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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第34章 鬼人慟哭
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第30話 届けられた声

 現れたのは2体目の鬼人。


「ひぃっ……!」


 最初の鬼人を追い詰める為に2体目の鬼人となってしまった兵士の隣にいた別の兵士が突然の状況に驚いて尻餅をついている。

 鬼人が無防備な元同僚へ手を伸ばす。

 他の騎士や兵士たちも戸惑っていて助けに動くことができる状態にない。


「悪いが、俺の見ている前で犠牲者を出すつもりはない」


 伸ばされた腕を掴んで鬼人の体を床に叩き付ける。

 関節を極め上から押さえ付けて動けなくする。


「メリッサ、治療薬を飲ませろ」

「失礼します」

「ガァッ!」


 無理矢理飲まされる薬に雄叫びを上げる鬼人だったが、その程度ではどうにもならず元の姿へと強制的に戻される。


「まだ持っていたのか!」


 今使った治療薬は、レオニード国王へ渡した薬とは別物だ。


「ええ、自分たち用に残しておきましたよ」


 今のように俺たちが自分から動いて飲ませる必要があるかもしれない。

 だから100本だけ別に用意しておいた。もう予備の薬は存在しない。


「それよりも治療薬の効果ははっきりしましたね」

「あ、ああ」


 8人の騎士が囮になり、薬を託された一人の騎士が隙をついて鬼人の口の中へ瓶ごと放り投げる。

 瓶を口の中へ入れられた鬼人は、2人目の鬼人が元に戻されるところを見ていたにも関わらず口の中にある瓶を噛み砕いて飲み干してしまう。即効性のある薬、すぐに効果が表れて元の人間に戻った使用人が倒れていた。


「よし、すぐに確保だ」

『はっ』


 騎士の指示により使用人の拘束が行われる。

 通常なら危険人物を無力化させた場合の対処として間違っていない。


「まあ、待ってください」

「なんだ? 協力してくれたことには感謝するが、城内で起こった問題にまで口出ししないでもらおう」

「彼ら鬼人の中には被害者と言える者たちも含まれています。そんな者たちを現行犯であろうと問答無用で処分してしまうのはやり過ぎではないですか?」

「だが……」

「まずは、事情を聞くのが先決でしょう」


 幸いにして鬼人となっていたのは短時間。

 戻ったばかりの使用人は気を失っているが、先に戻した兵士については衰弱した様子もなく既に気絶から起きている。

 城にいる騎士や兵士はどうにもピリピリしている。彼らに任せていても碌な結果になりそうにないので俺が尋問する。


「意識ははっきりしていますか?」

「……はい」

「何があったのか教えてください」

「何が、って言われても……」


 突然、意識が遠退いていき破壊衝動に塗り潰されるようになる。

 すると目の前にいた相手へ襲い掛からずにはいられなかった。


「何か原因に思い当ることはありませんか?」

「原因……」

「強い憎しみや恨みを抱いていませんでしたか?」

「いや……」


 憎しみや恨みといった感情を抱いていたことを否定する兵士。

 だが、これまでに事例からして何かしら負の感情を抱き、それが引き金となって鬼人へと変化してしまったのは間違いない。

 直前に行っていたことに原因がある。


「そう言えば国王を見ていましたね」

「はい。一昨日から城に勤めるようになって、国王様の姿なんて初めて見たので憧れてしまったんです」


 元々は村としては規模が大きくはあっても村で兵士をしていただけの男。

 それが、いきなり王都へ連れて来られて兵士として勤めることになっただけでなく、城で働くことにまでなって戸惑っていた。

 そして、最初の仕事が鬼人になった使用人の制圧。


 駆け付けた場所では今までに見たことのない魔物が暴れていた。そんな状況でも王は臆することなく、指示を出して効果的な作戦を提示することができていた。

 その姿に憧れてしまった。

 憧れたのは鬼人になった兵士だけでなく他の者も同様みたいで頷いている様子が見受けられる。


「……他に何かありませんでした?」

「そうだ! 声が聞こえました」

「声?」


 鬼人へ変化する瞬間に聞こえたため思い出すことができずにいた。

 だが、必死に思い出している内に声の内容についても鮮明になった。


 ――あのように振る舞えているのは女神が王族に加護を与えていたからだ。お前があの者を羨むのは、お前の生まれが卑しいからだ。


 その言葉が聞こえた直後、自分の境遇を憎む想いが込み上げてきた。

 これまでに三十年余りの時間はなんだったのか?

 自分だってしっかりとした教育を受けて、貧しい暮らしの中にいなかったら偉人になることだってできたはずだ。

 普段なら思うことのない強気な想いすらも溢れてきてしまったらしい。


 その想いが鬼人へと繋がった。


「声、ね――」


 まるで唆すような言葉。

 いや、鬼人への変化を促すつもりで言葉を届けたのは間違いない。


「ああ。あの女の声を聞いた瞬間に目の前が真っ暗になったのは間違いない」

「女?」


 てっきりセンドルフが何かをしたのだとばかり思っていた。

 センドルフの声は高めではあるものの女だと思うような声ではない。


『そっちへ喚んで』

『それが、何を意味することになるのか分かっているのか?』


 聞こえてきたのはノエルからの念話。

 この場にはレオニード国王だけでなく多くの人がいる。特に問題となるのがノエルの顔を間違いなく知っているレオルド王子だ。先ほどは執務室でニアミスをすることになった。できることなら知らないままでいてほしい。


『わたしがそっちへ行く方が確実』

『……分かった』


 渋々ながらノエルを【召喚】する。

 訓練場にいた人々が床に描かれる魔法陣を警戒する。

 しかし、輝く魔法陣から現れたのだと女性だと分かると安堵していた。


「なぜ、ここにいる!?」


 やはりレオルド王子は気付いた。

 他にも昔から王城に仕えてくれていた騎士の何人かはノエルの顔を覚えていたため驚愕している。


「止めろ」

「父上!? まさか父上は、あの裏切り者が生きていることを知っていたのですか?」

「……伝言で聞いて知っていた。だが、死ぬところをはっきりと見ていたから信じていなかった。お前が執務室へ来る少し前まであの部屋にいたんだ」

「どうして黙っていたのですか!?」


 口論をレオルド王子。

 裏切り者、という言葉から分かるようにレオルド王子にとってノエルの生存は許せるようなものではない。

 彼の言葉に少々気を悪くしながらもノエルが兵士に近付く。


「あなたが聞いた声は、この声?」


 兵士の目の前で「シャーーーン」と錫杖を鳴らす。

 今度は幻を見せるのではなく、聞かせることによって神の言葉を届ける。


「ああ……そうです! この人の声です」

「やっぱり……」


 再び錫杖を鳴らすと鬼人になった使用人にも同様の声を届ける。


「はい。私も聞きました」


 使用人は食堂でまかないを食べた直後に鬼人となってしまった。

 あまりに美味しい食事。村にいた頃は奮発することでどうにか食べられる食事が使用人の賄いとして出されている。

 その事実を認識した瞬間に声が聞こえてきた。


 ――王や貴族共は、お前たちから搾取した税でこのような贅沢を続けていた。悔しくはないか? お前とて女神ティシュアを信仰していたにも関わらず、彼女のもたらす恵みは平等に与えられなかった。


 声に従い、女神と特権階級を憎むようになった。


「妙だな」


 これまでの鬼人とあまりに違い過ぎる。


「とりあえず、その二人を牢に閉じ込めろ」

「そんな……私たちにもなにがなんだか分からないのです!」

「許してください陛下!」

「二人を拘束するのは保護の為だ。再び暴れる可能性もあるため拘束しておく必要がある。ただし、無害だと分かった時には解放するから安心してくれていい」


 使用人と兵士は、兵士たちに囲まれて城にある牢屋へと運ばれて行く。


 俺たちは訓練場の隅の方へと移動し、レオニード国王やレオルド王子を始めとした幹部クラスの騎士だけがついてくる。

 情報、というよりも提供者が機密の塊みたいなものだ。慎重にならざるを得ず、信頼できる者だけが集められた。


「単刀直入に言います。彼らが聞いた、という声は女神ティシュアの声です」

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