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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第34章 鬼人慟哭
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第22話 芽吹く『鬼』の種

「終わった、のか……?」


 冒険者の誰かが呟いた。

 騒動を見ていた人たちにしてみれば、暴れていた人たちが気付けば体の一部だけを残して元に戻り、ノエルがいくつか言葉を投げかけるだけで完全に元の姿へ戻ることができた。


 最後まで抵抗していた鬼人は自滅した。

 何が起こったのか詳細は分からなかった。

 だが、こっちにとっては都合がいい。今のうちにやるべきことを済ませる。


「……なあ、これだけの騒ぎがあったのに兵士が出てこないんだが」


 騒動に対処していたのは冒険者たちだけ。

 本来なら街を守らなければならない兵士たちの姿が全く見当たらなかった。


「ああ、あいつらなら街に引き籠もっているさ」

「おいおい……いくら、襲撃を受けてパニックになっている住民の避難誘導があるとはいえ、数人はここから見える場所にいるべきだろ」

「……そんな殊勝なことをしてくれていればよかったんだけどな」


 色々と教えてくれたのは緑色の髪をした若い男。

 槍を手にしたBランク冒険者で、経験でベテランたちには敵わないものの実力面から若い冒険者たちをまとめる立場にある男。


「パウロだ。お前たちには本当に感謝している」

「こっちも巻き込まれた立場だ。それに仲間の一人が見過ごせる心境になかった」

「やっぱり、彼女は--」

「それ以上先は言わないでほしい。あの子は、見過ごせる心境になかっただけで、見過ごせない立場じゃない」

「分かった。冒険者なら過去を詮索するべきじゃない」


 話の通じる相手だったようで『巫女』だったノエルの素性を詮索されるようなことはなくなった。


 面倒なことになるのは間違いない。

 だが、アレだけ派手に『巫女』だったことを隠さなかった以上は、少なくとも死んだはずの『巫女』が生きている事実ぐらいは広がる覚悟をしなければならない。


「後悔はしていない」

「……たぶん、見過ごした方が後悔していたと思う」

「そうか」


 ノエルが決めたことなら俺たちは尊重する。


「まずは戻った彼らを保護してもらおう」


 鬼人になっていたことで衰弱している人たち。

 どこかで休ませる必要があるので街まで連れて行く必要がある。それに彼らの中には帰る家を失った者もいる。これからどうなるのか分からないが、冬の厳しい時期に放り出されれば待っているのは死だけだ。

 ある程度、生活に目処が立つまでは保護してもらう必要がある。


「……随分と静かで、騒がしいな」


 北側の外壁に空いた場所から戻った。

 周囲は誰もいないのか静まり返っており、南側の方は反対に騒がしい。


「襲撃は北からあったから、南へ逃がしているのか」


 責任者へ話をする為にパウロと共に騒ぎのある南側へと移動する。


「おいおい……」

「酷いな、こりゃ」


 そこで繰り広げられていた光景にパウロと共に言葉を失う。


「おい、押すな!」

「ああ!! お前が押してきたんだろうが!」


 南側にある門へ押し寄せた男たち。

 屈強な男たちが少しでも早く『鬼』から逃れる為に殴り合いをしていた。

 力のない女性や子供たちは、そんな様子を遠目で眺めている。中には赤ん坊を抱いて北側を見ながら涙を流している者までいる。

 まさに街の終わりといった様子だ。


「おい、何があった?」


 近くにいた男性を捕まえてパウロが事情を聞く。


「パウロさん」


 捕まえた男は、アヴェスタを拠点に活動している駆け出しの冒険者でパウロに憧れている少年だった。


「お前には、避難誘導を手伝うように言っておいたはずだ」

「それが……避難誘導が行われないので困っていたんです」

「なんだって!?」


 手伝うべきことが全く行われず困っていた。


「北で騒動があったから逃がすなら南だろうと思ってここへ来てみたんですけど、押し掛けた連中のせいでパニック状態なんですよ」

「どうして、門が開いていない?」


 開いていることは開いている。

 しかし、普段なら何人もの人間が通れるほどに大きく開いた門がギリギリ一人の人間が通れるぐらいの幅しか開いていない。


「それが、兵士連中がいないので開けられず困っていたところ、パニックになった連中が門へ押し寄せて無理矢理開けようとし始めたんですよ」


 無理矢理開けようとしたのが良くなかったのか途中で壊れて止まってしまった。

 その結果、一度にギリギリ一人の人間が通れるかどうかという状況を招き、順番を巡って争う状況に発展していた。


「他の門へは?」


 街には東と西にも門がある。


「ダメですね。いつの間にか、北だけじゃなくて東と西からも迫っているなんていう……いいえ、南以外の門は使えない、なんていう噂が出回っていました」


 それもセンドルフの仕業な可能性が高い。

 逃げる場所を一箇所へ限定させることで騒動に発展しやすくさせていた。門にまで小細工をしたのかは分からないが、彼の思惑が騒動を引き起こすことにあるのは間違いないだろう。


「俺としては、騒動の中心にベテラン連中の姿があることが気に入らないな」


 順番を巡って喧嘩をしている者の中にはベテランであることを理由にパウロら若者に対して大きな顔をしていた壮年の冒険者の姿がある。

 背中や腰に剣や斧といった武器がある。

 今のところ武器を手にするほど冷静さが失われていないようだが、門へ押し寄せた人たちを押し退けるように前へ進もうとしている。


「……俺たちがやるしかないか」


 パウロは、ベテランたちのそんな姿に呆れてしまった。


「おい、聞けぇ!!」


 人々へ向けて声を張り上げるパウロ。

 だが、喧嘩をしていた者は殴り合いを続け、現状を嘆き悲しんで人は俯いたままで、人々に聞くような様子はない。


 それでもパウロは騒動を収めようとさらに声を張り上げる。

 俺もちょっとぐらいは協力させてもらうことにしよう。


「アヴェスタへ迫っていた魔物はいなくなった!」


 魔法でパウロの声を大きくする。これで、門の向こうにまで彼の声が届くようになる。騒ぎのせいで聞こえなかった、なんていう言い訳は通用しない。


「もう、外へ逃げる必要はない! 逃げた奴もいるだろうが、夜に外へ出ることを考えれば街の中にいた方が安全だ」


 本来なら外壁に守られている町の内側の方が安全。外へ出れば、鬼人以外の魔物に襲われる危険性がある。

 間違いなく内側にいた方が安全。

 しかし、外壁の一部が壊されてしまっていることは街にいる人の多くが知ることであるため恐怖から逃げ出そうとしていた。


 安全が確保されたなら外へ出て行こうとする思いも留まる。

 ……そんな風に考えていた。


「おらぁ!」

「どけぇ!」


 叫ぶ男たち。

 嘆く女子供。

 状況は好転しなかった。


「どうして……」

「それが、どういう訳なのか落ち着いてくれないんですよ」


 若い冒険者が言う。

 理性の残っている者たちが落ち着くように言っても大半の理性を失った者たちが言うことを一切聞かない。

 これまでに色々と試したらしいが上手くいかなかった。


「あの人たちに落ち着いてもらうなら、それこそ騒動が落ち着いた証拠でも見せる必要があるんでしょうけど……」

「そんな物はない」


 証拠になるとしたら街の外を見せるぐらいだ。

 ただし、その為には落ち着いてもらう必要がある、という矛盾を孕んでいる。

 八方塞がりと言える状況だった。


「最初に統率してくれる人がいなかったのはツライですね」

「兵士たちはどこにいるんだよ」

「……」


 俺の問いに対してパウロが街の中心へ顔を向ける。


「どこかにいるのか?」

「領主の館がある場所だ」

「はあ?」


 そんな所で一体何をしているのか?


「行けば分かることだ。こんな状況なんだから無理矢理にでも引っ張ってくることにする」


 南門が見える場所から中心部へと移動を始めるパウロ。


「ここは、いいのか?」

「兵士たちの協力が必要だ。冒険者を掻き集めることができたとしても人手が圧倒的に足りない」


 街にいた数百人が暴徒のように押し掛けている。

 冒険者を掻き集めることができたとしても数十人では圧倒的に足りない。


「行く、ぞ--」


 ドン!

 魔力が膨れ上がるような感覚を門のある方から感じる。

 パウロもやはり優秀だったらしく、完全に背を向けていたのに気付いた。


「これ、は……」


 鬼人との戦闘を直接見ている。

 おかげで鬼人がどのような力を持っている知ることができた。


 ――ガアアァァァァァ!


「きゃああぁぁぁ!」


 鬼人の咆哮。

 さらに傍にいた女性の悲鳴が響き渡る。


 門へ押し寄せていた群衆の一人が鬼人になってしまった。

 この状況は非常にマズい。大勢の人が密集している状況では、大きな力を使っての鬼人への対処が難しい。


 対処方法を考えているとアイラが駆け、頑丈な剣で鬼人を地面へ串刺しにする。

 どうにか動きを封じることに成功した。


「ふぅ……げっ!」


 溜息を吐いたアイラが女性らしからぬ声を上げる。

 周囲を見渡せば鬼人の姿が3人あった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 負の感情が一定量を超えたら…でもそれだけだと村中鬼だらけになるし…。 なっちゃいましたかw 負の感情の集積だけだと、この世界鬼だらけになっちゃいそうなので、 神気(種?)とどう関わるのかが…
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