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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第34章 鬼人慟哭
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第23話 『巫女』の奏でる音色

 一人が鬼人へ変化したのを契機に増えた鬼人。


「まっ……」


 距離が離れている。

 アイラの手が届かない場所にいた二人の鬼人が近くにいた人々を次々に手を叩きつけて潰していく。一人だけはイリスが間に合ったおかげで凍らせて動きを封じることに成功した。


「に、逃げろぉ!」

「ここも危険だ!」


 思い思いの言葉を叫びながら門から離れる男たち。

 門から離れるということは嘆き悲しんでいるだけだった人たちを押し退けるようにして離れて行く、ということ。


 そこには蹲ったままの人たちがいる。

 子供たちや女性、といった力のない人たちが吹き飛ばされて血を流す。

 その状況がいけない。鬼人となった男の子に村を滅ぼされ、自らも致命傷を負った人たちと同様に死へ繋がるような傷を負ったことで現状に対する不満が一気に爆発してしまった。


「ぎゃあ!」

「助けてくれ!」


 今度は逆に押し退けられたことで鬼人となった人たちが次々に自分たちを傷付けた人たちへと襲い掛かる。

 騒ぎが大きくなればなるほど鬼人は数を多くする。


「そういうことか」


 センドルフは「既に種は蒔き終えた」と言っていた。

 もう、彼が何かをするまでもなくちょっとした騒動さえあれば人は簡単に『鬼』へと変じてしまう。


「クソッ、お前ら分かっているな」

「もちろんです」


 パウロが槍を抜く。

 それに合わせて近くにいた若い冒険者たちも自分の武器を手にする。


「戦うのか?」

「ここは俺たちの街だ。襲われている人たちを見捨てる訳にはいかない」


 パウロの言葉に頷いて若い冒険者たちが鬼人へ向かって行く。

 鬼人の強さは分かっている。それでも見過ごす訳にはいかなかった。


「偉いんだな」

「そんなものじゃない。こんな街だけど、俺たちの生まれた街だ。だから、見捨てられないだけだ」


 そう言ってパウロも鬼人へ向かって行く。

 だが、元に戻す手段を持たない上、パウロ以外は実力が不足しているので足止めもどこまでできるか分からない。

 頼りになるとしたら二人で奮闘しているアイラとイリスだけだろう。


「ノエル」


 現状を解決するにはノエルの力が必要になる。


回復薬(ポーション)ちょうだい」


 先ほどの舞で疲れ切っているノエル。休んだおかげで俺についてくるぐらいはできていたが、さすがに再び舞を披露させるのは忍びない。

 しかし、パウロたちと同様に襲われている人たちを見捨てられないのはノエルも同じだ。


 回復薬を渡すのは仕方ない。

 ただ、その前に解決しなければならないことがある。


「この状況でどうやって舞を見せるつもりだ」

「それは……」


 鬼人に襲われて逃げる人々で溢れている。

 そして、襲われた人の中には鬼人へ転じる人の姿がある。

 さすがに全員へ見せるには無理がある。それに、全員へ見せることができたとしても次から次へと転じてしまう。


「やるなら、『鬼人全員』じゃない。『ここにいる全員』だ」


 それが、どれだけ難しいことなのかノエルが最も理解していた。

 これが全員から注目される舞台の上なら問題なかったのだろうが、全員へ魅せるとなると難易度が跳ね上がる。


「でも、そんな方法……」

「別に舞に拘る必要はないんだろ」

「まあ……」

「なら、それを使え」

「あ……!」


 ようやくノエルも気付いた。

 広範囲へ魅せるなら、もっと効率のいい方法がある。


「けど、その前にやらないといけないことがあるな」


 次から次へと増える鬼人。既に50人は超えている。


「まずは、襲われる人を減らす必要があるな」


 人手が必要だ。

 ただ、その為に魔物に襲われている状況で迷宮の魔物を喚んで手伝わせるような真似をすれば混乱が広がることになる。

 今の状況では純粋に人の手が必要だ。

 そう、兵士たちが必要だ。


「こ、これは一体……」


 ようやく南門が見える場所へ赴いた兵士の集団。

 その集団の中で先頭におり、他の者よりも装飾の多い装備をした兵士が呟いた。


「おい、今まで何をしていた?」

「貴様、その態度はどういうつもりだ!?


 男性兵士は俺の言動が気に入らなかったみたいだ。

 対等に話し、敬語を使わなかっただけなんだが……


「止せ、カルマン」

「ですが……」

「止せと言っている」


 カルマンと呼ばれた兵士が引き下がる。


「本当に今まで何をしていたんだ?」


 100人以上の兵士。

 彼らが最初から職務に忠実で、避難誘導を行っていれば騒動は起こらなかった。


「兵士長のケイロンだ。まずは、この状況をどうにかする」


 カルマンとは違って俺の言動に気を悪くすることもなく兵士たちに指示を出していく。

 指示を受ける彼らもケイロンを信頼しているのか鬼人へ臆することなく向かう。

 ケイロンの作戦は単純なもの。鬼人の近くで兵士たちが気を惹き、襲われている兵士たちは回避に徹する。鬼人の力は強く、防御や迎撃は意味を成さない。なら、回避に徹した方がいい。もっとも、それは事態を解決する手段がある時に取れる手段だ。


「誰か知らないが、事態を解決する手段を持っている者がいるのだろう」

「その根拠は?」

「外の騒動が収束したことは聞いた。そして、その方法についても聞いている。私にその話をしてくれた人物によれば、彼らは南門へと向かったらしい」


 南門へ向かった俺たちとは違って兵士たちへ報告に行った者がいた。

 口止めしていた訳ではないので話が広がってしまうのは仕方ない。


「そして、それは君たちだね」

「……どうして、そう思うんですか?」

「これだけ混乱している状況にあって君たちは落ち着いている」


 たしかに切り札を持っているとしか思えない落ち着き具合だ。


「この状況をどうにかする手段があります。少し時間を稼いでおいてください」

「承知した」


 隣にいるノエルを抱えて跳び上がる。

 そのまま近くにあった建物の屋根の上に着地すると屋根伝いに南門の上へと移動する。

 この場所が南門の近くでは最も目立っている。


「お前の力が必要だ。彼らを落ち着かせてくれるか?」

「これは、わたしがやりたいことなの。だから、気にしないで」


 錫杖を天高く掲げるノエル。

 同時に「シャ―――ン!」という甲高い音が鳴り響く。錫杖の先端に取り付けられた小環から奏でられる音だ。


 意図的に鳴らされた音は、大きな音を拡散させる。

 大きな音を出せるのには理由がある。以前は6個しかなかった小環だったが、強化されたノエルの錫杖には10個の小環がある。

 単純に数が増えただけではない。新しくなった小環は、王竜の素材を用いて造られている。その小環が奏でる音には不思議な力が宿っている。


 シャ―――ン! シャ―――ン! シャ―――ン!


 何度も何度も鳴らす。

 たった一度では音に耳を傾けることもなかった人々にも何度か鳴らせば音が届くようになる。

 人も『鬼』も関係なく音が届いた。


 こうして音を届けるまでの時間と、その間に命を落としてしまう人が出てしまわないようにする必要があった。


「幻視――神舞」


 力の強い『巫女』が神の姿を視る時に行われる幻視。

 それと似たようなことを小環の音色を聞かせることによって、聞いた相手へ見せることができる。


 ノエルが視せているのは、自らの舞う姿。

 そして、女神ティシュアの姿。

 音色を聞いた誰の目にも魂にも彼女たちの姿が反映される。

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