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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第34章 鬼人慟哭
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第27話 鬼人の目指す場所

 宿屋の部屋に紙をめくる音が響く。

 アヴェスタが襲われた翌朝、俺たちは借りた部屋で資料の確認をしていた。


「どうやら間違いないみたいだな」

「はい」


 確認しているのはセンドルフが扱っていた商品や顧客に関する情報。

 多くの冒険者が鬼人に変化したセンドルフの姿を目撃してしまっていた。それにアヴェスタでも手広く活動していたため顔を見ただけ誰なのか冒険者たちは特定することができた。


 現状ではセンドルフが有力な首謀者。

 このような状況になっては商人ギルドも協力しない訳にはいかなくなった。

 領主代行となったパウロの口添えもあって商人ギルドが保管していた資料を閲覧する許可をもらうことができ、一時的に借りていた。


 おかげで、分かったことがある。

 イリスがテーブルの上にアヴェスタ周辺の地図を広げる。冒険者ギルドで保有している地図で、周囲にどのような魔物が出現するのか地形まで細かく描かれた地図なので村の位置もはっきり描かれている。

 いくつかの村に赤い駒を置く。


「ここが鬼人の発生した村」


 冒険者ギルドで調査が行われていたため被害状況を正確に知ることができた。

 さらに鬼人になっていた者たちからも元に戻って証言が得られたため情報は正確だ。


「で、少なくともこの村全てにセンドルフは訪れている」


 行商をしているセンドルフなら誰も不審に思うことはない。


「元々がレジュラス商業国出身の商人。駆け出しの頃にメンフィス王国を訪れた際に女神ティシュアの起こす奇跡を目の当たりにしてからは盲目的に信仰するようになる。政変後は、支援の為にメンフィス王国での商売が中心になる」


 商人ギルドでも同様に認識していたため儲けの少ない商売をしていても不信感を持たれるようなことはなかった。

 けど、実際のところは不信感なく多くの場所を訪れるのが目的だった。


「この街でも露店を開いて商売をしていたことがあるセンドルフ。まだ鬼人に変化した人全員に証言を得られた訳じゃないけど、半数以上の人間がセンドルフと接触したことがある」


 商売をしていれば不特定多数の人が接触する。

 その時に鬼人へ変化してしまうようなことをされた。


「他にも色々な人から話を聞いたみたいだけど、以前から親身になって相談にも応じてくれる気さくな人、っていう印象らしい」


 だからこそセンドルフが首謀者だと教えられても信じられなかった。


「相談内容も相談に対するアドバイスもバラバラ。だけど、一つだけ共通していることがある」

「それが、コレ……」


 シルビアが資料に目を落とす。

 資料には、どんな相談をして、どんなアドバイスをもらったかまでしっかりと記されていた。


 ――神は見捨てられました。もしも、今も見守っていられれば状況は違ったかもしれませんね。


 その一言によって救われた人は多いらしい。

 その言葉を聞いた多くの人が女神ティシュアと『巫女』を追い出す結果を生み出した貴族を恨むようになった。

 だが、中には見捨てた神そのものを恨む人がいた。


「それが鬼人に変化した連中」


 たった一言の後押し。

 それだけで救いを求める対象だった存在に対して恨みを抱くようになる。


「とはいえ、鬼人に変化する為には生半可な想いでは不足らしい」


 他者を害してしまうほどの敵意。

 死へ繋がるような恐怖心。

 簒奪を企てるほどの嫉妬心。

 それらの想いがティシュア様へ同時に届けられることによって“穢れ”を呼び込む核とも言える存在が形成される。


「それが鬼人の生まれる原因?」

「今は推論でしかありませんけどね」


 よく分かっていない様子のアイラにメリッサが答える。

 結局のところ明確な原因は分かっていない。


「確実に知っているとしたらセンドルフだろ」


 彼だけは鬼人になっても敵意を残していたローエンとも違って理性を保ったまま鬼人と普通の人間の間を行き来していた。

 今、どうなっているのか知らないがもう一度遭遇する可能性が高い。


「ま、鬼人の原因についてはこのぐらいでいいでしょう」


 それよりも今後の対策が必要になる。


「普通の人間に戻せた人が多くいたおかげで鬼人になっている間の記憶も覚えている人がいたのは助かった」


 鬼人たちは自分の意思はなく、センドルフの指示に従いながら行動していた。

 中には、これから彼が何をしようとしているのか知らされている鬼人もいるのではないかと思っていたが、本当に聞かされていた鬼人がいた。


「信用して話した、というよりも意思のない鬼人だからポロッと口が滑ったという感じ」


 聞いて覚えていたのは、男の子に村を滅ぼされた村長の息子。

 これからの予定を呟いていたのを聞いていた。その時の鬼人は、完全にセンドルフの支配下にあった。聞かれていたとしても情報が漏れる心配はない、と油断していたため対策を取ることもなかった。


「大量に貴族やら神官やらを追い出したメンフィス王国の人々ですけど、それでも最低限の政を行う為にある程度は残されています。それと善良な貴族や神官も残って奮闘しています」


 メリッサが言っているのはメンフィス王国の現状。

 簡単に言えば悪が排除されたことで善だけが残された。ただし、その結果人手不足と国政に深く携わっていなかったせいで重要なノウハウが欠けてしまった不完全な行政機関。

 その状況が地方の困窮を呼び、人々の不満へと繋がっている。

 鬼人を生み易い状況となっている。


「ただし、センドルフさんにとっては、不正貴族たちが排除されて真面目な貴族が残された状況すら許せないみたいですね」


 不正を問い詰める立場にいながら何もしなかった。

 民衆が蜂起した後で残されたのは、貴族として何もしていないと同義。

 まだ完全に浄化された訳ではない。


「奴の目的地は王都だ。地方でコソコソと騒ぎを起こしていたのは王都を攻める戦力を集める為でしかない」


 碌な戦力もいないため活動はし易かったはずだ……俺たちが来るまでだ。


「さて、その場合に問題となるのが……」

「わたしの存在ね」


 地方にある街の領主でさえノエルの顔を知っていた。

 中央である王都へ行けば大多数の人がノエルの顔をしっているはずだ。

 そんな場所へ本来ならノエルを連れて行くべきではない。


「……お前は自分でどうにかしたいんだろ」

「うん、できればわたしが助けに行きたい」


 それがノエルの意思なら尊重するしかない。


「王都で行動を起こした時点でバレるのは確実です。ですので素性を隠すようなことは考えなくていいです。実は生きていたけれども、故郷の危機を知って駆け付けたことにしてノエルさんが生きていたことは有耶無耶にしましょう」


 それが現状できる最善だろう。

 敵が何をするつもりなのか具体的なことは分かっていない。細かいところまで今決めてしまうと動けなくなることがある。

 臨機応変に対応することになる。


「ええと……ごめん。わたしの我儘でこんなことに付き合わせて」

「気にするな。全く利益がなかった訳じゃないんだから」


 道具箱(アイテムボックス)には“穢れ”が大量に詰まった箱がたくさんある。

 民衆は派手に動いている俺たちにばかり気を取られていてゴブリンやスライムなんていう雑魚魔物には目も暮れていなかった。迷宮から喚び出した彼らに容器を持たせておけば回収は難しくなかった。

 斬り落とした腕や足なんかも保管してある。

 今すぐに【魔力変換】してしまってもいいのだが、今は騒動の最中。


「使い道が気になると困るから【魔力変換】は帰ってからだな」

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