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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第6章 没落貴族
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第10話 3人目

 真っ赤な顔をして俯いているメリッサさん。


「眷属契約をお願いします……」


 絞り出したようなか細い声。

 それでも俺の耳はしっかりと聞き取れた。

 こんな状況で「なんだって?」とか聞き返すような奴は男じゃない。


「理由を聞いてもいいか?」

「はい。私もシルビアさんたちから『命令には絶対服従』や『眷属契約に必要な行為』を聞いて少し引いてしまいました」


 年下の子から『少し引いた』と言われてショックを受けてしまった。


「けど、2人の姿を見ていると酷い目に遭っているとかそういうことはないみたいですからマルスさんは命令をしたことがないんじゃないですか?」

「そんなことないぞ。俺の正体については秘密厳守にするよう言ってある」

「そんな命令は、スキルを使用するだけで驚異的なステータスを与えられる身としては当たり前の命令です」

「他にもシルビアの行動を止めたことがある」

「はい。その話はシルビアさんから聞いて知っていますが、それもシルビアさんのことを思ってのことでしょう」


 まあ、命令らしい命令はしていない。

 強いて言えば主と眷属という立場からいつの間にかパーティ内で俺がリーダーのようになってしまい、今みたいに色々と指示を出しているので命令には従ってくれている。


「というわけで私も眷属になることは気にしません」

「そんなにステータスが欲しいのか?」

「はい。具体的には盗賊団を壊滅できるだけの力が欲しいんです」


 そんなにいいものではない。

 別に壊滅させたいだけなら冒険者である俺たちに依頼してくれればパパッと解決してあげてもいい。


「少し、気になることがあるのです」

「気になること?」

「はい。貴方が眠らせた盗賊の中に知っている顔がありました。私の住んでいた町を襲った盗賊です」


 そうだろう、とは思っていたがやっぱりそうだったか。


「覚え違い、とかそういうことは?」

「記憶力はいい方なのです。それにあの日の出来事は鮮明に覚えています。あの日に見た顔が8人もいれば十分でしょう」


 8人もいれば思い違いということもないな。


「それで? 自分の住んでいた町を襲った盗賊だから自分の手で滅ぼしたいとかそういうことか?」

「いえ、冒険者ギルドで盗賊の話を聞いた時は、頭に血が上ってそういう理由からステータスを求めて眷属契約を求めましたが、その後は落ち着いて話をなかったことにしてもらおうと思いました。ですが、今は彼らの姿を見て認識を改めました」


 やっぱりメリッサさんも気付いたか。

 メリッサさんの視線は1箇所に集められる眠ったままの盗賊へ向けられている。


「彼らは盗賊ではありません。問題は、盗賊以外の誰がわざわざ盗賊の姿を真似てまで盗賊行為を働いていたのか、ということです」


 どんな事情があるにせよ普通に犯罪行為である。

 俺にその気があれば盗賊として殺されていても文句を言われることはない。

 だから、俺は戦闘前に『盗賊か?』とわざわざ聞いていた。そして、彼らはその言葉を否定しなかった。


「私の目的は、町を襲った盗賊への復讐ではありません。ただ、あの日に起こった真実が知りたいのです。普通の盗賊ではない彼らが盗賊として私の村を襲った理由を」

「それなら俺たちが解決した後で……」

「私が、この手で、解決したいのです」


 ダメだ。聞く耳を持たない。


「それに私を仲間に加えるといいことがありますよ」

「いいこと?」


 メリッサさんの言葉を聞きつけたのかシルビアとアイラが手を止める。


『2人とも作業に戻れ』

『はい』

『年下の女の子に何をデレデレしているんだか……』


 そういう意味のいいことじゃないことを祈る。


「少々言い難いことですが、あの2人は少し知性に欠ける部分がありますね」


 そういうことを言うんじゃない。

 また、2人の手が止まっただろ。


「それが?」

「私なら2人が見落とすようなことにも気付けます。仲間にしてみませんか?」


 たしかに魔法使いの仲間は欲しかった。

 魔法しか通用しない敵と戦うようになった場合、俺が後衛に回って魔法を使うしかなかった。2人とも攻撃魔法とは相性が悪いからな。


 それにテックさんからも仲間にしてほしい、と言われているから断る理由もそこまでない。


 問題は……。


「キス、が問題ですか?」


 そこが問題だった。


「俺は年下の子とディープキスをするなんて嫌だぞ」


 この世界では15歳で成人したと見做される。

 シルビアもアイラも俺と同じように成人と見做される年齢だったため、そこまで抵抗することはなかった。だけど、年下で成人もしていない女の子を相手にキスをするのは抵抗がある。


「私が年下なのが、そんなに問題ですか?」

「うん……」

「でしたら、その問題は解決です」

「え?」

「私は昨日が誕生日だったので既に皆さんと同じ15歳です」


 でも、テックさんたちに誕生日を祝うような雰囲気はなかった。


「私は居候をしている身ですからテックさんたちには誕生日などの情報を教えていません。だから、彼らは私が成人したことも知りません。テックさんの思惑とは違いますが、街中での火力の派手な魔法使いはあまり役に立ちません。なので、行商を止めたなら本格的に町を取り戻す為に動くつもりでいました」


 テックさんも店を構えることはメリッサさんに伝えていなかった。

 彼も店を構えることになればメリッサさんがどういう行動に出るのか分かっていたのだろう。


「私は目標を失ってしまいました。が、幸運にも新たな目標を得ることができました。その為に貴方が与えてくれるステータスが必要なのです」


 それが、自分の町を襲った盗賊団の正体を追うこと。

 その目標を叶える為には自分のステータスでは努力を重ねた程度では足りず、何かが必要になる。


 俺としても彼女を放置するのは危険な気がした。

 それならいっそのこと目に付く場所に置いておいた方がいい。


「デメリットを分かったうえで言っているんだな」

「はい。貴方から力を得る代わりに貴方のパーティに加入して力を貸すことを約束しましょう」

「分かった」

「では、失礼して……」

「え……!」


 いざ俺の方からキスをしようとしたらメリッサさんの方から頬を掴まれてキスをされ、押し倒されてしまう。メリッサさんが俺の上に乗った姿勢のまま舌を突き出してきた。


 スキルを使わないと。

 メリッサさんにもスキルを使われた感覚があったのか1度だけ目を見開くものの眷属契約を受け入れ、更に力強く押し付けてきた。


 ……え?

 スキルは使われたんだから、もう離れてもいいんだけど……。

 俺の方から離れようとするが、強くなった筋力を最大限に使っているのか離れてくれない。地面に押し倒されているせいで後ろへ逃げることもできなければ掴まれているせいで左右に逃げることもできない。

 上へ突き飛ばせればいいのだが、うっかり全力で突き飛ばしてしまえば彼女が怪我をしてしまう。


 どうすればいいのか迷っていると助けは意外なところからきた。


「ちょっと何やってるの!」

「もう、スキルは適用されたでしょ!」


 左右に立ったシルビアとアイラが横からメリッサさんの腕を掴んで引き剥がしてくれた。


「随分と早く来ましたね。さては、見ていましたね」


 メリッサさんの言葉にシルビアがサッと視線を逸らす。


「想い出に残るような場面だから2人きりにさせてあげよう、っていうことで遠くから見ているだけだったけど、明らかに異常事態だったから駆け付けさせてもらった。結果、正しかったみたいだけど」


 アイラが生暖かい目で膝を抱えて地面に座る俺を見てくる。

 うう、なんだか汚された気分だ。


「美味しくいただきました」


 ニッコリと微笑まれると何も言えなくなる。

 けど、かなりヤバイ人を眷属に加えてしまったかもしれない。


「だ、大丈夫ですよ、ご主人様。ご主人様がどんな状態であってもわたしは最後までついていきますから」


 シルビアの慰めで心が和らぐ。

 けど、この空気にはちょっと耐えられなかった。


「頼んでおいた仕事は終わったのか?」

「はい。きちんと全員を1箇所にまとめてあります」

「じゃあ、悪いけど地下59階へ跳んでくれるか? 護衛依頼の最中だから俺が行くわけにもいかないし」

「了解です」


 迷宮魔法:転移は、使用者が触れている物も一緒に迷宮内へのどこにでも移動することが可能だ。

 気絶していても盗賊たちが触れていれば迷宮へ自由に跳ぶことができる。


「迷宮の地下59階……そういうことですか」


 メリッサさん……メリッサは、もう俺が何をやろうとしているのか分かっているみたいだ。


「『迷宮同調』を使えば俺がこれからやることもリアルタイムで分かるはずだけど、先に自分のステータスを確認しておいた方がいいぞ」

「私が眷属になれば魔法に特化したステータスになることは予想できていましたけど、このスキルは意外ですね」

「ああ、そのスキルは強力過ぎる」


 俺のステータスの1割分増強されているだけにもかかわらず、魔力だけならスキルの効果によって俺以上に強くなっているじゃねぇか。


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