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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第34章 鬼人慟哭
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第9話 鬼人治療薬

 鎖に拘束されたザンガは僅かに身動きができる程度で人が近付いても襲うことができないようになっている。

 そんなザンガに近付くメリッサ。


 彼女の手には薬液の入った瓶がある。

 近付く人間を目にして握り潰そうと手を伸ばす。

 が、拘束されていることで手を伸ばすことすら叶わず易々とメリッサが口元へ飛び掛かられるのを許してしまう。


「はい、飲んでくださいね」


 無理矢理に口を開けさせると瓶に入っていた薬液を流し込む。


 藍色のドロドロとした液体。

 まとも精神状態だったなら絶対に飲みたいとは思わない見た目。しかも、酷いのは見た目だけではなく味も非常に苦く、試しに指で掬って舐めてみたイリスが舌に痺れを訴えて回復魔法による治療を試みるほどの劇薬。

 そんな劇薬を200mlも胃の中へと流し込む。


 あまりの劇薬にのた打ち回りたくなるが、拘束されている状態では不可能。体が痙攣を起こしてガタガタ震えている。


「うわ、酷い状態だな」


 その様子を離れた場所から見ている俺たち。

 初めて使用する薬。何が起こるのか分からないため、万が一の場合を考えて距離を取っている。


「だ、大丈夫なんだろうか?」


 傍にはおじいさんやザンガの奥さんがいる。

 息子や夫が元に戻ることができるか不安で仕方ないため離れた場所なら見守る許可をした。


「分かりません。なにせ普通の回復薬(ポーション)にある秘薬を加えて効果があるようにした薬ですから」


 滅多に手に入れることができない貴重な素材。

 その利用方法も一般には知れ渡っていないためメリッサなりのアレンジを加えた秘薬。どれだけの効果があるのかも分からない。


「ガァッ……!」


 上を仰ぎ見て痙攣を続けている鬼人の体からプスプスと煙が立ち始める。

 さらに体から汗が滴り落ちるように錆びた水のような色をした液体が汗のように落ちる。


「本当に大丈夫なのか!?」


 明らかに普通ではない状態を見ておじいさんが狼狽えている。


「ああ、大丈夫ですよ」


 対して俺たちは冷静だった。

 煙と液体からは鬼人から感じられた嫌な力が感じられ、鬼人の体からは抜けているのが感じられる。


 絞られた雑巾のようになって縮んだ体が地面に落ちる。


「ザンガ!」

「あなた!」


 無事に思えるザンガの姿。

 思わず駆け寄らずにはいられなかった二人。


 俺たちの感覚でも危険はない、と判断できるため止めるような真似はしない。

 奥さんがザンガの頭を膝の上に置いて抱え、おじいさんが体を触り胸に耳を押し当てて容態を確認している。


 やがて、無事なことが確認できたのか俺たちの方へと歩いて来る。


「本当にありがとう! 息子を二人も失わないで済んだ」

「助けられたみたいでよかったですよ」


 生命力も感じられる。

 今は意識が全くないようだが、しばらくすれば意識も覚めるだろう。


「こっちも彼に聞きたいことがありましたから」


 鬼人へ変化させる方法は今のところ分かっていない。

 残された手掛かりの中で最も有力なのが鬼人に変化してしまったザンガ。話ができる状態にまで回復させて手掛かりを聞き出したい。


「しかし、何をしたんだ?」

「ちょっと特別な素材を使用しました」


 用いたのは『ユニコーンの角』。

 あらゆる毒を中和することが可能なユニコーンの角なら何かしらの効果があるかもしれない、と希望を託した。


 最初は一部を削って欠片を飲み込ませてみたのだが効果がなかった。

 メリッサ曰く量が足りない。しかし、所有しているユニコーンの角には限界がある。どうにか少ない量で効果を発生させたかった。

 そこで、メリッサが欠片を粉末状にして効果が表れるよう薬にした。

 薬にしたことで劇薬となってしまったが、きちんと鬼人を元に戻すことに成功した。


「やっぱり『毒』か?」


 どんな毒をも中和するユニコーンの角を用いた薬で治療することができた。

 具体的な毒の効果については分かっていないが、『毒』であるのは間違いないように思える。


「いえ、毒ではありません」


 しかし、薬を作ったメリッサが否定する。

 メリッサがいつの間に入手していたのは鬼人の体から溶け出した液体が入った瓶と浮かんだ半透明な容器の中へ入れられた鬼人の体から蒸発した気体。

 どちらも中和されたことで抜け落ちた物だ。


「これを調べれば具体的なことが分かるはずです」


 それらを所持したまま迷宮へ戻る。

 瓶はともかく、気体の入った半透明な容器は魔法で造り出した物であるため維持する為にはメリッサが制御し続ける必要がある。

 同行するのはイリス。

 こっちにはシルビアだけいれば十分。


「戻りました」


 時間にして1分。

 向こうから要望があったため【召喚(サモン)】で二人を喚び出す。


「どうだった?」

「はい、アレの正体が分かりました」


 二人が迷宮へ戻っていたのは【鑑定】を使用するため。迷宮へ持ち込めさえすれば、どんな正体不明の怪しい物体だったとしても看破することができる。


「アレは実体化した『呪い』です」

「は、呪い?」

「はい。どうやら鬼人は不死者に近い性質を持っていたようです」


 メリッサが分かりやすく説明してくれる。

 鬼人の体は、恨みや妬みといった妄念が集まり、人の周囲に鎧に似た状態となって実体化したもの。

 外側に新しく体が造られるからこそ獣人が持つ獣耳や尻尾がなくなっているように見えた。


「なるほど。不死者に似ている、と言ったのにも納得だ」


 ゾンビやグールといった死体を利用した魔物は、死体に残された妄念が周囲の魔力を取り込んで魔石を生み出し、活動することができるようになる。

 ゴーストやウィスプといったスピリット系の魔物は、妄念そのものが魔力を取り込んで魔物へと変化している。

 鬼人も妄念から生まれているのは同じ。


「ですが、不死者とは全く別物の妄念です」

「なに?」

「最後に【魔力変換】を行ってみたところ決定的な違いが出た」


 代行者であるイリスには俺に代わって【魔力変換】を行うことができる。

 たしかに迷宮の魔力が増えたことには気付いていた。が、最後に【魔力変換】することは想定していたため細かい数値までは確認していなかった。


 迷宮のステータスを表示させて確認する。


「……ククッ、たしかに不死者ではないな」


 迷宮の魔力が最後に確認した時から1000万以上は増えている。

 どこかから不死者を捕らえて【魔力変換】したとしても弱い魔物なら100、強い魔物で1000を超えるかどうかといったところだ。

 強い不死者を捕らえた時の1000倍も得られていることになる。

 不死者とは全くの別物と考えていい。


「こんなことが可能なのは特別なエネルギーを使っているからだ」


 可能性として浮上したのは魔力ではなく、もっと上質なエネルギーが使用されていること。


「はい。私たちの誰も、それどころか神も否定していましたが神気が使われているのは間違いないでしょう」


 ただし、これまでに俺たちが遭遇したことのある神気とは異質なエネルギー。


「コストを考えるとユニコーンの角を使うのは勿体ない、なんて考えていたけどそんなことはないな」

「今のところユニコーンの角を使用しなければ鬼人を元に戻すことはできません。ですが、鬼人そのものを【魔力変換】することはできず、元に戻す過程で得られる素材なら【魔力変換】が可能です」


 鬼人は人間が変化しただけの存在。

 彼らを【魔力変換】してしまうことは、そのまま彼らの命を奪ってしまうことに繋がる。

 それでは、『鬼人を救う』という最も大切な目的を達成することができない。


「助ける利益ができた。ここからは、コストは気にせず薬を--」

『ちょっといい?』


 別行動をしているアイラから念話が届いた。


『もう1体「鬼人」を捕らえたんだけど、どうしたらいい?』



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