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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第33章 氷結群雄
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第21話 VS氷神 ④

 王を守る特別な騎士である近衛騎士に守られた氷神。

 氷神の周囲を守る近衛騎士の鎧には普通の騎士の鎧にはない角や飾り、装備している剣と盾には複雑な紋様が彫られている。

 氷から造形されることと戦力としての意味から考えると全くの無駄にしか思えない。それでも、女王のように振る舞うことに意味を求めている氷神にとっては必要なことなのかもしれない。


『つくづく癇に障る奴らじゃ……』


 氷の椅子に座り、右手で頬杖をついたまま氷神が呟いた。


『神の邪魔をするなど不遜な人間どもめ!』


 左手の人差し指を正面へ向ける。

 指先から全てを凍て付かせる光が放たれる。真っ直ぐに氷神の元へ走っているだけの俺たちの元へ届くのは一瞬の出来事。


 だが、その一瞬の間に俺たちの手前まで到達した光がグニャリと曲がり、20メートル左にある雪の上を抉る。

 光を受けた雪の上に氷柱が生まれる。


『なん、じゃと……?』


 困惑から氷神が再び呟く。

 真っ直ぐに飛んで行く光。狙いが外れて別の場所に当たったのなら分かる。しかし、曲がってしまう理由が分からない。


 意識を切り替えて再び光を放つ。

 ただし、今度は人差し指と中指の両方から同時に光を放つ。


 2本の光が空中を飛び、先頭を走るイリスへと到達……しようとした直前で何かに弾かれたように曲げられてしまった。

 同時に放たれた2本の光が同時に左右へと曲げられた。見ることのできない何かがあるのは間違いない。


『ええい、鬱陶しい!』


 頬杖を止めて両手を正面へと向ける。

 相手が自分の攻撃を防御するなら正面から打ち破るのみ。それが、神としての彼女なりの矜持。


 2本撃っても防がれる、というのなら最大数で攻撃するのみ。

 両手にある全ての指から青い光が放たれる。


「くぅ……」


 2本の時と5倍になった威力。

 さすがに弾き飛ばすのは難しく、咄嗟に足を止めてしまったイリス。自然と後ろを走っていた俺たちも足を止めてしまう。


「耐えてくれ」


 足を止めたイリスの肩に手を置く。

 魔力を送り込むことで氷神の攻撃を防いでいるイリスの【迷宮結界】が攻撃に耐えられるよう補強する。

 魔力の譲渡は可能だが、個人で性質が違うため譲渡された時にロスが生じてしまうため効率がいいとは言えない。しかし、俺とイリスの間には『主』と『眷属』という繋がりがある。その繋がりが可能な限り、二人の性質を近付けてくれるおかげで消耗を抑えることができる。


 より強力になった結界。

 氷神の攻撃にも耐え、結界の外側だけが氷に覆われていた。


『戯け、これで終わりなはずないじゃろ』


 一度目の総攻撃が防がれたならば二度目、三度目と続けて攻撃すればいいだけ。

 再度、全ての指先へ神気が集まって攻撃が放たれようとする。

 しかし、十分に近付くことができた。


『む……』


 左右に一つずつ。至近距離に存在している二つの火球を見て氷神が唸る。

 接近される直前まで気付くことができなかった。女王としての見栄えを重視して近衛騎士に神輿を担がせている。たしかに女王らしい見栄えになったものの簡単に方向を変えることができず、動くのも遅い乗り物。

 至近距離、おまけに小回りが利かないこともあって回避は不可能。

 正面に放つ為に準備していた手を左右へと向けて火球を攻撃する。光に貫かれた火球が一瞬で氷に覆われる。本来、氷神の放つ攻撃は全てを凍らせる。それは、対象が炎の塊だったとしても氷の塊へ変えるほどの威力がある。

 しかし、今の氷神にとって問題なのはギリギリ接近されるまで気付くことができなかったことのはず。


『いったい、何故……!』


 考えていられる余裕はない。

 凍らされて雪原の上に落ちた氷球の向こうから二人の女性が姿を現したからだ。

 一人は氷球をすり抜けたシルビア、もう一人は凍らされることを予期して凍ると同時に斬り裂いたアイラ。


『チィ、騙された!』


 火球は攻撃の為ではなく、二人の姿を隠す為に放たれたもの。

 そして、直前まで気付けなかったことにも理由がある。魔法で火球を作り出したメリッサ、その際にシルビアが【隠密】の効果を付与していたおかげで近付く火球の気配を極限まで薄めることに成功した。


『迎え撃て、近衛ども!』


 豪華な装備を与えられた氷の騎士たちが斬り掛かる。

 真っ先に接近してきた近衛騎士をアイラが斬り伏せ、近衛騎士の攻撃を紙一重で回避したシルビアが短剣を腰へ押し当てて両断する。

 二人の役割は氷神の周囲を守る近衛騎士の排除。


「ほら、飲め」

「ありがとう」


 完全に排除されるまでの間に道具箱から取り出した魔力回復薬(マジックポーション)をイリスに飲ませる。


「うぷっ」


 満腹感を覚えているイリスが口を手で押さえる。

 失った体力や魔力を回復させることができる回復薬だが、その効果を十全に得られるのは最初の内だけ。短時間の間に何度も服用していれば効果は薄れ、最悪の場合には拒絶反応を起こすことがある。

 何事も適量が大切。そして、イリスはクラーシェルで待機している間に俺の右腕を戻す為に【施しの剣】を使用したことで失った魔力を取り戻そうと大量の魔力回復薬を服用していた。既に限界近い量を飲んでいる。


 本来なら留守番でもさせるべき状態。

 それでもイリスは無理を言って俺たちについてきた。


 ――故郷を守りたい。


 彼女の願いに全力で応えるつもりでいるが、それでもイリスは不安だった。自分の故郷が危険に晒されている状況で自分だけが休んでいられない。

 失った魔力を半分程度まで回復させると立ち上がる。


「お前の力は最後には必要にさせてもらう。それまでは休んでいろ」

「……そう、させてもらう」


 立ったままだが、イリスが体から力を抜く。

 イリスは与えられた役割を十分に果たしてくれた。彼女の役割は、俺たちを無事に氷神の近くまで届けること。氷神の撃つ氷の光は厄介。一発でも受けることで氷漬けにさせられてしまう。だからこそ【迷宮結界】を頼りにさせてもらった。

 破壊が不可能な結界は、神でも破壊することができなかった。


「二人とも、準備はいいな?」


 隣にいるノエルとメリッサに尋ねる。


「さっさとやっちゃおう。寒くて仕方ない」

「こちらは問題ありません」


 シルビアとアイラが氷の近衛騎士を相手に奮戦している。

 残るは5体。氷の騎士程度では二人の進撃を止めることは叶わない。

 そんな姿を見せられて二人もやる気になっている。何よりも最初は置いていかれたため活躍したくてウズウズしている。


「【快晴】」


 ノエルが【天候操作】を使用して炎鎧の能力の範囲外にいるため上空にあった雪を降らせる雲が晴れていく。次第に太陽の隙間から陽光が届くようになり、そのうち雲が完全に押し流されることになるだろう。


「【炎天】」


 さらに空気を乾燥させるほどの熱が降り注ぐ。

 多くの植物を枯らせたことのある熱気が周囲の気温を上昇させる。


「「【炎獄(フレイムプリズン)】」」


 対象の周囲を炎で覆う魔法。

 メリッサと協力して氷神のいる場所を中心に広く炎で囲む。地獄のような熱気が雪を溶かす。


 空から降り注ぐ熱気。

 地表から溢れる熱気。

 二つの熱気によって雪が溶かされて地面が見えるようになる。


 そして――ある物を溶かす。


『う……』


 氷で造られた神輿と椅子。

 どちらも氷で造られているため真夏の熱によって溶かされる。


 座っていた場所と立っている場所。

 両方が溶かされたことで地面へと放り出された氷神が尻餅をつく。


 その様子を近衛騎士を斬り倒したアイラとシルビアが近くから、魔法とスキルを使用した俺たちが遠くから見ていた。


『くっ、お主ら……!』


 氷神が怒りで体を震わせる。


 人間の前で神が尻餅をつく。

 彼女にとって、これ以上の屈辱はない。


『妾の芸術を邪魔しただけでなく、このような屈辱まで味わわせるとは……!』


 椅子と神輿を失った氷神が立ち上がる。

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