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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第34章 鬼人慟哭
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第12話 愚痴

「っ、なにが……?」


 起きた瞬間に自らの体を襲う鈍痛に顔を顰める。

 意識を失っていたザンガが昼過ぎになってようやく目を覚ました。


「あなた!」

「おとうさん!」


 ザンガの奥さんと息子が意識を取り戻したザンガに縋りついた。

 二人とも、ザンガのことが心配でずっと傍を離れようとしなかった。


「体調はどうですか?」

「はい、体のあちこちが痛いぐらいで問題はありません」


 それはノエルも同じ。

 自分の隣で正座をして心配しているノエルに答える。


「それはよかったです」


 責任を感じていたノエルはナテウス村へ移動する俺たちに同行することもなく、ザンガの看病をしていた。

 俺も怪しい人物が近くに潜んでいることに気付いていながら未然に防ぐことができなかったことに対する責任は感じている。だが、ノエルは俺とは比べ物にならないほどの責任を感じている。


 ザンガが上半身を起こす。


「まだ寝ていた方がいいですよ」

「いいえ、薄らとしか覚えていませんが、自分が何をしていたのか理解できています」


 視線が壊れて開けられたままの壁へと向けられる。

 壁があったはずの場所には何もなく、外が丸見えの状態だった。

 そこから、こちらの様子を覗いている村人の姿が見える。全員が不安そうな表情をしているが、ザンガが再び暴れてしまわないか不安で仕方ないといった様子だ。


「まずは壊れた部分を直した方がいいですね。俺が直してしまっていいですか?」

「そんなことまでしていただく訳には……」

「起きたばかりでそんな余裕はないでしょう」

「そうですね。お願いします」


 許可は得られた。

 さすがに家主の許可を得ずに直す訳にはいかなかったし、ザンガを心配する奥さんには了承するほどの余裕がなかった。


「では--」


 手を床について【迷宮操作:建築(ビルド)】を使用する。

 家全体へ迷宮の魔力が浸透し、開いたままだった場所を埋めるように迷宮にある木材を消費して壁が一瞬にして造られる。ついでにボロボロだった場所も補強しておく。貧しい村らしく最低限の強度しかなかった。


「え……」


 まさか一瞬で造られるとは思っていなかったので目を見開いて呆然としている。奥さんも目の前で起こった出来事が信じられずにいる。


「こんなことが……」

「俺たちが特別です。今回はちょっとサービスして見せてあげましたが、他言無用でお願いしますよ」

「もちろんです。命の恩人であるあなたたちを裏切るような真似はしません」

「それはよかった」


 村人から頼られて村長の仕事を引き受けるような青年だ。

 義理難いので余程のことがなければ俺たちについて口を滑らせるような真似もしないだろう。


 家の外へ意識を向けると村人たちが離れて行くのが分かる。

 怯えているような感情が窺える。ザンガのように感謝するよりも、いきなり家が修繕された光景に怯えてしまったようだ。


「オレからも礼を言わせてくれ」


 奥さんと子供しかいない家を守っていたおじいさんが頭を下げる。


「息子を元に戻してくれたお礼をしたいところだが……」

「止めておいた方がいいでしょう」


 鬼人の治療薬には『ユニコーンの角』が使用されている。

 一部しか使われていないとはいえ、こんな寂れた村に住む者が払えるような金額でないことだけは間違いない。


 おじいさんの様子から謝礼の額を察したザンガ。


「けど、何もしないという訳にはいかない。この一生掛かっても必ずさせてもらいます」

「結構です」


 キッパリと断る。

 一生掛けたとしても不可能だ。


「それよりも病み上がりのところ申し訳ありませんが、何があったのか教えてくれませんか?」


 俺たちが最も求めているのは鬼人に変化する条件。

 それが分からなければ対処のしようもない。


「何が、と言われても……」


 ザンガには本当に心当たりがないらしい。


「ここで横になって寝ていたところ、急に胸が苦しくなったんです」


 窒息するかと思うほどの苦しさを胸に感じると意識が奥底に封じられるように薄くなった。

 次に意識を取り戻した時には思い通りにならない体と何かを壊したい、という強い衝動に突き動かされていた。


「なるほど……」


 鬼人となった者は、本人の意思に関係なく破壊衝動に囚われてしまう。

 しかも、鬼人の持つ力なら家ぐらいは簡単に壊してしまうことができる上、人間が相手でも容赦なく潰してしまう。


「何か変わったことは?」

「いえ、いつも通りです」


 昨日の出来事を簡単に確認する。

 俺たちも見ていたように昼過ぎにセンドルフから色々と買い取った後は、家で薪割などの雑用を行う。日が落ちた後は、家の中で奥さんが用意してくれる夕食を待ちわびながら子供たちと遊ぶ。その後は、先ほども言っていたように寝ていた。


 何も特別なことはしていない、と言う。

 だが、何かしらの条件を満たしてしまったからこそ鬼人となってしまったのは間違いない。


「村に来た商人と何かをしていましたか?」

「センドルフさんですか? いつものように、こちらの商品をいくらで買い取ってくれるのか相談して、妻が買った物の代金を支払った後は雑談をしていたぐらいです」


 特におかしな点は見受けられない。

 普通に行商と村長のやり取り。


「雑談……どんな内容でした?」


 が、メリッサだけは違った。


「どんな、と言われましても最近の村について相談したり、何かおかしなことはないか聞いたりしていました」

「おかしなこと?」

「はい、俺が言うのもおかしな話ですけど、『鬼』による噂はこの村にも届いていましたから」


 ザンガがおじいさんを見る。

 噂の出処はおじいさんだろう。

 それにおじいさんの息子が犠牲になった、ということはザンガの兄弟が犠牲になったということでもある。

 『鬼』を恨む気持ちもあって真実を知ろうとしていた。


「まあ、センドルフさんも詳しいことは何も知らなかったみたいです」


 センドルフが犯人として有力であることは伝えていない。

 自分たちに親切にしてくれる商人が実は『鬼』へ変える生贄程度にしか考えていなかったなんて知るのは残酷すぎる。


「昔は、こんなことは起こらなかったって愚痴を言い合っていたぐらいですよ」

「愚痴?」

「ええ。貧しい村でしたけど、ティシュア様の加護がありましたから大きな災害もなく平穏でしたよ。ですが、貴族たちのせいでティシュア様が姿を消されてから色々な災いが起こるように……いえ、未然に防ぐことができなくなりました」


 川で氾濫が起こることを事前に知ることができていれば堤防を強化するなどして対処することができる。

 それらの情報が行き届かなくなったことで災害への対処が不十分になった。

 おまけに不作の年が続いているせいで不満が募っていた。


「ティシュア様さえ、いてくれれば……」


 貴族たちへの恨み。

 次第にティシュア様へも恨みが向けられるようになっていた。


 どうして、自分たちを見捨ててしまったのか……?


 病み上がりのザンガの口から恨み言が吐かれる度にノエルが反応している。ティシュア様が姿を消したのは、ノエルの為でもある。

 これ以上は聞かせられない。


「もう休んでいてください。俺たちは『鬼』騒動を解決する為に出発します」

「でも、お礼が……」

「そのことなら本当に気にしないでください」


 全員を連れてザンガの家を後にする。

 いつの間にか日が沈み掛ける時間になっていた夕焼けに染まっている。


 冬は日が沈むのが早い。

 おじいさんの好意もあることだし、村の中で一晩過ごした方がいいのだろうが、ノエルをこの村にいさせたくはない。


「とりあえず、アヴェスタの街まで移動するぞ」


 宿で話を聞かなければならない。


「お前は、何が原因なのか分かったな」


 ノエルの思い詰めた表情。

 思い詰めているのは、ティシュア様がいなくなったことに責任を感じているだけでなく、今回の騒動が自分にも原因があると痛感しているからだった。


「はい……」

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― 新着の感想 ―
[一言] いつもワクワクしながら楽しんでいます。 恨みなどの負の感情が一定量を超えたら…かな? それだけだとすぐに村中鬼だらけになりそうなので、もう一つ二つ。。。 普段は素直に楽しむのですが、展開…
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