気も早々に出した方がいい。そうでないと一方的に倒されるだけで終わるぞ」


 強力な再生能力を持っていようとも無限ではない。

 何度でも立ち上がるというのなら尽きるまで倒し続けるだけだ。


『――いいだろう』


 人間の姿と変わらない“穢れ”で作られたセンドルフの体が霧散する。しかし、すぐに直前までいた場所に頭部から角を生やし赤茶けた肌をした大男が立つ。

 ガスのようにどこか掴み所のなかった体が実体を得ている。

 何よりも『巫女』しか見えておらず狂気に染まっていた目に理性が宿っている。


「どうやら私は勘違いをしていたようですね」


 その目は、しっかりと俺を認識している。


「今からノエルを追い掛けるか? もう王都の中だぞ」

「止めましょう。王都では彼女には誰も救えない。本来なら私が出てくる必要などなかったのですが、与えられた力が強過ぎて理性を失ってしまったようです」

「なに……?」


 何か秘策があるような言い方。

 こっちの情報は仲間にも共有されている。ノエルが気付かなかったとしても傍にいるシルビアがどうにかしてくれるだろう。


 俺は俺でセンドルフから聞き出さなければならないことがある。


「お前、どうやって鬼人を生み出していた?」

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