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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第34章 鬼人慟哭
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第28話 再会の『巫女』と国王

 朝日を浴びる王都。

 露店を覗けばきちんと保管されていた野菜や果物が並べられており、日用雑貨なんかを売る為に必死な人々の姿が見える。

 冬でも雪が少ない地域なため活気が溢れている。

 以前に訪れた時は、炎鎧のせいで苦しめられていたため活気が失われた静かな都だった。


「おかしいですね」


 その景色を見たメリッサの感想は冷たかった。


「おいおい……みんな、寒い中でも頑張っているのに、そんな冷たいことを……」

「たしかにおかしい」


 同調するのはイリス。


「マルスよりも多くの街を見てきた私だから断言できるけど、こんな風に活気があるなんてあり得ない」


 断言する理由は王都フィレントに関して得ていた前情報によるものだ。

 政変によりフィレントからは多くの人が逃げ出してしまっている。人がいなくなれば、人の営みも衰えて活気が少なくなるのが自然。

 だから、以前と変わらない活気を保てるはずがない。

 それに言われているほど人が減ったようには思えない。


『近くの村の人たち……?』


 俺たちと視界を共有したノエルが呟いた。

 さすがに王都の往来を歩かせて正体が露見するようなことになれば騒ぎになる。最初の目的地に着くまでは屋敷で留守番をさせていた。


「何か気付いたのか?」

『うん。あそこで果物を売っている男性は、王都の近くにある村で小さな店をしていたはずだし、あっちで大きな荷物を運んでいるおじさんは大工だって紹介された覚えがある』


 回数は少なかったが、神殿の仕事で近隣の村を訪れて慰問を行ったことがあり、その時に会った人たちが王都で仕事をしていた。


「王都の近く――ということは、国王の直轄地でしょうか?」


 基本的に領地の管理は貴族が行っている。

 ただし、王が管理している領地もあり、そういった領地には国から代官が派遣されて管理を行っている。問題を起こした貴族から没収し、飛び地で管理していることもあるが、王都の近くにあることが多い。


『さあ? その頃は、誰の領地かなんて気にしていなかったから』


 神殿から外へほとんど出ていなかったノエル。

 外界の情報に疎くなってしまうのは仕方ない。それに一般人にとっては誰の領地かなど関係のない話だ。


「ということは、王都で減った人を補充する目的で王都へ連れて来たのかな?」

『そう考えるのが妥当かもしれないけど、じゃあ村には誰もいなくなったの?』


 サッと通り過ぎただけだったが普通の村が途中にあった。

 それに今も鬼人を捜す目的で空から偵察を行っているが、普通の村がいくつか見られるだけで人が消えた村などない。


「そんな風に小難しく考えるよりも知っている張本人に聞くことにしましょ。ちょうど、これから会いに行くんだから」


 王都を訪れた目的は国王に面会する為だった。

 あの時もレオニード国王は少なからず信頼することができた。ティシュア様との約束を守っているなら一生懸命に国政をよくしようとしているはず。


 センドルフの最大標的はレオニード国王と言っていい。

 狙われている身であるため危険が迫っていることぐらいは伝えてあげたいとノエルが言った。


「やっぱり、城門前には門番がいるよな」


 どうにもやる気が感じられない門番。

 欠伸までして近付く者がいないか程度しか気にしていないので侵入するのは簡単だ。


『以前と同じなら、この時間には執務室で書類作業をしているはずです』


 王城内の地図は自分たちで探索して正確にできている。


「あの辺か」


 高い王城の上の方。

 王の執務室があると思しき場所を見据えながら門から離れた場所にある高い建物の屋上へと移動する。

 王城の周囲は高い壁で覆われており、壁から城までは庭が広がっていて辿り着くまでに距離がある。どうにか壁を越えて侵入することができたとしても何もない庭を誰にも見つからずに進むのは不可能に近い。

 侵入者を即座に捕捉できる造りになっていた。


 けれども、それは庭を駆け抜けた場合の話だ。

 侵入者を簡単に見つけられるほど何もない――障害物も何もない、ということだ。


「あの部屋です」


 魔法で鏡面(レンズ)を作り出して遠距離の光景を拡大してくれる。

 レンズには机の前で椅子に座るレオニード国王がおり、疲れたのか背もたれに寄り掛かって休憩していた。


「じゃあ、ちょっと行ってくる」


 執務室の正確な場所を捉える。

 そのまま肉眼で部屋を見ると【跳躍】で移動する。



 ☆ ☆ ☆



「……誰だ!?」


 さすがは獣人国の国王。

 いきなり執務室に現れた侵入者に気付き、壁に掛けられていた剣を手にしようとする。


「ちょっと待ってください」


 争いに来た訳ではない。

 武器を手にされては興奮されてしまう可能性が高いため魔法で剣が立て掛けられている台から離れないようにする。

 そうして、両手を挙げて無害であることをアピールする。

 もっとも、武器を使えなくすることができる相手にどれだけの効果があるのか分からない。


 ただ、自己紹介をするぐらいの時間はある。


「急に訪れたことは謝ります。けど、俺です。マルスです」

「……あの時の冒険者か」


 レオニード国王も俺たちのことを覚えていてくれたようで動かない剣から手をようやく放してくれる。


「いったい、どんな用だ? まさか、近くへ寄ったから挨拶に来た、という訳でもあるまい」

「はい、もちろん用事があります。ただ、その前に……」


 ノエルを除いた4人を【召喚】する。


「仲間たちも喚んだか」

「もう一人いますよ」


 最後にノエルを【召喚】する。


「……ノエル!?」

「お久しぶりです」

「なぜ、どうして……!? お前が生きているはずない!」

「……その様子だと北部で何が起こったのか伝わっていないみたいですね」


 アヴェスタで『巫女』だったノエルが生きていたことは広く知られてしまった。

 パウロたちは信頼できるから街の上層部には口止めをしてくれるはずだ。しかし、街の全員に口止めをするなど不可能。王都にまで伝わるのは時間の問題だと思っていた。

 それに鬼人騒動の件もある。

 緊急事態が起きた時に備えて情報の伝達が可能な手段を用意しておいた可能性がある。あの騒動の中に国に仕える者がいる可能性もあった。


 しかし、国王の慌て様を見る限り情報は全く伝わっていない。

 あれから3日。

 色々と情報収集をしながら移動したため数日が経過していた。

 残念ながら迅速な情報伝達手段はなかった。


「本物なのか?」

「はい。色々あって、あの時は死んでいませんでした」

「そうか。それはよかった」


 安堵から気の抜けた椅子へ座り込んでしまう。

 その表情からは心の底からノエルの生存を喜んでいることが窺える。


 しかし、すぐに為政者としての顔へ戻る。


「本当に戻ってきてくれて助かった。やはり、メンフィス王国には女神ティシュアと『巫女』が必要だ。お前たちがいれば立て直すこともできる」


 ノエルへ縋るレオニード国王。

 それだけ追い詰められていた。ティシュア様から神罰を見せられて逃げ出さないよう言われていた貴族たちだったが、逃げ出しても神罰が下るようなことはなかった。そのため、神罰時の言葉がただの脅しだったと知られている。

 本当に彼も限界だった。


「いいえ、戻るつもりはありません」

「なに!?」


 だが、ノエルの答えは決まっている。


 再び消えるノエル。

 要請があったため【召喚】で戻ってきたノエルの腕にはリエルが抱かれていた。

 生まれてから1カ月も経っていないノエルはすやすやと寝息を立てながらも母親に抱かれていることに気付いたのかノエルの服を必死に掴んでいる。


 狐耳の幼子と狐耳を持つ女性。

 二人の様子を見ていれば関係性は自然と思い浮かぶ。


「わたしの娘です」

「そう、か」

「もう『巫女』はいなくなったんです」


 何もかも変わってしまった現実を受け入れるしかない。


「だけど、何も状況が分かっていない人たちに危機を伝えるぐらいの手助けはしたいと思います」

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[気になる点] 「なぜ、どうして……!? お前が生きているはずない!」 「……その様子だと北部で何が起こったのか伝わっていないみたいですね」  アヴェスタで『巫女』だったノエルが生きていたことは広く…
[気になる点] あれ王様ってノエルが生きてること知らなかったっけ?
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