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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第34章 鬼人慟哭
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第14話 足りない治療薬

 せっかく街の宿に泊まっているのだからと1階にある食堂で夕食を摂る。


「イマイチね」


 一口食べた瞬間にアイラがバッサリと切り捨てた。

 幸いにして近くに宿の関係者は近くにいない。


「まあ、わたしたちが普段食べているものに比べれば調味料が圧倒的に少ないから仕方ないわよ」


 調理を引き受けているシルビアが言う。

 調味料の類は高価になってしまう。生産に適した生産地が限定されており、田舎の方へ行けば運送も容易ではなく、どうしても高値での取引になってしまう。


「このような田舎では、お酒を飲みながら楽しむのが数少ない娯楽なんですよ」


 今も汚れた服を着た5人の男たちが食堂へ入ってきた。


「ちょっと入ってくる前に体を洗ってきてくださいよ」


 汚いままの男たちを店員の女性が叱る。


「俺たちは街の為に働いてきたところなんだぜ」


 男たちの仕事は街の外壁修繕。

 少し前に魔物の襲撃を受けたせいで崩れた場所を修理することだった。その時の襲撃では幸いにして人的被害はなかった。それでも、次に襲撃があった時に備えて早急に修理しておく必要があった。


「そういえば壊れていたな」


 遠目に見ただけだったが、けっこう大きく開いていた。

 穴の大きさからしてオークの突進でも受けたのかもしれない。


「まさか、まだ直していないの!?」

「ケッ、分かってねぇな。一度は壊された壁なんだから、次は頑丈に造り直さないといけないだろ」


 男の言っていることにも一理ある。

 壊された時に周囲も脆くなっている。造り直すならしっかりと行った方がいい。けれども、それは余裕がある時の話だ。


「近くの村じゃあワケ分かんない魔物が出たらしいじゃないか」


 もちろん『鬼』のことだ。

 朝のうちに商人ギルドへ情報を伝えておいたので注意喚起ぐらいはしてくれたのだろう。


「おいおい、ソイツの話なら俺たちも聞いているぜ。けど、今までは小さな村にしか現れていねぇらしいじゃねぇか。きっと小さな村しか襲えない臆病者なんだよ。この町なら大丈夫だぜ」

「けど、ねぇ……」


 反論する女性店員。

 村しか襲わない魔物なので弱い魔物だと判断した。

 人伝にこれまでの被害情報を聞けば、そのように判断してしまうのも無理ないのかもしれない。しかし、実態は小さな貧しい村の方が不満を溜めやすく、『鬼』へ変化してしまうから小さな村にだけ被害が出ている。


「うるせぇ奴らだな」

「酒がマズくなる」


 酔った男たちがカウンターから立ち上がる。

 腰にナイフを差して動き易さを重視した格好をしていることから冒険者のようだ。


「なんだと!?」


 だが、冒険者たちの言葉が男に届いてしまった。

 酒場の入口で立ち塞がって冒険者たちを睨み付ける男。

 冒険者たちも普段が魔物を狩って強気でいるため引けない。


 二人の男が睨み合う食堂。

 しかし、すぐにそんなことをしていられる状況ではなくなる。


「……騒がしいな」


 酒を飲んでいた別の男が外へと意識を向ける。

 宿は街の大通りに面しているのだが、大通りがドタバタと駆け抜ける人の足音で煩くなる。


「何かあったのかね?」


 女性店員も気付いたようで入口の方へ顔を向ける。


「うぉわ!」


 入口を塞いでいた男が後ろから入ってきた新たな男によって吹き飛ばされた。

 新たに入ってきた男は顔面蒼白になりながら宿へ注意を飛ばす。


「あ、あんたら暢気に何をやっているんだよ!」

「見て分からないのか? 食事だよ」

「そんなことをしている場合じゃねぇよ! 襲撃だ!」

「まさか魔物か?」

「オイッ、お前らがさっさと直さないから……」


 外壁を直していなかった男たちを怒る宿泊客たち。


「そ、そんなレベルじゃねぇんだよ!」

「あ? 何を言って……」


 危険を知らせに来た男の様子が気になってサファイアイーグルをすぐに上空へ飛ばす。


「チッ、現状を甘く見ていたのは俺たちも同じだったらしい」


 騒動が起きるとしたら村からだと勝手に決めつけていた。

 そのため、いくつかの村の中心とも言える場所にあるアヴェスタで待機しながらサファイアイーグルを村の上空へと飛ばしておき監視させていた。

 肝心のアヴェスタについては上空からの監視を怠っていた。


「奴ら、どこから現れた?」

「この数は……」

「ちょっと多くない?」

「この街には複数の冒険者がいます。鬼人が相手だったとしても対処は可能だったでしょう」

「けど、1体でも普通の冒険者が苦戦させられたことを考えると、あの規模に攻められれば街は壊滅」

「行こう。わたしたちならどうにかできる」


 眷属も全員が俺の見た光景を見えていた。


「アイラ、できると思うか?」


 この中で鬼人と真っ当に戦ったと言えるのはアイラぐらいだ。


「あたしたちならあの数を相手にするのは不可能じゃないけど、問題なのは再生能力なのよね」


 対処するにしても鬼人を無力化する手段が必要になる。


「メリッサ、鬼人の治療薬はどれだけ用意できた?」


 必要になることは分かっていたので用意させておいた。


「問題なく……と言いたいところですが、ここまで早く必要になると思っていなかったものですから……」


 テーブルの上に瓶が10本置かれる。


「念の為に聞くけど、1本で何人分だ?」

「……一人を元に戻す為に必要な量です」


 つまり10人分の治療薬しか用意できていない。


「まさか、これだけなのか?」


 メリッサが頷く。

 圧倒的に足りない。


「申し訳ありません。複数の鬼人が現れる状況を想定していませんでした」

「いや、想定していなかったのは俺も同じだ」


 治療薬に頼らない方法を模索しなければならない。


「さて、ノエル」


 現状は理解できたはずだ。


「今回はお前の意思を尊重する」

「え……」


 足りない治療薬。

 急いで生産したとしても数人分が限界だろう。


「全員を元に戻すのは不可能だ。それでも、助けたいか?」

「……」


 俺の問いに無言になる。

 けれども、すぐにグルッと仲間の顔を見渡し、全員から見られていることに気付いた。


「わたしの我儘なのに言ってもいいの?」

「もちろんだ」


 この中に我儘だからと言って跳ね除けるような者はいない。


「――なら、わたしは助けたい」

「行くぞ」


 答えは最初から決まっている。

 アイラとイリス、ノエルを連れて宿屋を出る。

 シルビアは、宿屋で治療薬の生産を行うメリッサの護衛に置いていく。


「おいおい……」

「マジかよ」

「どうするんだよ!」


 ようやく食堂にいた人々にも騒ぎの内容が伝わったらしく騒然としていた。

 そんな彼らを無視して街の外へと向かう。


「おい、待て」

「何か?」

「どこへ行くつもりだ」


 女3人を連れて騒動の原因がある方へ向かおうとしていた俺を止めた騒ぎの原因を宿まで伝えに来た男だ。


「外にいる魔物をどうにかしに行く」

「止めておけ。噂に聞く強さが本物なら、この街は終わりだ。すぐにでも逃げる準備をした方がいい」

「悪いけど、仲間の一人が見捨てられないって言うんで逃げる訳にはいかないんだよ」

「なっ、まさか戦うつもりか!? 俺は兵士だから分かるが、アレは個人でどうにかできるようなものじゃない。軍隊でも連れてこないとどうにもならないぞ」


 どうやら伝令の男は兵士だったらしい。

 制服を着ていなかったから分からなかったが、今日が非番か日が沈んだ後であるため仕事帰りだったのだろう。


「逃げたければ逃げればいい。俺たちは勝手にやらせてもらう。ただし、足手纏いは不要だ」


 俺たちにもそこまでの余裕があるとは思えない。


「あ、おい……!」


 兵士として危地へ飛び込もうとしている人間を止めようとしているのを無視して例の外壁が崩れている場所まで移動する。


「うわぁ、さすがにアレだけいると壮観ね」

「で、どうするの?」


 イリスから尋ねられる。


「……どうしようか?」

「何も考えていないの?」

「いや、やることは決まっている」


 全員を助けると決めた。

 問題は、助ける方法が分かっていないこと。


「何か助けられる方法を見つけるまで時間稼ぎに徹するぞ」


 アイラがやっていたように足止めに徹すれば時間は稼げる。


「ま、やるとしますか」

「方法がない訳じゃない」


 アイラとイリスの剣士コンビが剣を抜く。


「でも、本当に大丈夫かな?」


 いざ実物を前にするとノエルの決意が揺らいでしまった。


「心配するな。50体の鬼人がなんだっていうんだ」


 揺らぎ掛けた決意を繋ぎ止める為に言葉にする。

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[一言] 迷宮魔法でやたら高い壁を作るか深い穴を掘るとか??
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