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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第33章 氷結群雄
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第22話 VS氷神 ⑤

「【炎拳(フレイムナックル)】」


 両手の拳に炎を灯す。

 先ほどと同じ失敗は繰り返さない。爆発させるのではなく、最初から炎を灯していれば簡単に凍らされるのを防ぐことができる。


『もはや頭を垂れたところで許すつもりはない!』


 氷神の周囲にいくつもの氷のバラが花咲き、根元から氷で造られたバラの茎が伸びて全員へ襲い掛かる。

 シルビアがすり抜け、アイラが屈んで跳んで回避する。


 氷の茎が地面を打って抉られている。

 近くにいた二人だけでなく、俺たちの方へも迫る。イリスを守るため氷の茎を掴む。氷そのものを素手で掴むなど普通の状態なら考えられないが、今は手に炎を灯している。氷にも耐えられる。


「……ん?」


 手に妙な感覚を覚えて手を放す。

 すると、放された氷の茎から鋭い棘が生えているのが見える。


「触れられると感知して棘を生やすのか」


 シルビアやアイラのように回避せず防御すれば棘によって抉られることになる。


『ならば、これならどうじゃ』


 バラの数が増え、伸びた茎が縦横無尽に荒れ狂う。

 茎の半分以上が俺へと向けられている。これまでのやり取りから俺がリーダーであることは明白。主である俺が倒れれば全員が倒れることになることを知らなくてもリーダーを倒すことで動揺させることを目的にしている。


 しかし、その程度のことは最初から想定内。

 炎を灯した両手を襲い掛かる氷の茎へ何度も叩き付けて落とす。


「【爆発(エクスプロージョン)】」


 掴んだ茎に魔力を叩き込んで魔法を発動させる。

 茎の先端であるバラへ魔力が到達すると爆発を起こす。


『くぅ……!』


 バラは氷神の周囲に存在している。

 近くにいた彼女も爆発の影響を受けて炎に包まれている。

 爆発の炎に向かってシルビアとアイラが剣を振るい斬撃が迸る。


「斬れていない……!」

「別の物を斬っています」


 女性の体とは違う物を斬った感覚を覚えて二人が氷神から離れる為に跳ぶ。


「【(ウィンド)】」


 メリッサの巻き起こした風が爆発によって発生した煙を吹き飛ばす。

 姿が露わになった氷神の周囲には氷で造られた6つの六角形の盾が守るように浮かんでいる。実際、彼女を守る為に用意された盾だ。


『騎士よ--』


 盾が前へ移動する。

 氷の盾を持つように氷の騎士が新たに生み出される。


 時間にして十秒にも満たない。今までに倒してきた氷の騎士は復活するまでに数分の時間を要していた。復活までの間隔が短くなっている。


『妾がその気になれば、この程度のことは簡単じゃ』


 氷の騎士が前進を始める。

 そして、氷神の周囲では新たな氷の騎士が生み出され続ける。


「ノエル」

「え、気温は高いままだけど」

「どうやら氷の強度も上がっているようですね」


 真夏並みの気温。

 にもかかわらず、氷神によって造られた氷の騎士には溶ける様子がない。


『本気で造った騎士たちじゃ。少し暑くしたぐらいで戦闘不能にできるとは思わないことじゃな』


 あっという間に氷の軍隊が形成された。

 ここへシルビアとアイラを突っ込ませるのは危険だ。


『ふふっ、神である妾は無限に力を使い続けることができる。そして、この場には氷の騎士を造る為に必要な材料が豊富にある。圧倒的な数の力を前に成す術もなく倒されるがいい』


 規則正しい動きで氷の槍を構えた騎士が突っ込んでくる。

 数百人の氷の騎士。普通の冒険者が一人で遭遇したなら絶望し、パーティであっても全てを諦めざるを得ない物量。


「残念ながら数で戦えるのはそっちだけじゃないんだよ」


 後ろへ跳んで氷の軍隊から離れる。

 跳びながら踏み付けた場所に魔法陣が描かれる。水面から上がるように魔法陣から出現するのは金属の鎧を纏った騎士。


『ど、どういうことじゃ……!』


 召喚された数百の騎士を目にして氷神が慄く。

 せっかく用意した氷の騎士と同程度の数を誇る金属の騎士が現れた。


 氷の騎士と金属の騎士による軍隊が睨み合う。


「お前なら気付いているかもしれないけど、こっちは迷宮主だ。俺が管理する迷宮は深い。この程度の数は常に揃えられている」


 神殿フィールドから喚び寄せた動く鎧(リビングアーマー)

 鎧の中身はなく、侵入者を排除する命令を忠実にこなす騎士。

 今回は、目の前にいる氷の軍隊が敵。敵を排除する為に戦闘を開始する。


『征け――』

「――倒せ」


 二つの軍隊が衝突する。

 氷の騎士による剣や槍の攻撃が金属鎧を削る。それでも、金属鎧の動きは止まらず氷の騎士の体を掴むとギチギチと潰す。

 攻撃を受けながら氷の騎士を倒そうとしている騎士の周囲では剣を持った騎士が氷の騎士を斬っていた。


 金属鎧の騎士の方が強い。

 だが、尽きることのない氷の騎士の軍勢の前では金属鎧の騎士が何十体と倒したとしても次々に補充される。


『これだけ強力な魔物を大量に喚び出すか。相応のリスクがあるはずじゃ』

「当然。魔力の消費は半端ない」


 動く鎧を召喚した際に膨大な量の魔力を消費している。

 今も氷の騎士を倒す為にステータスを強化し、スキルを使用させていることで迷宮の魔力を消費している。

 迷宮の魔力を補充するのは簡単ではない。

 本来なら、迷宮の魔力に手をつけるような真似はしたくなかった。


「お前のせいで俺は右腕を斬り落とす羽目になった。イリスの故郷を襲って今も彼女を悲しませている。もう、出費なんて関係ない。俺はお前を倒すと決めた」

『倒す――? 神である妾を倒すなど絶対に不可能じゃ!』

「そうでもないさ」


 神気を消費して氷の騎士を造らせる。

 神気を消耗することによって氷神の中にある神格が大きく震える。もちろん、その震えを普通の人間が感知することはできない。俺にだって“何か”が震えているのは感知できても完全に捉えることはできない。

 しかし、こっちには神気を捉えられる『巫女』がいる。


「それに俺にばかり気を取られ過ぎだ」

『なに……?』


 氷神が気付いた時には氷の騎士の軍隊の上空にメリッサがいた。

 空を飛ぶメリッサの持つ杖からマグマが溢れ、地上にいる氷の騎士へ雨のようにマグマが降り注ぐ。


 マグマに押し流される氷の騎士。

 氷の騎士はマグマに耐えられず溶かされる。しかし、溶かされる状況に耐えながら隣の騎士と体を寄せ合って盾になる。


『ふんっ!』


 氷神が神気を送り込むと氷の騎士が形を変えて巨大で分厚い壁となる。

 氷の騎士を押し流すマグマは氷神も呑み込もうとしていた。相手は神とはいえ、氷の神であるから呑み込まれればマグマには耐えられない。


『たとえ気温が高くなろうとも、この程度はどうということはない』


 指をパチン、と鳴らす。

 すると氷神の周囲を覆っていたマグマが凍り付く。

 再度、氷神が指を鳴らすと凍っていたマグマが砕けて破片となる。


「――視えた」


 ノエルが小さく呟く。

 気温を上昇させて以降は、後方でずっと待機させていたノエル。彼女にはずっと意識を集中させて氷神を探ってもらっていた。


 錫杖を投げる為に構える。

 狙いを氷神のある一点へ向ける。


『マグマで妾を攻撃する――全くの無意味じゃ。たとえ攻撃が成功して妾を巻き込むことができたとしても神である妾を倒すには至らない』


 神には絶対の不死性がある。

 たとえ『氷』の弱点である『炎』や『マグマ』で攻撃したとしても神である以上は普通の攻撃ではダメージを与えることができない。

 これが『神』が絶対である理由。

 人間は神の前では無力。


『じゃから、さっさと諦めるんじゃな』


 俺たちが倒されれば、上昇した気温も元に戻る。それに、これだけ派手な攻撃をした俺たちで敵わないのだから誰もが諦める。


「そういう訳にもいかないさ」


 横にズレる。

 錫杖を構えたノエルと氷神が一直線に並ぶ。


「これで神も倒せる」

『な、に……?』


 胸にポッカリと大きな穴が開いた自分の体を見ながら氷神が呆然と呟く。

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