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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第34章 鬼人慟哭
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第17話 ノエルの希望

第三者視点になります。

 マルスがセンドルフと戦い始めた頃。


 アイラとイリスが鬼人の集団へと到達していた。

 鬼人たちの目と意識が二人へと一斉に注がれる。


「また、さっきみたいに凍らせた方がいいんじゃない?」

「どうやら、そう上手くもいかないみたい」


 奥から1体の鬼人が現れる。

 二人を睨み付け、気合と共に咆哮すると全身から炎が噴き出す。


「魔法の炎っていうよりも怒りがそのまま炎になった……そんな感じ?」

「そう考えた方がいいかもいれない」


 試しに氷柱を飛ばしてみる。

 しかし、炎を纏った鬼人の近くまで飛んだところで溶けてしまった。

 おそらく足元を凍らせて身動きを封じるのは不可能だろう。


「私が他の鬼人を可能な限り元に戻す。アイラは、あの鬼人も含めて多くの鬼人が私へ寄って来ないようにして」

「わかった」


 アイラが駆け、炎に触れないよう腕を斬る。

 炎を纏った鬼人が持つ特殊な能力は『炎を出す』ことだけで、出した炎を自在に操るような能力は有していない。注意して接近すれば炎に触れることなく斬ることも難しくない。


 それでも、炎を纏っているのは脅威となる。

 鬼人の周囲は温度が上昇し、地面は熱せられている。

 他の鬼人たちも影響を受ける範囲にいるのだが、強固な肉体による防御が働いているのか怯んだ様子を見せていない。


「ま、救いは特別な鬼人が一人だけなことかな」


 他の鬼人に炎を出すような雰囲気は見られない。

 炎を纏った鬼人だけが特別。だからこそ、隊列の中でも奥の方で他の鬼人に守られていた。

 もっとも、特別と言ってもセンドルフほどの特別性はない。


「掛かっていらっしゃい」


 指を使って挑発する。

 言葉が届いた訳ではないだろうが、自分たちに囲まれた状況で余裕を持っているアイラに対して怒りを抱いた鬼人が一斉に襲い掛かる。

 ほとんど本能に任せた突進。

 回避するのは簡単で鬼人たちの間をするすると通り抜けながら鬼人の足を斬っていく。


 駆け抜けながらだったため切断に至るような傷ではない。

 それでも深く斬られたことで地面へ倒れる。鬼人が持つ再生能力を思えば、力さえ残っていれば致命傷であろうと元に戻すことができる。倒れた鬼人たちも怯えることなく再生されるのを待っていた。


「【凍結(フリーズ)】」


 倒れて手と膝を地面についた鬼人。

 起き上がるよりも早く手と足が凍らされる。

 炎を纏う鬼人の近くにいる凍らされた鬼人たちは氷から解放されるものの、離れた場所にいる鬼人は凍らされたまま。


 凍らされて四つん這いになった鬼人の背に乗ると斬って治療薬を注入する。


 近くにいる鬼人も凍らされている。

 仲間を助けようという意思があるのか炎を纏う鬼人が近付こうとする。


「アンタの相手はあたし」


 炎を纏う鬼人の前に出たアイラが攻撃する。

 鬼人の本能のせいなのか敵意を向けてくる相手を無視することができない。凍らされた鬼人のいる場所から離れていくアイラを追わずにはいられない。


 その間にイリスが鬼人を次々と戻していく。


「はい、この人も連れて行く」

「おう!」


 救援として駆け付けた冒険者へ運ぶように告げる。

 普段は剣を背負っている男が人間に戻った二人を抱えて街へ戻っていく。


「さて、困った……」


 残っていた6本の治療薬を使い果たしてしまった。

 鬼人を元に戻す手段を失ったイリスへ襲い掛かる鬼人たち。今のイリスにはアイラと同様に斬りながら時間を稼ぐぐらいしか手段がない。


「マルスは、穴の下へ落ちたしどうすれば……」


 血を流して倒れた鬼人の上に立ちながら思案する。

 その様子を心配したのは手伝ってくれていた冒険者たちだ。


「おい、俺たちの女神が困っているぞ。今こそ彼女を助ける時だ!」

「ああ、武器を持っている奴らは立ち上がれ!」

『おう!!』


 10人の腕に覚えのある冒険者たちが鬼人へと襲い掛かる。


「待って……!」


 手伝おうとする気持ちは嬉しい。

 けれども、無駄な犠牲を生み出したくなかった。


「へ?」

「俺の剣が!?」

「抜けねぇ……!」


 鬼人を斬ろうと己の武器を叩きつけた冒険者。

 しかし、鬼人の体に触れた瞬間、剣は途中で折られ、切り込むことのできた斧は途中で止まってしまった。


 アイラやイリスが簡単に斬っている。

 その姿を見て自分たちでも可能だと思った。けれども、鬼人を簡単に斬ることができるのは二人のステータスやスキル、強化された武器があるから。

 冒険者たちでは実力が不足していた。


「そもそもランクが低い!」


 鬼人の拳を氷の壁で受け止め、武器を失った冒険者たちを蹴り飛ばして安全な場所まで移動させる。

 アヴェスタにいる冒険者は、最もランクが高い者でもCランク。DランクやEランクが中心で付近に出現する魔物の討伐も人数を集めることで対処しているような状況だった。

 とても鬼人を相手にできる実力がない。


「た、助けてくれぇ!」


 叫ぶアヴェスタの冒険者。

 眼前まで迫った鬼人の腕を前に何もすることができない。


「【氷壁(アイスウォール)】」


 冒険者と鬼人。

 その間に氷の壁が生まれる。

 分厚い氷の壁を前に手を冒険者へと進ませることができない。アヴェスタの冒険者たちにとってはどうにもできない鬼人であったとしてもイリスには簡単に両断することができる鬼人の腕。


 攻撃に欠かせない腕を次々と斬り落としていく。


「あなたたちは下がって!」

「あ、あぁ……すまねぇ! 俺たちだと足手纏いにしかならないみたいだ」


 冒険者たちを後ろへ下がらせる。

 アイラは炎と鬼人と周辺にいる鬼人たちの相手で余力がない。10人以上いる鬼人はイリスがどうにかしないといけない。


「けど、治療薬が尽きたならできることは限られている」


 剣を構えて討伐する決意をする。

 鬼人を討伐する、ということは人を殺すことを意味している。

 けれども、放置できないのも事実。


「ゴメン--」


 せめてもの想いから謝る。


 ――シャーーーン。


「なに?」


 その時、鈴の音のようなものが聞こえてきた。

 何度か耳にしたことがあるから音の正体は振り向かなくても分かる。


「ノエル」


 音が近付いて来る。

 鈴の音の正体はノエルが持っている錫杖につけられた小環。


「このままにしておけない」


 決意に満ちた表情をしているノエル。


「やっぱり力尽きる前に倒す?」


 全ての鬼人を元に戻したい。

 その願いはノエルが抱いていた想い。


 だから、最後に確認したかった。


「今、メリッサが急ピッチで作っている治療薬がある。それでも、全員を元に戻すのは……」

「分かっている」


 イリスを置いて前へと進んで行くノエル。


「コレは、わたしが負うべき責任から逃れたことで生まれた穢れ……」

「ノエル!?」


 鬼人が集まる方へと歩いていくノエル。

 ぶつぶつ呟いており、イリスは名前を呼ぶぐらいで止めることができなかった。


「何をするつもりなの」


 一斉にノエルへ襲い掛かる鬼人。

 4つの拳が同時にノエルのいた場所へと叩き込まれる。しかし、その場にノエルはいない。


 襲い掛かった4人の鬼人が同時に見上げる。

 叩き込まれた拳の腕を伝って跳び上がったノエル。

 別の鬼人が捕らえようと手を伸ばす。だが、思うように身動きができないはずの空中で鬼人の手を掻い潜ると襲い掛かってきた鬼人の頭を足場にして跳び上がる。着地したところを狙って鬼人が再度襲い掛かるが、巧みに回避したノエルを捕らえることができない。


「踊っている……?」


 鬼人の攻撃を回避するノエルの姿は躍っているように見えた。


「ううん、違う」


 踊っているのではない。

 鬼人の間で舞っている。

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