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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第33章 氷結群雄
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第26話 神獣の露店

 クラーシェルでは氷神が倒されたことを祝う宴が催されていた。

 都市の大通りでは至る所に屋台が出されて様々な食べ物が振る舞われ、芸を披露して人々を楽しませていた。

 冬の備蓄を一気に解放する勢いだ。


 これは、クラーシェルの領主である伯爵の意向である。盛大的に祝うことで人々を活気付け、これからの大変な作業に備えて英気を養う。

 その効果はあったらしく、俺たちが駆け付けるまで暗い顔をしていた人たちも明るさを取り戻している。

 こういう光景を見られたなら少しは無茶をした甲斐がある。


 俺たちの目的地は、都市の中央にある広場。露店を出す場所は領主など都市の重役が厳正な抽選の元で行うことになっている。人を集めやすい場所、目立つ場所などに有力な商人、重役と親しい間柄にある商人が多い……全くの偶然だ。

 多くの露店が出されている状況の中で広場は最も人気が高い場所。それというのも広場の中心では暖かくする為の火が焚かれており、多くの人が集まりやすいからだ。

 有力な商人たちが保管していた商品を少しでも換金する為に開いた露店。


 そんな中で最も行列を成しているのが俺の目的地だ。


「へい、お待ち」

「熱いから気を付けるんじゃぞ」

「ありがとう」


 小さな男の子に人化した雷獣が串焼きを渡している。

 そして、串焼きを焼いているのは頭に手拭いを巻いた大男――炎鎧だ。


「おい、次が焼き上がったぞ」

「売り上げはどうだ?」

「おぅ、好調だぜ」


 外の雪融け作業へ赴く前に炎鎧から頼まれて様々な食材と露店を運営するのに必要な道具を渡しておいた。

 牛、豚、鳥、兎、馬……様々な食材が焼かれている。

 これらの肉は迷宮にいる魔物を利用したもの。露店では定価よりも安く売ることを領主から義務付けられている。近くにいる商人たちは赤字覚悟で売り、同時に恩を売ることで後の商売へ繋げることを目的にしている。


 俺たちには後の商売などない。しかし、迷宮の魔物を利用することで原価を抑えることに成功している。おかげで若干の利益を出すことができている。

 これもイリスの故郷への貢献だと思えば安いものだ。


 でも、迷宮の魔物となったミノタウロスの炎鎧が牛の肉を焼くのは二重の意味で共食いにならないのだろうか?


「おいしい!」

「肉っていうのは焼く時にコツがあるんだ。火の強さ、焼いている時間がしっかりとしていれば、どんな肉だって美味しくなるぞ」


 串焼きを食べた男の子の感想に炎鎧が笑顔になる。

 実際、俺は食材と道具以外に調味料を渡していない。調理するのが魔物である炎鎧なため味には全く期待していなかったためだ。

 焼き方だけで人を集めている。


 味と匂いに引かれた人々が次々に集まる。


「なんで肉の焼き方なんて知っているんだよ」

「あ? オレは人間を焼き殺していたんだぞ。焼き方を熟知しているのは人間だけじゃねぇ。あらゆる肉の焼き方に精通しているんだよ」


 なんだか納得いかないものの露店は盛況。

 肉の焼き方に精通しているのは事実なようだ。


「ま、売れているのはオレの実力だけじゃねぇよ」


 露店の前に並んでいる行列。


「都市を救った英雄の一人が串焼きを売っているのはこちらですよ」

「姉ちゃん、外壁の上で魔法を使っていたよな」

「そうですよ」

「あんたのおかげで助かったよ」

「……にしても、本当に美人だな」


 行列の奥の方では海蛇が混雑しないよう整理をしている。

 肩を露出させた服を着ており、美しい体を惜し気もなく晒している。その姿を目にした男性の気を引き、女性が自分たちを守る為に戦ってくれた一人だと知れば男たちは自然と行列へ並ぶようになる。

 今も海蛇の蠱惑的な姿に釣られた3人組の男が行列に並んだ。


「稼ぎは上々じゃ」


 裏方として働いている雷獣。

 肉の塊を切ったり、焼き上がった串焼きを渡したりと3人の中で最も忙しく額に汗を流して働いていた。


「無理をする必要はないぞ」

「無理はしておらんぞ」


 多く売っても得られる利益は少ない。

 あくまでも、神獣3人組が参加したいと言ったから許可しただけに過ぎない。


「問題ないわい。ワシらは楽しんで売っている」

「本当か?」

「こんな風に人間世界に溶け込んで働いたことなんてないからの。ワシだけでなく海蛇の奴もノエルの嬢ちゃんを通して外の様子を見ていて羨ましかったんじゃ。炎鎧の奴は、変なことをしないよう監視の為に参加させたのじゃが……」


 最も楽しそうに露店を営んでいるのが炎鎧のように見える。


「ワシらは好戦的な奴しか知らん」

「でも、楽しく焼いているようにしか見えないぞ」

「イリスの嬢ちゃんに倒されたことで、アイツの中で何かあったのかもしれんな」


 戦い以外にも興味を抱くようになった。

 それは、それで喜ばしいことではある。


「で、お主とアイラの嬢ちゃんはこんな所で何をしているんじゃ?」

「全員、自由行動中だ」


 朝から忙しく動いていた。

 シルビアとイリスはクラーシェルへ到着してからすぐにカンザスへ直行し、再びアリスターからクラーシェルへと戻ってきている。ほぼ一日中、走っている状態なため疲れていたのでシルビアは宿で休んでいる。

 メリッサとノエルは、クラーシェルへ救援に来てから常に魔法とスキルで都市を暖め続けていた。今も、少しでも早く雪を融かそうと暖めたままだ。露店で串を焼いている炎鎧も手伝っている。それでも、魔力の消耗が著しいため休んでいる。

 結果、あまり活躍のできなかったアイラだけが俺の傍にいる。


「お、嬢ちゃんも知っているぜ」

「イリスのパーティメンバーの一人だろ」

「こんな可愛い女の子ばかりなんて羨ましい限りだぜ」

「あは、ありがとう」


 アイラの紅い髪も目立つ。

 露店の状況を確認する為にちょっと目を離している間に冒険者に取り囲まれていた。彼らに悪意はない。純粋にクラーシェルでも有名な冒険者、そして再び都市を救ってくれたので一目でも姿を見ようとしている。


 囲まれたアイラもにこやかに対応しており、


「あそこの屋台、あたしたちがやっているの。ちょっと小腹が空いているなら寄っていかない」

「お、いいね」

「悪いが、俺は味には煩いぜ」


 海蛇のように冒険者を呼び込んで売り上げに貢献しようとしていた。


「おう! 肉はまだまだたくさんあるんだ。連れて来られるだけ連れてきな。全員にオレの串焼きを振る舞ってやるぜ」


 自分の前に並ぶ人の姿を見て機嫌をよくする炎鎧。

 張り切ってくれるのは構わないのだが、この調子だと並んでいる人々を長時間待たせることになる。あまりいいとは言えない。


「よし、あたしも手伝おうじゃない」

「おい、火には近付くんじゃねぇぞ」

「大丈夫よ。接客とかそっちの方を手伝うから。むしろ、雷獣の方こそ手が足りていないんじゃない」

「……さすがに手が回らないな」


 そういう訳でアイラが俺の護衛から外れて露店の手伝いをすることになった。

 ちょっとした遊びのつもりで許可しただけの露店なんだから、そこまで本気になって働く必要はないんだけどな。


「こいつらにとって最後に人と交流してから1000年以上も経っているでしょ。いくら、あたしたちと接しているとはいえ、もっと多くの人と触れ合った方がいいでしょ」


 少しでも楽しく。

 せっかく久し振りに外へ出てきたのだから平和に過ごしているのなら少しでも楽しませてあげたい。


「それに、あたしがやりたくなったの」


 楽しく露店を経営している姿を見てアイラも感化されてしまった。


「あんたはイリスの所へ行きなさい。少し前からだけど、ちょっと悩んでいるみたいだったから」

「それか……」


 俺も気になっていた。

 しかし、少し前にフィリップさんから答えは教えてもらっている。

 後は俺がどう対応するかだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 異なる種族でもやろうと思えば仲良く出来るという光景がじんわりきますね。 以前命懸けで争った相手が協力してくれると更に。 [一言] 炎鎧は焼き肉奉行だったのですね・・・。戦闘時の荒々しさと焼…
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