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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第34章 鬼人慟哭
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第10話 衰弱した鬼

 別行動をしていたアイラ。

 彼女には、シルビアと一緒に商人の次の目的地だった村へと向かってもらい、報告の為に戻ってくるシルビアとは違って村に残って御者と馬車の監視に留まってもらっていた。

 少ない可能性だが、商人のセンドルフが戻ってくるかもしれない。


 残念ながらセンドルフが戻ってくることはなかった。

 だが、アイラが残った成果はあった。


「で、こいつがこのナテウス村で生み出された鬼人か」


 ザンガと全く同じ姿に変化した鬼人が剣で地面に縫い付けられた状態でいた。


「随分な騒ぎだったみたいだな」


 ナテウス村まで疾走。

 ようやく暗かった空が白み始め、そろそろ夜明けといった時間。

 まだまだ起きるには早いのだが村には起きている人が大勢おり、遠くから鬼人の様子を見つめていた。

 いくらアイラの手によって無力化されているとはいえ、見るからに危険な魔物である鬼人に近付くこともできず遠巻きに見ているしかできない。


「ま、それもこの辺の惨状が原因だろうな」

「もう少しスマートな止め方はなかったのですか?」

「あたしはあんたたちと違ってスキルとか魔法で鎖を生み出したりできないんだから、都合よく頑丈な鎖でも持っていないと拘束できないわよ」


 ナテウス村に現れた鬼人は、地面に倒された上で左右の手と足、さらに腰を2本の剣で串刺しにされて縫い付けられていた。

 剣はアイラが持つ収納リングに予備として保管されていた頑丈さだけが取り柄と言っていい使い捨ての剣。聖剣を使って攻撃したくない敵を斬る為に用意していたのだが、意外なところで役に立ってくれた。

 拘束する手段を他に持たなかったアイラが強引な方法に頼ったのは仕方ない。


「で、その辺に転がっている手足は?」


 鬼人が出てきたと思しき小屋。

 そこから倒されている場所までは数十本の手足が転がっていた。人間とは思えないほど大きな手足、さらには赤茶けていることから鬼人の物だというのは間違いない。

 しかし、倒れている鬼人には手足がしっかりとついている。


「それが、止めようと思って最初は足を斬ることにしたの」


 アイラなら硬い鬼人の四肢を切断するのも難しくない。

 ただし、問題となったのは切断した後のことだった。


「右足を付け根から切断したら前へ倒れて行ったんだけど、両手をついて倒れるのを防いだ頃には切断したはずの右足が元に戻っていたの」


 アイラが右足から目を離していたのは2、3秒。

 その僅かな時間の間に再生されてしまった。


「驚異的な再生能力だな」


 その後、他の足や腕を切断するものの結果は同じ。全ての四肢をほとんど同時に切断してみても結果は変わらなかった。


「あたしも無力化することばかりに気を取られていて村がどういった惨状になるのか気が回っていなかったわ」


 切断されている間も鬼人はアイラから逃れようとしたのか、それともアイラ以外の誰かを襲おうとしていたのかは分からない。しかし、村の奥の方へと移動していたのは間違いなく、切断された四肢から流れ出た大量の血によって村が鮮血に染められていた。

 大量の血による匂いが立ち込めている。


「俺たちの目的は、鬼人になった人を救うことだぞ。こんな状態にして助けられると思ったのか?」

「そう? 再生させた後は平然としていたし、手足ならイリスが元に戻せるだろうから気にせず切断したんだけど」


 たしかにイリスなら元に戻すことはできる。


「それは構わない。けど、【施しの剣】は回数制限があるんだから何度もできることじゃないっていうことを忘れないで」

「あ、そっか」


 絶対的と言っていいほどの回復能力を誇る【施しの剣】唯一の弱点を言われてアイラが反省する。


「それよりも元に戻す方法があるなら早く戻してあげて。あの御者から話を聞き出さないと」

「……は? この鬼人は、センドルフと一緒にいた御者なのか?」

「……言っていなかった?」


 言っていない。

 俺たちはナテウス村に鬼人が現れた、という報告しか聞いていない。


 改めてアイラから何が起こったのか聞く。


「あたしは、この村で例の商人が来ないか見張っていたでしょ。最初から、あの壊れている小屋で休ませてもらう約束になっていたのか、あたしとシルビアから話を聞いた御者は小屋に引き籠もっていたの」


 まるで何かに怯えている様子だったらしい。


「まあ、無理もないでしょう。貴族の地位を剥奪された上にようやく掴むことのできた商人ギルドの伝手。それが訳の分からない出来事で手から零れ落ちてしまうだけでなく、共犯者にされてしまう可能性がありました」


 御者としてあちこちを移動していた。

 当然、メンフィス王国で起こっている鬼人騒動についても噂として知っており、事の重大性を認識していた。


 今のところ、センドルフが犯人であると示す証拠はない。

 それでも、一度はどん底まで落とされることを味わった御者は不安に苛まれることとなった。


「一つ確認だけど、センドルフは来ていないんだよな」

「例の商人なら来ていないわよ」


 少なくともアイラが監視している間には来ていない。


「そうなると……鬼人の変化は、『遠隔』もしくは『時限式』で可能ということになりますね」


 アイラが知覚出来ないほどの遠距離から鬼人への変化を行わせる。

 最後に接触してから一定の時間が経過する。もしくは指定した時間が訪れることで鬼人への変化が行われる。

 ザンガの時もセンドルフは近くにいなかった。

 少なくとも変化させる際に近くにいなければならない、という必要はない。


「何か変わったことはなかったか?」

「さあ? 村の外は警戒していたけど、御者は囮程度にしか考えていなかったから最低限しか見ていなかったわ」


 アイラに落ち度はない。

 俺たちも御者が鬼人へ変化するなど想定していなかった。


「何があったのかは本人から聞き出すことにしよう」


 ユニコーンの秘薬を飲ませる。

 すると、数分ほどの時間を掛けて元の姿へと戻る。


「アイラ……」

「言いたいことは分かるから」


 鬼人の体から解放された御者は衰弱していた。センドルフと一緒にいた頃から少し前までの貧しい生活のせいか痩せていた。それでも、ここまでは痩せこけていなかった。


「骨と皮だけ、と言っていいほど衰弱した体……ザンガの時との違いなんて一つぐらいしかないぞ」


 転がるいくつもの手と足を見る。

 村へ到着するまでに時間が掛かっている。だが、ザンガの時も治療方法を見つけるまでに時間が掛かっているため同じくらいの時間が経過していた。

 元に戻すまでの時間は関係ない。


 可能性として最も高いのは手足を切断したこと――再生能力を使わせたことだ。


「イリス」

「結局は必要になるんだ」


 【天癒】を使用して快復させる。

 痩せこけていた体が元に戻り、衰弱によって命を落とすようなことはなくなった。


「う、ぅ……」


 呻き声を上げる御者。

 しばらくは話を聞ける状態ではない。

 まあ、御者は情報源として期待していない。おそらくは雇われて巻き込まれただけの人物。


「何かを知って口封じの為に変化させられた可能性もなくはないが、共犯者にさせられることを恐れていたなら違うだろうな」

「それよりも可能性の高いことに心当たりがあります」

「なんだ?」

「鬼人へ変化する為の条件を満たしてしまった、ということです」


 メリッサの推測は非常に恐ろしい。

 もしも、何らかの条件を満たすことで“誰でも”鬼人へ変化してしまうのだとしたら、鬼人で溢れ出す可能性がある。


「……早急に現状を伝えた方がいいな」

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