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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第34章 鬼人慟哭
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第4話 寂れた冬の村

 メンフィス王国は、ティシュア様を祀る神殿のある王都が中心にある。

 国は、王都の為にあるような国で地方へ行けば行くほど貧富の差が激しくなる。

 それも港のような経済を潤すような施設を構えていれば話は別だ。俺たちが以前に船でメンフィス王国へ赴いた時に入口とした港町のデュポンはそれなりに栄えていた。


「これは酷いな」


 対して目の前にあるヨルシャ村は酷い。

 家が20戸ほど立ち並んでいる。以前に訪れた王都は、どの建物もしっかりとした造りをしていた。

 しかし、目の前にある村は粗末な家ばかりだ。


「私も幼い頃の記憶しかないからなんとも言えないけど、これが北側にある普通の村らしい」


 今回、あちこちに別れて情報収集をすることになった。

 ただし、単独での行動は何があるのか分からないため危険なので二人一組になっての行動になる。


 俺はノエルと一緒に行動することとなった。

 今のノエルからはどうにも目を離したくなかった。


「お前が住んでいた村も?」


 俺の質問にノエルが頷く。

 あまり裕福ではなかったらしく、ノエルの両親であるバルトさんやノンさんは貧しい生活から抜け出したいと考えていた。というのも、娘であるノエルに貧しい思いをさせたくなかったからだ。

 結局、ノエルに寂しい思いをさせることにはなったが、貧しい生活からはノエルを手放すことで逃げ出すことができた。


「そうか」


 そういった生活をしていたことに何も言えない。


「この国も元々は種族で差別される状況を少しでも改善しようと興したもの。その時に多くの功績を残した人が貴族となり、中央で重役を担うようになった」


 けれども、その想いは踏みにじられることとなった。

 元々が虐げられていた人たちだけに自分たちが虐げることのできる立場になった途端に権力を手放すのが恐くなってしまった。

 権力の中枢を自らの身内だけで固めるようになり、立場の弱い者たちを地方へと追いやって税を搾取するだけの存在とする。

 そうした実態が目の前でも繰り広げられていた。


「おじいさん」

「うあ、なんじゃ?」


 ノエルが冬だというのに畑仕事をしていたおじいさんに話し掛ける。

 熊耳の生えた獣人。強靭な肉体を持つ種族だからこそ冬の過酷な状況で老いても畑仕事に従事することができる。


「今は何をしているの?」

「春に向けて土作りじゃ」


 黙々と鍬で畑を耕すおじいさん。

 冬の間に畑を耕して外気に触れさせることで土に活力を取り戻させる。

 寒いため外での作業などしたくないのだろうが、寒いからこそできることとしなければならないことがある。


「お嬢さんたちは、こんな辺鄙な村まで何をしにやってきたんだ?」

「わたしたちは冒険者なの。この先にある村で、何か強力な魔物が出たっていう噂を聞いてやってきたの」


 もちろん鬼のことだ。


「なに……」


 ノエルの言葉を聞いたおじいさんが鍬を手から落としてしまう。

 柄が足に当たって痛そうにしている。それでも、ノエルへの注意を止める訳にはいかない。


「悪いことは言わない。アレに関わらない方がいい」

「何か知っているの?」


 質問には答えずポケットから煙草を取り出すと火をつける。

 貧しい農村であったとしても煙草ぐらいの贅沢は許されていた。


「もう、体に悪いよ」


 見た目は60歳を過ぎたであろうおじいさん。

 煙草の煙が体に害を及ぼすことは知られている。年齢を考えれば止めた方がいいのは当然だ。


「そんなことは分かっている。けど、あんなことがあった後でぐらい止めていた煙草を吸うぐらいいいだろ」


 おじいさんは禁煙をしていた。

 ところが、何かしらあった再び吸うようになった。


 自分でも体を思えば止めた方がいいのは分かっている。


「息子の一人が死んだ」

「え……」


 おじいさんには息子が3人いた。

 その内の一人は、離れた村にある家へ嫁いでいった。数年前には孫も生まれており、時折会いに行くのがおじいさんの楽しみだった。


「新年になるとオレの方から出向いていったさ」


 それは毎年の日課。

 新年を祝い、孫たちと遊ぶのが楽しみだった。


「だが……」


 村へと辿り着いたおじいさんが見たのは凄惨な光景だった。


「村には血の跡ぐらいしか残されていなかったよ」


 大量の真っ赤な血。

 血によって作られた池の上に肉片や服の切れ端が浮かんでいるぐらいで人が生活していた痕跡など皆無。


 あまりに無惨な光景の中で血を浴びたように真っ赤な肌をした人間がいた。


「アレが『鬼』なんじゃろうな」


 鬼から必死に逃げたおじいさん。

 しかし、老いた体では逃げ切ることができずに追い付かれてしまう。


「もうダメだ、と思った時に冒険者が駆け付けてくれたんじゃ」


 5人組のパーティが駆け付けてくれたおかげで助かった。

 彼らは『鬼』が出現する噂を聞き付け、討伐に駆け付けた冒険者たちだった。未知の魔物は討伐しただけで功績として名が知られることになるし、研究の為に高値で取引されることがある。


「その冒険者たちが犠牲になってくれたおかげでオレは逃げ切ることができたわけだ」


 冒険者たちでは『鬼』を倒す実力に足りなかった。

 無謀な彼らの挑戦は、おじいさんを逃がすという功績を残してくれた。


「その後、『鬼』がどこへ行ったのか知らない」


 息子や孫が心配になったおじいさんは危険を承知で村を再び訪れた。

 しかし、生きている人を見つけるどころか息子や孫の死体を見つけることすら叶わなかった。


 ただ、血の池の中に嫁ぐ息子に渡したお守りを見つけることができた。

 渡す時に肌身離さず持っているように言っていた。息子さんは約束を律儀に守って『鬼』に襲われる時も身に付けていたのだろう。


「せめて供養ぐらいはしてやりたかったからな。近隣の村の連中に事情を話して埋葬と掃除だけはさせてもらったさ」


 近隣の村に住む人たちが協力してくれたのは死体を放置したままにしておくことができなかったからだ。

 大量の血など疫病の原因になる可能性が高い。

 それに危険な魔物を呼び寄せる可能性がある。

 最低限は綺麗にしておく必要があった。


「どうして、そんな少人数で? 『鬼』なんていう危険な相手がいるなら事情を話して兵士や騎士に協力してもらうなり、冒険者を雇うなりして安全を確保しないと危ないよ」

「お嬢ちゃん、この国の人間じゃないね」

「う、うん……」

「こんな寂れた村の為に危険な魔物と戦ってくれるような騎士なんて、この国にはいないさ」


 平等を謳いながらも腐った国。

 住んでいる人たちも疲弊しているものの多くの者が諦めてしまっている。


「冒険者を雇うような金もないしな」


 無謀な挑戦をしたおじいさんを助けた冒険者。

 だが、決して弱かった訳ではなく、それなりの実力はあったのだろう。


「アンタらみたいに若い連中まで犠牲になる必要はない」


 行かないよう説得するおじいさん。

 俺たちまで犠牲になるようなことになれば耐え切れない。


「大丈夫。事件があった村へは行かないから」


 心優しいノエルの口からついそんな言葉が出てしまった。


「まずは、この村の調査から始めましょ」


 近付いたノエルがそっと告げる。

 おじいさんの足では事件のあった村まで離れているが、所詮は3つ隣の村。俺たちなら、あっという間に辿り着けるような距離だ。

 この辺の村から調査を初めてもいいだろう。

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