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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第6章 没落貴族
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第11話 絶望の先にあるもの

「うっ……」


 呻き声を上げた後、盗賊の1人が目を覚ます。

 最初に目を覚ました1人に続いて次々と盗賊たちが目を覚ます。そして、最後にリーダーが目を覚ます。


 彼らが目を覚ました順番は単純に眠らされた順番と同じだった。迷宮魔法:睡眠の前では個人が持つ魔法に対する抵抗力など意味を成さない。きっちり2時間で起きるようになっている。


「何があった……?」


 リーダーが頭を押さえながら自分の身に起こったことを思い出そうとする。


「そうだ……トムたちを殺した奴らを襲ったら眠らされて……」

「何なんだよ、あいつ」

「トムはいい奴だったんだ。あいつが何をしたって言うんだよ!」


 盗賊行為だよ。

 これ以上、男たちの言葉を聞いていても胸糞悪くなるだけだ。


『あ、あ~聞こえるかな?』

「この声は……」


 迷宮核に頼んで地下59階全体に響き渡るようにした俺の声を聞いて盗賊たちが驚いていた。


「ここは、どこなんだ!?」


 盗賊たちが周囲を見渡すが、そこには70センチほどの石碑のような物が等間隔で並べられているだけで、他には何もない。地面も淀んだ灰色の砂のような物が敷き詰められており、景色も空気が淀んでいるせいか灰色に見えた。

 見える情報からではここがどこなのか分からない。


『ここはアリスターという街の近くにある迷宮の地下59階だ』

「ふざけるな! アリスターの迷宮なら俺も知っている。あそこは地下55階までしかないはずだ!」


 おや、リーダーさんは迷宮について知っていたか。

 それに最到達階層が地下55階だということまで知っている。もっとも地下55階が一般的な知識である最下層という認識で、最到達階層だとは知らないみたいだ。


「それに俺たちがいたのはアリスターからかなり離れた場所だ。どれだけの時間を眠っていたのか知らないが、ここまで連れて来られるはずがない!」

『信じるか信じないかは自由だが、ここは正真正銘地下59階にある墓地フィールドだ』

「墓地、フィールド……」


 盗賊の1人が呟くが、無視だ。


『さて、ルールを説明しようじゃないか。君たちに聞きたいことは5つ。君たちの「本来の職業」、「トップに立つ人間の名前」、「トップに立つ人間の本来の職業」、「盗賊をしている理由」、「アジトの場所」を正直に答えてもらおうか』

「そんなことできるはずがないだろ!」

『なら、君たちに与えられた2つ目の選択肢は「自力で迷宮を脱出する」だ』

「……なに?」

『俺の質問に対して正直に答えてくれたなら迷宮から一瞬で出してやる。ただし、黙秘を続けるなら何もしない。迷宮から脱出する為には自力で脱出するしかない。そうだ、ヒントぐらいはあげよう』

「あれは……」


 盗賊たちの視線の先、1キロほど先で地面が光を発していた。


『あれは地下59階から脱出することのできる転移魔法陣。あそこまで辿り着くことができれば、脱出することができるよ』

「なんだ簡単じゃないか」


 そんなことを言っていられるのも今の内だ。


『じゃあ、ゲームスタートだ』


 俺がそう言った瞬間、何人かの盗賊が走り出した。


「お、おい待て……!」


 ここは敵のテリトリーもいいところだ。そんな状況にもかかわらず警戒もせずに走り出すなど不用心にも程がある。


「う、うわあぁぁぁ!」


 走り出した盗賊が叫び声を上げる。

 彼の視線は自分の足元へと向けられていた。

 離れた場所から見ているリーダーたちには地面に何があるのか分からない。


「た、助けてくれ……」

「一体、何があるというんだ?」


 剣を抜きながら近付くと何かによって足首が掴まれているのが見えた。

 そして、走り出した男まで3メートルと迫ったところで地面の中にいて足首を掴んでいた存在が地面から土を退けながら上半身を現す。


 それは人だった。

 ただし、肉体は既に腐っており、盗賊に扮した自分たちよりもボロボロな姿をしていた。


「こ、こいつ……グールだ!」


 グール――人の肉を好んで喰う人の死体。


「この野郎!」


 足に噛み付かれ、咄嗟に持っていた剣でグールの頭を叩き割るとグールは動かなくなる。

 グールはそれほど強くなく、既に死んでいることから手足を斬ったり、心臓を突き刺したりすることに意味はない。動く死体は、食欲だけが異常に発達した人の死体で僅かに生きている脳から送られてくる『食欲を満たす』という命令に従って行動している。そのため頭を破壊すれば簡単に止まる。


「大丈夫か?」


 リーダーが駆け寄ってグールに噛まれた仲間の状態を確認していた。


「大丈夫、です……」


 しかし、両手で体を抱えると地面に蹲ってしまう。


「どうした!?」

「さ、さむい……」


 原因は分からないが、あまりの寒さに体を震わせていた。

 だが、リーダーは寒さなど感じていなかった。外的要因以外の要素によって寒さを感じているのは間違いない。


 そうして20秒ほど震えていると体の震えがピタッと止まる。

 その後、ゆっくりと立ち上がった姿を見てリーダーは安堵した。


「う˝あああぁぁぁ」

「くそ、何だって言うんだ!?」


 噛まれた仲間が急に襲い掛かってきたことから思わず剣で攻撃して仲間の右腕を斬り落としてしまう。

 しかし、それでも仲間の足は止まらずにリーダーの方へと向かう。

 仲間の左手がリーダーの体を掴んだ瞬間、仲間の首が斬り飛ばされた。


「無事ですか?」

「あ、ああ……」


 リーダーは死の手から逃れたことによって呆然としていた。

 急に襲い掛かってきた仲間は、他の仲間の手によって殺されていた。


「今のは一体……?」

「原因は分かりませんが、グールにされたようです。アンデッド系の魔物に殺された者は稀に自分もアンデッドにされてしまう、という話を聞いたことがあります。彼もアンデッドにされてしまったのでしょう」

「そんな……!」


 命を失っただけでなく、自分の意思も失って永遠に彷徨い続けるなど考えただけで悍ましく思えているのだろう。実際、俺も彼らが盗賊でなければこんな方法はしたくなかった。

 ただ、彼らには素直になってもらう為に絶望を味わってほしい。


『ちょっと違うかな』

「きさま……!」


 リーダーが怒気を孕んだ声を上げる。

 そうとうお怒りな様子だ。


『その墓地フィールドに出現するグールとゾンビ系の魔物には傷を付けた相手を確実にアンデッドへと変えることができる毒が仕込まれている。彼らの攻撃を僅かにでも受ければ自分も同じようにアンデッドになると思いな』


 墓地フィールドにいる魔物の特性を教えたところで魔物を一気に出現させる。

 地面の下――墓の中から大量のグールやアンデッドが姿を現す。


 その数、100体。


『これはおまけだ』


 全身を包帯に巻かれた人型の魔物マミー、剣と盾を装備した骨だけの魔物スケルトン、中身の入っていない全身鎧の魔物リビングアーマー、背中に生えた翼で空中に浮いている悪魔の魔物インプ、火の玉の魔物ウィスプ。

 墓地に出現する多種多様な魔物が周囲から次々と現れる。


『あらためて選択肢を言おう。俺の質問に対して正直に答えるか、人をアンデッドにする魔物を含めた無数の魔物を相手にしながら脱出するか』

「全員走れ!」


 リーダーの声に従って全員が転移魔法陣に向かって走る。

 リビングアーマーが持った剣が振るわれ、盗賊の一人が自分の剣で受け止める。


「この程度」


 剣を軽々と受け止める盗賊だったが、左右から押し寄せて来たゾンビに掴まり鋭利な爪に斬り裂かれ傷を負ってしまう。

 十数秒の間だけ生きていたが、彼もまたアンデッドの仲間になる。


「いやだ、こんな死に方したくない!」

「こんな所で死ぬ為に兵士になったわけじゃない!」


 あ、恐慌状態に陥った1人が思わず口走ってしまった。


 そんな精神状態でまともに進めるはずがなく空から飛んできたインプに体を押さえられ、体がグールに喰われる。


 他にもマミーが自分の包帯を鞭のように伸ばして盗賊の体を拘束していた。動くことができなくなった盗賊もグールに喰われる。


 普段から鍛えられている彼らにとって真っ直ぐ1キロ先へ走ることなど簡単なはずだった。しかし、少しでも傷を負えばアンデッドにされてしまう、というプレッシャーと周囲から押し寄せる物量にまともな状態でいられなかった。


 それでもリーダーは転移魔法陣の前まで辿り着いた。


「俺が時間を稼ぐ。一人でも多く魔法陣の上に乗れ」


 振り返りながら残っている仲間の数を確認する。


『あと15人だな』


 リーダーが辿り着いた時にはそこまで人数が減っていた。

 その時、ウィスプの放つ炎によって盗賊が1人焼け死ぬ。


『残り14人』


 焼け死んだ盗賊が唯一幸運だったのはウィスプの攻撃ではアンデッドにならないことだろう。


「くそっ!」


 盗賊の1人に斬り掛かろうとしていたスケルトンの体を剣で叩いてバラバラにする。地面にはバラバラになった骨だけが残され、襲われようとしていた盗賊は思わず足を止めてしまっていた。


「行け!」


 リーダーが叫ぶように言うと足を止めていた盗賊も転移魔法陣に向かって走って行く。

 その後も魔物に襲われそうになっている仲間の姿を見つけると魔物の攻撃を受け止めて仲間を助けて行く。そうして、生き残っている仲間がいないことを確認すると自分も転移魔法陣へ駆ける。


 転移魔法陣の上には生きていた盗賊が全員残っており、自分たちを助けてくれたリーダーのことをまっていた。


「よし、これで脱出できるぞ」

「やった!」

「これで帰れる……」

「ああ、安心しろ」


 転移魔法陣は少量でいいので魔力を流すことによって起動する。

 魔法陣から溢れた光が周囲を満たし、上にいた盗賊たちを移動させる。


「なっ……!」


 脱出できると思っていた転移魔法陣を使って移動した先にはさっきまでいた地下59階と全く変わらない光景が広がっていた。


 思わず移動していないのではないか? とでも考えたのかしきりに周囲を確認していた。彼らが今立っている場所は小高い丘のような場所で、見下ろすようになっている墓地には先ほど以上の数千体ぐらいの魔物がひしめき合っていた。


「ここは、どこなんだ……?」


 思わず呟いてしまったようなので、せっかくだから教えてあげよう。


『ようこそ、地下58階へ』


 地獄の先は、まだ地獄だった。


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