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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第6章 没落貴族
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第12話 裏切りの希望

「ど、どういうことだ?」

『誰も迷宮から脱出する方法を教えたつもりはない。俺は地下59階からの脱出方法を教えただけだ。そのおかげもあってお前たちは地下58階まで戻ることができただろ』


 最初から彼らに少しばかりの希望を持たせたうえで絶望させるのが目的だった。


 殺された人がアンデッドになるという絶望と大量の魔物に襲われるという恐怖。


 俺が彼らの移動先に地下59階にある墓地フィールドを選んだのは、その条件を満たす為に最も都合がよかったからだ。

 ゾンビやグールのようなアンデッドは、人の死体が何らかの理由によって体内に魔石を持つことで誕生する。そして、ここは多くの冒険者が挑み、死んでいった迷宮だ。鍛えられた強い死体には困らない。その特性上、アンデッドは大量に用意しやすかった。


「俺たちを騙していたのか?」


 ゴールだと教えられた場所はゴールではなかった。


『騙した? とんでもない。ほら、次のゴールを教えてやるよ』


 大量にいる魔物の遥か向こう側に僅かだが光っているのが見えた。

 地下59階のときよりも遠い新たに示されたゴールまで何キロあるのか考える気にもなれなかった。

 地下59階では57人もいたにもかかわらず、たった1キロの距離を移動する間に47人もの仲間が犠牲になった。たった10人で魔物の群れを駆け抜けて辿り着けるはずがなかった。


『それにしても最後の「よし、これで脱出できるぞ」には笑わされたよ』

『すごいドヤ顔だったものね』

『2人とも笑っては失礼ですよ』

『そう言っている割にシルビアさんも口元が笑っていますよ』


 男の声だけでなく、女性の声も響き渡っていた。

 迷宮へ連れて来られる前の状況を思えば焚火の前にいた女性たちであろうことは簡単に予想できるだろう。


 地下59階で目を覚ましてからの行動はずっと監視をしていた迷宮核との迷宮同調によって俺たちにも伝えられていた。


『ん? 俺以外の声も聞こえているのか? あいつ、また余計なことをしやがって……』


 シルビアたちの声が聞こえるようにしたのは迷宮核の仕業だ。

 女性たちにも見られていた、というのは彼らのプライドを酷く傷つけていた。


「俺たちは……ここで死ぬしかないのか?」

『いいや、そんなことはないぞ』

「え……?」


 予想外な俺の言葉にリーダーは言葉を失くしていた。

 最初から俺は方法を提示していたっていうのに。


『お前たちがきちんと俺の知りたいことに答えてくれれば迷宮から解放してやる。もちろん俺たちについてや迷宮に関することは他言無用を約束してもらうことになるけど、アンデッドになることなくそこから出ることができるぞ』


 それは、仲間を裏切ったことによって縋ることのできる希望。

 普通の状態ならそんな選択が許されるはずがなかった。


 だが、彼らの精神状態は既に限界を迎えていた。

 仲間を歩く屍に変えて得られた生への後悔。目の前にある圧倒的な絶望。


 それらがせめぎ合った結果、彼らは楽な方へと流されてしまった。


「分かった。どんなことでも言うから、ここから出してくれ!」

「きさま――」


 盗賊の1人が悲痛な声を上げるもののリーダーの拳によって頬を殴られ、止められてしまった。


「だったらあんたがどうにかしてくれるのかよ! 俺は少なくともこんな場所で、こんな死に方をするために兵士になったわけじゃない!」


 殴られた盗賊が殴り返すとリーダーは尻餅をついて倒れてしまう。殴られたことよりも自分の無力感が悔しくなってリーダーは立ち上がることもなく仲間の姿を見ていた。


『ということで、俺の知りたいことに答えてくれる、ということでいいんだな?』

「ああ、教えてやる。俺たちはメティス王国所属の兵士だ」


 盗賊たちの『本来の職業』を聞き出すことに成功した。

 そっと隣に座るシルビアを見る。それだけでシルビアは俺が何を望んでいるのか分かったのか頷くと立ち上がって地下58階――盗賊たちの背後へと転移する。


「お迎えに上がりました」


 背後から聞こえた声に盗賊たちが驚いて振り返る。


「主の質問に答えてくれた方はわたしが転移で外へ運びますので近くへ寄っていただけますか?」

「あ、ああ……」


 シルビアが質問に答えてくれた盗賊……ではなく兵士を安心させるように笑みを浮かべながら言うが、突然現れたシルビアのことを警戒している。

 だが、シルビアの笑みを安心してきたのか一歩を踏み出す。


「あら?」


 兵士が踏み出すよりも早く動いた人物がいた。

 シルビアの笑みを見て「こいつならどうにかできるんじゃないか?」と思った兵士の1人がシルビアの後ろに回り込み、予備のナイフを首元に突き付けていた。さらにその光景を見ていた3人が少し離れた位置で万が一にも逃げられてしまった場合に備えて剣を構えている。


「どういうつもりですか?」

「へへっ、悪く思うなよ。アンタを人質に取った方が確実に出られる」

「今なら許してあげます。ですが、これ以上続ける場合は回答権を失ったものと見做します。それは、そこにいる3人も同じですよ」


 シルビアは人質に取られていても冷静だった。

 そもそも兵士が後ろに回り込む姿をはっきりと捉えることができていたし、兵士たちとシルビアのステータスを比べた場合、瞬殺できるだけの差がある。


 兵士たちは迷っていたようだが、お互いの視線を交わらせると頷いてから剣を構え直す。


「あなたたちの気持ちは理解しました」


 シルビアの首元に突き付けられていたナイフが兵士の腕ごと落ちる。

 兵士の腕はシルビアの短剣によって手首から斬り落とされており、大量の血が流れ続けていた。


「お、俺の腕が――」


 兵士が自分の手がなくなったことに狼狽えている間にシルビアが首を斬り飛ばしていた。

 人質を取って優位に立っていたはずなのに仲間が一瞬で殺されたことに驚いている間に剣を構えていた3人の首も斬り飛ばす。


「わたしに触れていいのはご主人様だけです」


 返り血を浴びることもなく4人を斬り殺したシルビアは俺の質問に答えてくれた兵士の傍へと歩み寄る。


「これ以上、無駄なことはしたくないのであなたをさっさと連れて帰ることにします」


 そうだな。

 シルビアが兵士に触れたことを確認すると『迷宮操作:召喚(サモン)』をする。


 召喚は、迷宮内にいる魔物を自由に転移させる能力だ。迷宮外では、迷宮内にいる魔物を自分の傍に呼び出すことができ、眷属を手に入れたことによって呼び出せる対象を眷属にも適用できるようになった。


 転移と召喚の使用によって離れた場所からでも迷宮との間を行き来することができるようになった。

 ただ、この移動方法の問題点は転移するのは俺以外の眷属でなければならず、俺自身の行き来はできないことにある。


「ただいま、戻りました」


 そのため情報を色々と喋ってくれた彼らを連れ帰って来るのは眷属の誰かに任せることになる。そういう意味で一番信頼しているのはシルビアだった。


「ここは……」


 兵士は自分の目の前に広がる光景が迷宮の中でないことを確認すると安心から意識を手放してしまった。シルビアがゆっくりと兵士の体を地面に寝かせる。


 シルビアも焚火の前に戻ってきたことを確認すると未だ迷宮の中にいる兵士たちに向かって告げる。


『俺に情報を渡してくれた彼はこちらで丁重に保護させてもらった。さて、俺が知りたいことは残り4つ。対してそちらは6人だ』


 俺の言いたい意味が分かったのか兵士たちがお互いのことを見合っていた。


「お、おい……お前たち」


 リーダーが最も野蛮な手段を兵士たちが取ってしまう前に止めようとするが、既に1人が動いた後だった。

 兵士の中でもベテランで実力のある人物が近くにいた若い兵士の体を袈裟斬りにし、そのままもう1人の心臓を剣で貫いた。


「隊長、これで誰が質問に答えるのか揉めることはなくなりました」


 俺の告げた言葉の意味は迷宮から脱出することができるのは先着4名までという内容だった。

 それに対して残っている人数は6人。

 2人は置き去りにしなければならなかった。


 副官を務めていた彼は隊長の苦悩が分かっていただけに『自分が残る』選択をするだろうと考えていた。


「あなたには私たちをこんな目に遭わせている人物について報告する義務があります。それは、あなたでなければならない」

「ああ、そうだな……」


 こんな異常事態、正直に話したところで信じてもらえるはずがない。

 最低限信じてもらえるかもしれない、というところまで話を持って行くためにも隊長である彼が話をしなければならない。


『さて、君たちの答えを聞かせてもらおうか』


 少々非人道的で気の進まない聞き出し方だったが、彼らは正直に俺たちが知りたい情報を教えてくれた。


 もちろん情報を教えてくれた後は、最初の兵士と同じように元の場所に戻して解放してあげた。解放されると彼らは一目散にどこかへ走り去っていった。おそらく上司の下へと向かっているのだろう。


「よろしかったのですか?」


 一部始終を迷宮同調によって見ていたメリッサが尋ねてくる。

 彼女の方こそ怒りから今にも彼らを殺したいはずなのに俺が彼らと一方的に交わした『情報を渡したら解放する』という約束を優先してくれた。


 なので彼女を安心させる為にも俺が何をしたのか教える。


「彼らには最後に呪いを掛けさせてもらった。だから、彼らは上司の所に辿り着こうとも俺たちのことを教えることはできない」


 俺が迷宮にとってどういう存在なのか具体的なことは教えていないが、少なくともアリスターの迷宮と関わりがあることは知られてしまっている。


 俺の正体については、秘匿しなければならない。


「呪い、ですか?」

「そ、一応闇属性魔法に分類されるような魔法かな」


 魔法について詳しいメリッサでも知らないようだ。

 闇属性魔法には対象のステータスや状態に異常を与える魔法が多い。呪い、などと言っているが、実際のところはある条件下でのみ発動する闇属性魔法を仕込ませてもらったに過ぎない。


「俺は彼らとの約束を守って『迷宮から解放』してあげた。だから、彼らにも『情報を喋る』以外の『俺について喋らない』の方も守るのが契約だと思わないか?」


 おれはきちんと他言無用してもらうことも言ってある。

 そのことを忘れて喋ってしまったばかりに酷い目にあっても彼らが悪い。


 それよりも得た情報が正しければ面倒なことになった。単純な盗賊退治では済まされない。


迷宮尋問のリザルト

・本来の職業

・トップに立つ人間の名前

・トップに立つ人間の本来の職業

・盗賊をしている理由

・アジトの場所

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