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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第34章 鬼人慟哭
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第15話 鬼を人へ戻す

 ――ドシン、ドシン……!


 遠くから地響きが聞こえてくる。


 街の外から見えるのは、50人の鬼人が10人ずつ5列に並んで規則正しく歩んでいる光景。

 間違いなく誰かに統率されている。


「統率している奴を倒したら止まると思うか?」

「なんとも言えないわね」

「なによりも今のところ見えない」


 現状で指揮官として考えられているのはセンドルフ。

 ところが、センドルフの姿は見える範囲にない。遠距離から今の状況を見ているのか、それとも近くで隠れているのかは分からない。


「じゃあ、あたしたちは行くわね」

「難問は任せた」


 アイラとイリスが鬼人へ向かって駆ける。

 鬼人も向かって来る存在に気付いたらしく、最前列にいた10人が駆ける。


「まずは数を減らそうか」


 アイラが剣を振るうと鬼人の四肢が斬り落とされる。

 すぐさま再生が始められる。しかし、再生が完了し腕を振り回せるようになるまでには時間が掛かる。


「はい、口を開けて」


 力任せに口を開けるとメリッサの作った鬼人の治療薬を投げ込む。

 巨大化しているせいで全力で開けさせればアイラの体がすっぽりと入りそうな大きさのある口には簡単に入る。


 鬼人が瓶ごと薬を飲み込む。


「うわ……!」


 その光景を見て思わずアイラが呻いた。

 どういう性質を持っているのか知らないが、噛み砕かれた瓶が唾液によってドロドロに融かされている。


「あれは浴びないようにしよう」


 唾液の危険性を認識する。


「おっと」


 薬を飲み込ませた鬼人がどうなるのか確認を終える前に別の鬼人がアイラへ向かって腕を振るう。

 鬼人の体をヒョイと上へ跳んで回避するアイラ。


「げっ!」


 アイラに向かって吼える鬼人は唾を撒き散らしていた。

 微量な上、地面が融けるようなことはないため一定以上の量がなければ危険はないようだが、そもそもが唾液。自分から浴びたいとは思わない。

 回避しながら体を回転させて蹴り上げると攻撃してきた鬼人を蹴り飛ばす。


「やった、上手くいった」


 地面へと下りながら壮年の男性が倒れているのを確認する。


「馬鹿……!」


 それは、あまりに軽率な行動。

 アイラを敵と見做した鬼人が一斉に押し寄せる。


「やば……」


 アイラもようやく気付いた。

 走る鬼人の前には倒れた男性がいる。このままだと鬼人に踏み潰されることになる。


「――凍て付け」


 イリスの魔法によって生み出された冷気が周囲を包み込む。

 あっという間に地面が凍り付き、鬼人の体を止めてしまう。


「量が足りていないんだから、もっと慎重に動く。後、元に戻した人はサッサと回収して」

「ごめん」


 一喝するイリスへアイラが謝る。

 せっかく元に戻したというのに鬼人に踏み潰されたことで死んでしまっては目も当てられない。


 元に戻した男を担いで街の方へと戻る。


「もっと節約して使わないと困るのに……」


 足だけを凍らされて身動きのできなくなった鬼人を前にイリスが剣を振るう。

 イリスの振るった剣は、鬼人の左胸を鋭く抉るように斬り裂き、大量の血を流させる。


「やっぱり肉体の構造は人間と大差ない」


 冷静に鬼人の体を分析しながら治療薬の一部を凍らせた状態で斬り裂いた左胸へと入れていく。


 左胸――心臓のある場所へと入れられた薬。

 鬼人の体は熱を持っているのか人間よりも熱い。そんな体の中へ凍らされた状態であっても入れられれば氷が融け、閉じ込められていた薬が解放される。

 凍らせていたのは薬を全て心臓へと届けるため。


「ガッ……!」


 薬が浸透した血液が全身へと巡り、鬼人の体が溶け始める。


「けど、遅い……!」


 体から滴り落ちる鬼人の体はポタポタといった少量。

 これでは、全ての体が溶けるのがいつになるのか分からない。


「だったら量を増やすしかない」


 体が溶けて蹲っていた鬼人の体を前へ完全に倒してしまうと後ろから左胸を斬って治療薬を再び入れる。

 追加が功を奏したのか1分もする頃には完全に鬼人の体が溶けていた。


「必要量は分かった」


 イリスの周囲に8本の鋭い氷柱が生み出される。

 中には鬼人治療薬が封じ込められていた。


「発射」


 鬼人は未だに身動きができない。

 正確に動かない的の心臓へと突き刺さると、氷の中に封じ込めていた治療薬を注入していく。


「よし」


 アイラが元に戻した時よりも時間が掛かっているものの鬼人を元に戻すことに成功した。


氷壁(アイスウォール)


 今、元に戻したのは鬼人の第一陣。

 第二陣の前に氷の壁を構築することで時間を稼いだ。


「今のうちに元に戻した人を回収する」

「りょうかい」


 最初に戻した人を避難させて戻ってきたアイラと協力して元に戻した人々を街の方まで運んでいく。


「この人たちをお願い」

「な、なんだこいつらは!?」


 ちょうど騒ぎを聞きつけた冒険者が町の外へ出てきた。

 詳しい事情を説明していられる余裕はない。今もイリスの造り出した氷の壁を鬼人が殴っている。元に戻した人を全員避難させる頃には破壊されてしまう。


「この人たちは、この近辺で噂になっている『鬼』に変化させられていた人たち。元に戻す方法とか詳しい事情は商人ギルドが知っているから、適当に捕まえて話を聞いて」

「わ、分かった」


 ここは商人ギルドへ丸投げだ。


「向かって来る敵は、私たちがどうにかする。あなたたちは元に戻して避難させた人たちの介抱だけしてくれればいい」

「ああ、素人の俺たちに寝ているこいつらを治療するような真似はできないが、守ることぐらいはできるさ」

「お願い、ね」


 そうして頼んでいる間にもアイラが元に戻って気を失っている人たちを運んでいる。


 残りは二人。アイラ一人でも間に合う。


「節約してもけっこうマズいかも」


 傍へ寄ってきたイリス。

 その手には現状を分かりやすく説明する為に空の瓶が3本あった。


「鬼人を元に戻すなら効果が効きやすいよう心臓へ直接打ち込んだとしても3倍が限界」


 イリスは3本を使って9人を戻した。

 アイラが無策で1本を使用してしまったため残りは6本。


 対して鬼人は40人。


「残りの20人以上はどうする?」

「待って。さらにマズい報せもある」


 俺の質問には答えず元に戻る鬼人を見て気付いたことを伝える。


「鬼人から人への戻り方に差があった。元に戻るまで数十秒で済む人もいれば、1分以上も必要な人もいる」

「……最悪の場合、3倍に薄めると元に戻らない奴がいるのか」


 今のままでは確実に20人以上は救えない。

 相手によっては30人以上も救えない可能性まで出てきた。


「根本的に別の方法を見つけないとマズいかも」

「分かっている……」


 アイラとイリスが元に戻す光景を見て何かヒントを見つけるつもりだった。

 だが、ヒントになるようなものは全く見つからない。


 その時――鬼人の攻撃によって氷の壁が壊された。


「とにかく可能な限り多くの人を救う方針で行こう……最悪の場合は、全員を斬り捨てる」

「いいの? それはノエルが望んでいないけど……」

「そうだとしても現状を放置するよりはいい」


 圧倒的な再生能力を持つ鬼人。

 しかし、その再生能力も無限という訳ではない。


「根拠はある」


 バラバラに切断されて衰弱していたノルデン。

 もったいなかったため全て【魔力変換】したのだが、ザンガが変化した鬼人よりも明らかに少なかった。


 再生された体にも魔力を消費している。

 さらに再生させる為にも魔力を消費してしまっており、物体として残っていないため【魔力変換】で得ることができなかった。

 つまり、何度も再生させれば魔力は尽きる。


「……どうやら、俺が探れるのはここまでみたいだ」


 鬼人たちのいる北とは別の方向へ体を向ける。

 東側を見れば手と足だけが鬼人へ変わったセンドルフが立っていた。


「アレは元に戻さない方がいいな」


 原因が分かった後で対峙して分かった。

 そこいらの鬼人とは比べようがないほどの反転した神気を蓄えている。

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