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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第34章 鬼人慟哭
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第18話 神に届ける舞

ノエル視点です。

 わたしが持つスキル【舞踊】。

 踊りが少しばかり上手になる。どれだけ上手になるかは、スキルの熟練度によって変わり、このスキルを極めた者は自らの踊りを見せた者全てを感動させることができると言われている。

 一説には、過去にいた伝説の踊り子が所持していたと言われているけど、詳細は判明していない。だけど、彼女の踊りを見た人は誰であっても彼女の踊りを止めることができなかったと言われている。


 踊りを止めることができない。

 たとえ、止めようと手を伸ばした人がいたとしても自分から踊り手以外の場所へ移動してしまうような動きをしてしまう。


 絶対的な回避能力を手にすることができる。

 戦闘においてこれほど強力なスキルはない。


 けど、わたしは【舞踊】をそのまま極めるつもりはない。わたしには見ている人を楽しませる踊りなんてできないし、家族の前でなら大丈夫かもしれないけど、家族以外の人に見せるなんて恥ずかしくてできない。

 どうしても必要な時以外は使うつもりもない。

 それに、元々の性格なのか回避に徹し続けるよりも回避したら攻撃することを好んでいた。


 だから、スキルの熟練度は低いまま。

 わたしの踊りを見た人を楽しい気分にさせるぐらいの効果しかない。


 ……そのはずなんだけど、わたしの【舞踊】は特別――というよりも、わたしと【舞踊】を組み合わせることで特別になる。


 『巫女』だったわたしの踊りは、人を楽しませる踊りという意味よりも、神に捧げる踊りという意味が強い。

 神に躍り――舞を奉納している間は【舞踊】のスキルを極めた状態と同じくらい強力になる。

 誰も神に捧げる舞を止めることはできない。

 見ている人の誰もが見惚れてしまう。


「すげぇ……」


 わたしの舞を目にした冒険者の一人が言葉を失っていた。

 同時に体を動かすことも忘れている。

 ちょっと視線をずらせばイリスも呆然としている姿が見える。いつも冷静な彼女がそんな風に呆然とするなんて珍しい。


 うん、舞の効果はたしかにある。

 それは、人間だけじゃなくて鬼人にも及んでいる。

 最初は襲い掛かってきた鬼人たちも動きをピタッと止めて、わたしを取り囲んだまま動こうとしない。


「それで、いいの」


 鬼人の体を構成しているのはティシュア様への不満といった恨み。

 それが自業自得な恨みなのはわたしにも分かっている。そんな不満は誰もが抱くものだし、そんな不満まで神様へ押し付けるのは間違っている。


 けど、この国の人たちは昔からティシュア様に頼っていた。

 それが、いきなりいなくなったことで不満の解消方法が分からない。

 もし、今の状況で『巫女』が残っていたのなら彼らの不満を聞いて抑える為の手伝いをするのが『巫女』の役割になっていたはず。


 ううん、今も教会は残っているんだから彼らが負わないといけない役割。

 それなのに、教会は自分たちのことだけで精一杯で手が回っていない。


 あれから2年が経とうとしているのに、ちっとも前へ進んでいない。

 ――本当に弱い人たち。


 わたしは、外へ出て色々なことを経験した。

 本当に『巫女』をしていた頃には考えられないような冒険だった。

 なによりも、わたしが自分の娘を抱き上げることができるなんて思いもしていなかった。あの頃は、言われるままにティシュア様へ言葉を届けて、ティシュア様の言葉を人々に届ける。それだけで生涯を終えるばかりだと思っていた。


 現に歴代の『巫女』は孤独に生涯を終えている。

 結婚して子供を産むことを禁じられている訳じゃないけど、巫女の持つ権力はメンフィス王国においては絶対。その伴侶ともなれば、『巫女』には及ばなくても誰もが無視できない権力を手にすることになる。

 そんな状況を教会が許可するはずがない。そのせいで相手を見つけることができずに、気付けば生涯を終えていた。


 その事に対して疑問を抱いたこともなかった。

 だから、一人の女の子として生きた2年間は本当に楽しかった。


「今からは、わたしが捨てた責任の為に力を行使する」


 マルスはわたしに責任なんてない、って言っていた。

 わたしも彼らが自分で負うべき責任まで背負うつもりはない。

 これは、わたしなりのケジメ。


 鬼人たちが見ている中、全力で舞う。

 珠のような汗が体から飛び散る。けど、そんなことには構っていられない。彼らの想いを受けて届ける。


『まったく……無茶をしますね』


 ティシュア様の呆れたような声が聞こえる。

 近くにはいない。けど、舞を通して繋がっているわたしには近くで見てもらえているような感じがした。


「たしかに彼らが自分で背負うべき不満かもしれません。けど、人が背負えるものには限界があります。ちょっとぐらいの不満なら神様へぶつけてみてもいいんじゃないですか」

『……仕方ないですね。ですが、勘違いしないように。このままだと彼らの穢れを取り込んだ貴女が苦しむことになります。それだけは絶対に避けなければなりません。もう、貴女には自分の身を犠牲にするような選択は許されません。理由は分かりますね』

「もちろんです」


 屋敷へ帰ればリエルが待っている。

 あの子を残して逝くような真似ができる訳がない。


『では聞き入れましょう』


 準備は整った。

 そして、条件も揃っている。


 わたしの舞を見ている鬼人のティシュア様へ抱いている不満が手に取るように分かる。

 どうして、自分たちを見捨てたのか。

 どうして、助けてくれない。

 今までの想いは何だったのか。


 そんなグルグルと真っ黒に渦巻いている想いが手に取るように分かる。


「わたしにはこれぐらいのことしかできないの」


 鬼人の体から球のような光が溢れる。

 メリッサの作ってくれた治療薬を使った時とは全く違う現象。

 けど、起こる結果は変わらない。光の球には神気を反転させたような力――穢れが込められている。


 神へ奉納する舞――神舞を見た人たちの想いを聞き、神へと届ける。

 やっていることは『巫女』だった頃と変わらない。


「神様へ自分の中で燻ぶっている少しばかりの不満をぶつけるぐらいなら許すことにします」


 鬼人の体が徐々に消え、人間の姿を取り戻していく。

 けど、完全に元の姿へ戻ることはない。神様へ不満を少しぶつけるぐらいなら許容してもらうことができたけど、不満の大半は彼らが自分で背負わないといけないもの。

 不満によって変わった鬼人の体も完全には戻らない。


「あとは自分でどうにかしてね」


 わたしの近くで神舞を見ていた鬼人が『鬼』だった頃の姿を僅かに残した状態で人へ戻る。

 今ので10人以上が戻った。


 けど、まだ残っている。

 あの人たちもどうにかしないといけない。

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