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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第34章 鬼人慟哭
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第2話 聖女から告げられる故郷

 フィリップさんたちを歓待した翌日。

 イリスが朝の内にクラーシェルへ赴き、彼らと手を繋いだシルビアを召喚することで送り届ける。

 今日までは何もするつもりがなかった。


「そろそろ、決めないといけないと思うんだ」


 リビングで話し合いをしていると全員の視線がノエルへと向く。

 一方、全員の視線を受けたノエルが「うっ……」と唸る。彼女も自らの内で葛藤している。だが、この問題に対して最も優先されるのはノエルの気持ちだ。


「メンフィス王国へ行くか?」



 ☆ ☆ ☆



 事の始まりはノエルがリエルを産んだ数日後。

 子供が生まれたことの報告を友達である『聖女』のミシュリナさん、付き人として同行してきたクラウディアさんをイリスが【転移】で連れてきてしていた。


「わぁ、かわいい」

「ぷにぷにしている」


 生まれたばかりの寝ているだけのリエル。

 それでも女性である二人は、赤ん坊特有の可愛らしい顔と柔らかい体に骨抜きにさせられていた。


「抱いてみる?」

「いいの?」

「もちろん」


 ミシュリナさんがおっかなびっくりといった様子でリエルを抱き上げる。


「……ぇう」

「う!」


 ぎこちない抱き方が不満だったのか泣き出しそうになるリエル。

 その顔を見て必死にあやしていると落ち着きを取り戻してスヤスヤと眠る。


「本当にかわいいですね」


 クラウディアさんはリエルの体をずっとペタペタ触っている。

 自分の指ぐらいの大きさしかない手を突いて楽しんでいるとリエルが必死に掴んでいた。


「あらあら」

「赤ん坊は何にでも興味を示すから注意をした方がいいですよ」


 特に獣人は顕著で、今も獣耳がピクピクと動いている。

 ノンさんによれば物心つかない内は獣としての本能が強くでてしまうため獣の特徴が現れている獣耳や尻尾の動きが活発になるらしい。


「はぁ~堪能しました」


 1時間近くリエルを眺めて堪能していた。

 そのリエルは、伯母となったノキアちゃんが面倒を見ている。妹よりも先にできてしまった姪。どうしても気にせずにはいられず、リエルが生まれてからはずっと付きっきりになっていた。


「貴女の子供が見られただけで私は感無量です」

「ええ、なにせ死を宣告された身だったのですから」


 ミシュリナさんとクラウディアさんの言葉にどうしてもノエルと初めて会った頃のことを思い出してしまう。


「メンフィス王国か」


 ぽつり、とノエルが呟いた。


 離れてから2年近く経過しようとしていた。

 その間、ノエルは現在のメンフィス王国がどんな状況なのか知ろうとしなかった。知ったところで今のノエルには何もできない。今のノエルはメンフィス王国の問題に関わられるような立場ではない。


 それでも国の頂点に一度は立った身。


「気になりますか?」


 気にならない訳がない。


「……」


 けど、今のメンフィス王国が悲惨な状況なのは予想できる。


 それでも……


「気にはなる」

「なら、知らない方がいいです」

「けど、聞く」


 ミシュリナさんの言葉を無視して自分の意思を貫くノエル。


「昔の、それこそ『巫女』だった頃のわたしなら知った事実に圧し潰されていたかもしれない。けど、今のわたしにはリエルがいる。だから、絶対に自分の『大切』を見失うような真似はしない」

「分かりました。この数週間で新たな問題も発生していますのでちょうどいいタイミングです」


 聞かされた現在の状況は信じられないものだった。


「あの騒動からメンフィス王国では、平民による貴族への糾弾が頻繁に行われるようになりました」


 理由は簡単だ。

 貴族たちが自らの権力を増す為に権力闘争に明け暮れ、災害までも自らの意思で引き起こそうとした。それによって、どれだけ多くの人が苦しめられるのかなど全く考えもせずに。


 他者のことを顧みない行動を知った人々は容赦がなくなった。

 ノエルが命を一度は落とすことになった騒動に関わっていない貴族でも何らかの不正に携わっていた場合は糾弾されるようになる。

 結果、次々と不正を行っていた人は排除されていった。


「じゃあ、よかったんじゃ」


 ノエルの考えは単純。

 不正を行うような悪人を排除すれば善人だけが残る。


「政治、というのはそこまで簡単ではありませんよ」


 残ったのは治世のノウハウを持たない人々のみ。

 善良な文官も残っていたが、あまりに糾弾が激しすぎてしまったため簡単な不正にすら手を出すことができなかった平民よりも少しノウハウを知っている文官だけが残ることになる。


 一部の者の手によって行われる政治。

 しかし、それも上手くはいかない。統治を行う人々は失敗したことで糾弾されることを恐れて最低限の統治しか行えない。


 とても革命を起こした後とは思えない暗い国内。

 さらには不正による買収もできなくなり、やりたいことややらなければならないことがあってもできない状況が続いていた。


「あの国の統治機構は既に死んだようなものでした」


 人がいなくなったことで、いなくなった影響によりその後の政治までもが立ち行かなくなった。


「そこまで酷い状況とは……」


 思わずノエルが言葉を失くしていた。

 酷い状況に逃げ出す人々がいることは予想していた。まさか、真面な状態ですらなくなってしまうとは思っていなかった。


「ですが、それらは中央の話です」


 国の中央にある王都。

 さらに王都の周囲にある都市。

 幸いにして立ち行かなくなっていたのは中央だけだった。


「中央にいる貴族たちがどのような不正を行っていようとも地方で真面目に農業に従事している者。産業の発展を支えている者たちには関係がありません」


 彼らは騒動が起こった後でも今までの生活を続けていた。

 中には中央での騒動をチャンスだと思った一部の野心家たちが地方を飛び出して行ったが、状況だけで成功するほど世の中は甘くない。むしろ、中央で必要な最低限の常識も知らないため呑み込まれる結果となった。


「私たちも不正を犯していた貴族たちの影響を受けて地方でひっそりと生活している人々まで巻き込まれるのは本意ではありませんでしたから援助させてもらいました」


 食糧や布の提供。

 それにイシュガリア公国から行商を行ってくれる商人を派遣して地方だけでも経済が滞らないよう努力していた。


 その努力の甲斐あって最近までは何も問題がなかった。


「……最近まで?」

「はい」


 行商人を走らせているイシュガリア公国には正確な情報が届けられるようになっている。


「数週間前から各地で『鬼』が出没するようです」

「鬼……オーガではなくて、ですか?」


 赤い肌をした人の形をした魔物。頭部からは1本もしくは複数の角を生やし、角が多ければ多いほど強い力を有していると言われ、1本だけであっても一般人なら骨を圧し折れるほど強力な腕力を有している。

 非常に危険な魔物だが、生殖能力に乏しいため数が少ないのが人間にとっての唯一の救いと言っていい。


「姿はオーガと似ていると言っていいです。ですが、生まれ方にオーガとは決定的な違いが存在するのです」


 平和に過ごしていた村人。

 だが、突如として凶暴になったかと思えば肌が赤くなり、頭部から角を生やした姿へと変化するようになる。

 そうして、同じ村の人間だろうと構わずに襲い掛かるようになる。


「既に10以上の村が犠牲になっていて複数のオーガが合流するようになっています。この事態を受けてイシュガリア公国ではメンフィス王国への人的支援を一時的に打ち切ることにしました」


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